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第116章 新税制で天下り先公益法人を“救済”/「一般社団・財団法人」に税制優遇
(2008年11月11日)
12月1日から施行される新しい公益法人制度の税制で、従来の公益法人(約2万5000法人)は「公益法人」と認定されなくても、新たに設けられる「一般社団・財団法人」に移行さえすれば、税制優遇をこれまで通りに得られる仕組みとなっていることが判明した。昨年12月の税制改正でこの仕組みが導入され、政令(「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」施行令)で明文化された。
国税庁が認定権限
法令によると、旧公益法人が「一般法人」に移行して「非営利性が徹底された法人」「共益的活動を目的とする法人」に認定されると、「寄付優遇」以外の税制優遇を得ることができる。認定権限は国税庁が持つ。
優遇の内容は、収益事業にのみ法人税として課税される(税率30%)ことと、受取利子等に係る源泉所得税と登録免許税について課税されることを除けば、従来の公益法人と同様に税の減免措置が全面的に適用される。
これに対し、こうした認定をされない「一般法人」は、普通法人として民間企業と同様に税を納めなければならない。
これにより、官僚OBの天下り先として行政委託事業を独り占めしてきた財団法人「郵政福祉」など役所の共済団体が、新制度下で従来の「公益法人」から「一般法人」に姿を変えて税制優遇を得ることができるようになる。さらに、JAF(社団法人・日本自動車連盟)など業界団体や各都道府県の法人会のような旧公益法人も、税制優遇を得られるならムリして「公益法人」となろうとせず、「一般法人」の道を選ぶのは必至だ。
「公益法人」と「一般法人」との税制優遇の違いは、公益法人だと寄付をした個人や法人が、寄付金を所得額から控除できる寄付優遇を得られることくらいで、他はほとんど変わらない。
役所系、民間系の共済団体とも、これまでは主務官庁によって「公益法人」と認定され、活動してきた。しかし新制度では、国と都道府県の民間有識者から成る第三者機関が「公益活動の基準を満たしているかどうか」を審査して「公益法人認定」の可否を決める仕組みとなる。このため、各種共済団体はいずれも、公益法人の認定基準となる「不特定多数に対する公益活動」には該当しないとして、「公益法人認定」は困難とみられていた。
総務省によると、保険や施設管理などの周辺業務も含めた広義の共済団体でみると、その総数は990(うち国所管128、都道府県所管862)。うち、会員の生活向上を図るなど本来の共済活動に専念する共済団体の数は計598法人(うち国所管77)。税制改正のお陰で、これらの共済団体は「一般法人」に衣替えすることで、難なく税負担を軽減できるようになる。
天下り規制なし
新制度によると、旧公益法人は5年以内に「一般社団・財団法人」か「公益社団・財団法人」のどちらかに移行できる(ただし期限内に移行申請しなかった場合、法人は解散となる)。
仮に一般法人を申請し、税制優遇扱いを受けようとする場合、対象となる法人について、一定の要件が満たされていなければならない。たとえば、「非営利性が徹底された法人」については、「定款に余剰金の分配を行わない旨の定めがあること」など4つの要件がある。「共益的活動を目的とする法人」については、「会員に共通する利益を図る活動を主目的としていること」など7要件。
要件に共通する特色は、新公益法人について(第114章参照)と同様に、一般法人においても官庁OBの天下り規制が一切排除されたことだ。要件の中にはそれぞれ「理事及びその親族等である理事の合計数が理事の総数の3分の1以下であること」との“理事一族支配”の制限項目はあるが、官庁からの天下り理事の制限要件はない。一般法人の税制優遇を定めた政令作りの際に、官僚がそのように決めたのである。 ちなみに、公益法人白書によれば、公益法人のうち国の指導監督基準に違反して「所管官庁出身の理事数が全体の3分の1を超える法人」は、07年10月時点で計648法人(うち国所管160)ある。新制度では、補助金などの交付権限を持つ官庁からの天下りは事実上「野放し」となったのだ。
しかも、新制度の「一般法人」には、さらなる“恩恵”が盛られてあった。
ある法人会(社団)の事務局長が筆者に胸の内を明かした。「ウチは初めは公益法人になろうと思ったが、その後の国側の説明を聞いて、一般法人として(法人会活動を)問題なくやっていけるという感触を得た。一般法人は公益法人とは違って規制を免れるのでやりやすい。当法人も考えを変えて、一般法人としてやってみることになるだろう」
一般法人はたしかに公益法人に比べ、遙かに自由に事業を展開できる。公益法人が「公益目的事業比率を100分の50以上にしなければならない」など公益認定基準の順守が義務付けられるのに対し、一般法人は公益目的支出計画の実施状況報告が求められるだけ。
「法人の創意工夫により公益的な事業はもとより柔軟な事業の展開が可能。原則、法人の自主的な運営が可能」と公益認定等委員会事務局は指摘する。
一般法人に対しては、事後チェックも行政庁による監督もない。そうなると、規制がうるさく税制面のメリットも薄い公益法人への申請は避け、一般法人となって税制優遇を得て、自由に事業展開する道を選ぶ法人が増えるのは必然の成り行きだ。
制度改革を歪める
こうした新制度を前に、共済団体、業界団体はどう動くか。
まず、旧郵政省(現・日本郵政グループ)職員の共済団体である「郵政福祉」は、どうか。同財団は、郵政省職員の共済3団体(郵政弘済会、郵政互助会、郵政福祉協会)が05年10月に統合・発足した。
旧郵政職員の共済事業と並行して、旧郵政省から独占的に全国の郵便局舎の清掃・管理やパソコン、金庫、伝票類などの備品納入事業から郵政局舎の建設まで受注して事業を拡大。07年10月の郵政民営化スタート前の統合で、総資産が4491億円にも膨らんだマンモス法人だ。同法人自身も清掃業務などを丸投げした郵政3事業のファミリー企業数は、旧道路4公団を上回り、07年6月時点で32公益法人を含め219社。これらのファミリー公益法人、子会社、関連会社に所管官庁の総務省と旧郵政公社OBが数多く天下ったのは言うまでもない。
このファミリー企業の中核を成した「郵政福祉」も、一般法人となって、税制優遇を申請するのは時間の問題とみられている。
業界団体の代表格「日本相撲協会」も、「公益法人」ではなく「一般法人」として運営していく方向だ。同協会は日本の伝統文化の継承・発展のため、早くも1925(大正14)年に財団法人に認定されているが、いまや収益事業のウエートが高く、委員会の「公益認定」は至難だ。
JAFはどうか。同社団は1963年の発足当時から道路行政を担う警察庁と旧運輸省(現・国土交通省)のOBを常勤の会長や専務理事に据えてきた。現在も会長の田中節夫氏は元警察庁長官、専務理事は元国土交通省技術安全部長だ。業界団体に所管官庁のOBが天下る構図である。このJAFも一般法人→税制優遇申請のコースを進むのは確実だ。
以上を総括してみると、公益法人制度改革は、新制度の法律が06年6月に公布されたあと、“後出しジャンケン”のように新税制が決められ、これが制度改革の骨格を歪めてしまった。新制度のオリジナル・シナリオでは、税制優遇を得られるのは公益法人だけで、一般法人は「普通法人並みに課税」とされていた。それが「共済団体・業界団体」救済型のシナリオが税制論議で急浮上、昨年末になって、一般法人を「課税」と「税制優遇」の2階建てとする案が突如として具体化したのだ。
しかしこの結果、新公益法人の税制上のメリットは「寄付優遇」のみと、特定公益増進法人と同じ扱いとなり、民の公益活動への税制面からの推進力を弱める一方、旧公益法人の天下り先団体を事実上救済することで、制度改革のせっかくの成果が骨抜きされてしまったのである。