■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第114章 官の「仕掛け」で骨抜き/公益法人改革が危うい
(2008年8月27日)
1898(明治31)年に施行された現行の公益法人制度が今年12月1日、110年ぶりに新制度に移行する。
各省庁の「許可」で乱立したした公益法人(社団法人および財団法人)は現在約2万5000。新制度ではこれが、一般社団法人・一般財団法人と、第三者機関によって「公益性」を認定された公益社団法人・公益財団法人とに分けられる。特殊法人や独立行政法人などと並び、所管官庁の主要な天下り先であり、税金のムダ遣いの温床の一つとなってきた公益法人の刷新が目的だ。
だが、関係法令を筆者が仔細に調べたところ、「官益」を守るための仕掛けがいくつもあることが判明した。
このままでは、問題含みの「官益」法人がそっくり新公益法人に移行し、ぬくぬくと生き延びることになるのは必至だ。
まず、新公益法人のポイントをみよう。最大の眼目は、設立に官庁の許可を必要とした主務官庁制を廃止し、一般社団・財団法人は登記のみで設立できるとしたうえで、そのうち「公益性」の基準を満たした法人のみが公益社団・財団法人として認定されることである。認定は、2013年までの移行期間中に、民間有識者からなる第三者機関(国および都道府県公益認定等委員会)が公益法人認定法に基づいて行うという、“開かれた”仕組みである。
これにより、存在意義のあいまいな公益法人が官庁の裁量で設立され、官庁OBの天下り先となって補助金や業務契約を独占するという、従来の問題は解決されるはずであった。公益性に乏しい法人でも一般社団・財団法人になれるが、公益法人のような税制上の優遇が受けられないため、生き残りは難しくなる。
「何でもあり」の認定基準
ところが、新制度の根拠となる法令(公益法人認定法など3つの法律とそれぞれの政令、府省令など)を調べると、そのような展開にはなりそうにない。
問題の一つは、新たに公益法人に認定されるための基準である。「公益事業比率が50%以上」が原則だが、その「公益事業」23種の定義が実に大雑把にすぎることだ(表)。これは、既存の公益法人の事業すべてが23種のどれかに当てはまるように、あるいは新たに作る法人についても、よほどのことがない限り当てはまるように作られたとみられるのだ。
例えば、17番目に挙げられた「国土の利用、整備、保全」を使えば、国土を開発する法人も保全する法人も公益認定が可能となる。ドイツなどで公益性の基準となっている「動物愛護」は見当たらないが、内閣官房の説明によれば、9番目の「豊かな人間性を涵養」に含まれるという。23番目の「公益に関する事業として政令で定めるもの」に至っては、まさに「何でもあり」だ。
そして、官にとって特に重要なのが、18番目の「国政の健全な運営確保に資する」だ。
今回の制度改革の端緒は、主務官庁からの補助金や委託費を主な収入源として行政代行的な業務を行う「行政委託型法人」における「無駄遣い」が問題視され、法人の必要性そのものが問われたことだった。だが、内閣府に設置された公益認定等委員会事務局幹部によれば、「これで(行政委託型法人の)すべてが公益認定されることになる。いまある公益法人をつぶすことにはならない」という。この基準であれば、現行の行政委託型法人のすべてが当てはまるというのだ。「官益」法人は、申請さえすれば「国政の健全な運営確保に資する」を根拠に「公益法人」と認定されるのは確実なのである。
このような基準を決めたのは、各省庁からスタッフを集めて作られた内閣官房行政改革推進事務局である。04年に最終報告をまとめた「公益法人制度改革に関する有識者会議」(座長・福原義春資生堂名誉会長)は、現行制度では主務官庁の裁量に任されている「公益事業の定義」を明確化することが重要としつつ、肝心の明確化作業を見送った。それが、法の策定段階で官僚に公益事業の基準作りを委ね、つけ込むスキを与えたといえる。
内閣官房はこうした作業と並行して、「行政と密接な関係にある公益法人」のうち350法人について行政の支出のムダを探る集中点検を行った。だが、7月4日に発表された結論は、42法人への事業発注を随意契約から一般競争入札に移行させ、82法人で発注事業を見直すというだけで、法人の存廃については、1法人の解散と1法人の「解散を含めた検討」にとどまった。道路財源の無駄遣いが指摘された国土交通省所管の公益法人については4月、問題の50法人を3年間で16法人に削減する方針が出されたが、16法人を残す理由はあいまいだ。
新公益法人制度の2つめの問題は、官庁OBの天下り規制が法令から一切排除されたことだ。現行の公益法人の指導監督基準は、天下り規制について次のように記されている。
「理事のうち、所管する官庁の出身者が占める割合は、理事現在数の3分の1以下とすること」。
天下りが問題視される中、新制度では、規制がさらに厳しくなると考えるのが普通だ。だが、公益認定等委員会事務局幹部によれば、天下り規制についての項目は、立法化作業の過程で排除されたという。これでは、現行の公益法人が新公益法人に移行すれば、「天下り・業務独占受注」の関係はそのまま新制度に持ち込まれる。規制がないのをいいことに、天下りの規模が拡大する可能性もある。
「天下りの抜け道になるのではないか」との筆者の問いに対し、同幹部は「天下りの問題は、これとは別の制度の話となる」と回答した。年内に設立が予定され、公務員の再就職斡旋を一括管理する「官民人材交流センター(新・人材バンク)」の仕事だという意味だろう。だが、同センター設立を柱とする天下り規制は、従来の事前規制をやめ、「公務員OBによる働きかけ行為を退職後2年間は禁止」し、その状況を事後チェックするというもので、筆者も含め、逆に天下りを増やすとの見方もある。
NPOとの官民格差
税制についても、見過ごせない仕掛けがある。新公益法人は、NPO(非営利団体)法人に比べ、税制上の優遇がはるかに大きいことだ。
NPO法人はほとんどが民間で自主的に組織されたもので、“官製”色の濃い公益法人とは成り立ちが異なる。だが、公益法人の主務官庁制が廃止され、補助金の“垂れ流し”や業務の独占もなくなるとすれば、双方の性格はさほど変わらなくなるはずだ。実際、公益法人改革のスタート時には、両者を統合する全く新しい非営利法人制度が構想されたこともあった。
だが、結果として、公益法人とNPO法人は別々の存在として残ることになった。非営利活動団体に対し「1国2制度」となったのだ。
NPO法人についても、02年から「認定NPO法人」制度が始まり、公益性を認められた法人については寄付金の所得控除などの優遇が行われている(個人の寄付の場合、寄付額から5000円を差し引いた金額をその個人の所得から控除するなど)。認定NPO法人であれば、税制優遇の内容は、ほぼ新公益法人と同じである。
だが、NPO法人においては「公益性」の認定が厳しい上、優遇の適用期間が5年間(4月の申請分以降、それ以前は2年間だった)に限定されている。
当然ながら、認定NPO法人は約3万5000に上るNPO法人中、0.3%の89法人(7月1日時点)と、きわめて少ないのが実情だ。
これに対し、新公益法人は、認定されれば自動的に税制優遇が適用され、その適用期間も取消処分がない限り無期限。しかも現行の公益法人は、問題含みの「官益」法人までが、軒並み新公益法人に認定される見込みなのだ。
同じ公益活動を行いながら、「官」出身か「民」出身かで税制上、大きな差をつけるようなことがあってはならない。
新公益法人制度の危うい芽は、ことごとく情報公開で明るみに出し、早急に摘まなければならない。