■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
特別会計の誘惑と罠/無責任国家の正体(6)
(2011年12月22日)
国民の税金や保険料を「わしらのカネ」とばかりに、官僚が予算を浪費してしまう背景に、特別会計の誘惑がある。各府省が独自に管理し、毎年度、特定の事業に予算を付ける―。この自分たちの裁量で巨額のカネを動かす権限が「わしらのカネ」意識を助長するのではないか。 「いま、手元にある使い勝手のいいカネ」の危険が、17ある特別会計(特会)につきまとう。
特会の誘惑は、年金特会に限らない。
「各(原子力関係)プロジェクトについて、具体的に何をいかなる単価で購入するのか、何人をいかなる期間、いかなる単価で作業に充てるのかが明示されておらず、積算根拠がきわめて不透明」。 11月、政府の「政策仕分け」で、原子力関係研究開発の予算要求に対し、こう指摘したのは査定する財務当局だ。
文部科学省と経済産業省の原子力関係予算は、来年度の概算要求で計4600億円超。福島原発事故にもかかわらず、高速増殖原型炉「もんじゅ」を含む研究開発費・維持管理費を膨らませ、今年度当初予算より約400億円も増額させた。
「もんじゅ」は、MOX燃料(ウランとプルトニウムの混合酸化物)を使用し、運転しながら消費した量以上の燃料を生み出す高速増殖炉の原型炉。2050年までに実用化(商業炉完成)を目指す国家プロジェクト、と位置付けられている。
91年に試運転を開始したが、95年のナトリウム漏れ事故以来、トラブル続きで運転休止に追い込まれ、本格運転のメドは立っていない。「もんじゅは、すっかりお荷物になった」と経産省幹部は語る。
原子力関係予算は来年度も4600億円
「政策仕分け」で問題が2つ浮き彫りとなった。1つは、福島原発事故でエネルギー政策・原子力政策が見直されている中、もんじゅプロジェクトの来年度概算要求に、「本格運転に向けた『出力プラント試験』を実施できるか否か明らかでない」との理由から「対応調整費」の名目で22億円を付け加えたことだ。 これだと、研究開発費と合わせると来年度予算は計215億円となり、今年度予算の216億円とほぼ同額になる。つまり、予算が削られないように、新しい理由をこじつけてきたのである。
財務当局は、こう指摘した。「現在、出力プラント試験は何ら行われていない。これが果たして研究開発と言えるか。・・・このプロジェクトに、今後の展望はあるのか」。
全くその通りである。
だが、この裏側にもう1つの問題が潜む。「ではなぜ、当の財務省はこれまでに同じように厳しい姿勢で原子力関係予算を査定してこなかったのか」である。皮肉にも従来のずさんなチェック機能が、浮かび上がったのだ。
もんじゅプロジェクトは、独立行政法人(独法)の日本原子力研究開発機構が国のエネルギー対策特別会計から運営費交付金(人件費など)や補助金等を受け、進めてきた。 この特会の資金は、目的税である石油石炭税と電気料金に含まれる電源開発促進税からなり、一般会計を経由して繰り入れられる。つまり、資金の大元は国民や企業からの税収だ。
ところが、同機構の前身の特殊法人「核燃料サイクル開発機構」が解散して独法化された日本原子力研究開発機構が05年10月に新設された際、2.5兆円にも上る欠損金の「損切り」(「含み損」の損失処理)が行われた。 研究開発法人への投資などが回収できずに穴をあけ、なんと消費税1%分にも相当する巨額の損失が明るみに出たのだ。
予算を湯水のごとく浪費する「構造」に、メスをしっかり入れなければならない。