■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
法令が年金流用を後押し/無責任国家の正体(4)

(2011年12月19日)

国民の年金不信は“逃げ水年金”のせいばかりではない。年金官僚が過去に年金積立金を湯水のごとく浪費した記憶が生々しいからだ。 年金保養施設「グリーンピア」に象徴されるハコ物(施設)事業はことごとく経営破綻し、ムダ遣いの山を築いた。
なぜ、官僚の裁量でこのような大それたことができたのか―。
答えは、施設事業ができることを官僚自らが作った法令で定めていたからである。法令で、結果責任を負わされることなく存分に事業を拡大し、天下り先を増やせる仕組み作りをしていたのだ。
どんな法律が問題だったのか。批判を受け、08年に廃止される以前、厚生年金保険法第79条には次の規定があった。
〈政府は、被保険者、被保険者であった者及び受給権者の福祉を増進するため、必要な施設をすることができる〉
「『することができる』という妙な表現だったが、ともかくこの法律で施設事業を合法的にできた」と年金官僚OBは振り返る。法律に基づいて立ち上げ、運営した事業だから「やましい点はない」というわけだ。
旧厚生省はこの年金法を根拠に、施設事業に乗り出した。事業団設置法をつくって設立した特殊法人「年金福祉事業団」(2001年解散)がグリーンピアの建設・運営を担った。

1953億円かけたグリーンピアは結局48億で売却

グリーンピアは80年から全国に13施設造られ、結局は大損を出して05年度までに廃止・売却された。建設費は1953億円、売却総額はわずか48億円。施設修繕費、人件費などの運営費や施設解体費も、むろん年金資金から賄われた。
グリーンピアだけではない。年金財源から1.5兆円超を投じて造った300に上る、サンピア、厚生年金会館などの「年金福祉施設」も、昨年までに売却されている。 「年金福祉施設」は国が国有財産として設置し、公益法人が委託を受けて運営する方式がとられた。これらの施設を運営する公益法人は全国で94法人に上り、年金官僚が天下った。年金が給付以外の邪悪な目的に大規模に流用されたのだ。
しかし、流用された保険料は、年金だけではない。旧労働省は失業手当に充てる雇用保険料を流用して全国に「中野サンプラザ」や「スパウザ小田原」のような「勤労者福祉施設」をなんと2070も造った。挙げ句、すべて売却・譲渡に追い込まれた。 サラリーマンと企業が折半して納めた雇用保険料も、年金同様に施設事業に流用されたのだ。だが、事業破綻と年金流用の責任は一切取られていない。

いま、厚労省が、廃止された施設事業に代えて年金保険料を使って行う活動は「年金事務」だ。社会保険庁を衣替えした日本年金機構への運営費交付金を加えた09年度の年金事務費は計467億円。 この「事務費」が再び悪用される危険性は、大いにある。なぜなら、7年前に社会保険庁(当時)が「事務費」名目で年金財源からマッサージチェアやゴルフ道具を購入したり、職員宿舎の新築資金や幹部の交際費に充てたことが、発覚したからだ。
年金財源の大がかりな流用は、いずれのケースも官僚作成による法令がお膳立てしてきた。官の目的や任務、「所掌事務」を示す設置法や組織令を見ても「次に掲げる事務をつかさどる」としか書かれていない。 「権限」が記されているだけで、「責任」に関する言及は一切ない。組織の不祥事や大失敗が起こったら大臣の首をすげ替えればよい、というわけだ。
この国の法について「官僚が結果責任を負う法体系にはなっていない」と、参議院行政監視委員会調査室幹部は指摘する。この法令を、なんとかしなければならない。