■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
マヤカシの「100年安心年金」がもたらす悲劇/無責任国家の正体(3)

(2011年12月15日)

「100年安心年金」のシナリオ破綻には、はっきりした原因がある。2004年に行った年金財政の将来見通しが、必ず失敗する経済予測値を使っていたためだ。無責任ともいえる、甘い幻想的予測に基づいていたのである。
国民の「老後の生活設計」に欠かせない年金財政の将来を見通す場合、国はごく慎重に、最悪のシナリオも想定してかからなければならない。なぜなら、見通しが大きく狂い実績が想定したより急悪化すれば、ひとたび確立した年金制度の改悪を余儀なくされるからだ。そうなると、国民にたちまち不安が広がる。
「年金には特別の国民感情がある」と年金官僚OBが解説する。
「多くの国民は『老後は年金が頼り』と思っているので、国が制度見直しの動きを見せるだけで、動揺してしまうのです」

年金財源対策には、次の3つの方法がある。(1)保険料の引き上げ (2)給付費の引き下げ (3)支給開始年齢の引き上げ―である。
うち(3)は、関連法案の国会提出は数年後に先送りされた。代わってクローズアップされたのが、「高所得者の保険料引き上げ」だ。これを「低所得者への基礎年金の加算」などの給付拡大策とセットで決める方向が強まってきた。
これは公的年金制度の「負担に応じた給付」の原則に反するばかりでない。高所得者と企業への打撃があまりに深刻となる。
04年改革で日本の保険料率は17年に米国の2倍に近い18.3%(現行16.412%)とすることが決まっている。保険料率はサラリーマンの標準報酬月額に応じてかかり、保険料は企業と折半して支払われる仕組みだが、相当の負担となる。

2010年代後半、日本は超重税国家に

2017年頃には、政府の計画では大震災の復興財源に所得税、住民税の増額負担分や、消費税10%への5%アップ分が加わるためだ。だが、国は無責任にも年金制度の理念を無視して「取れるところから取れ」式に傾いてきている。
年金保険料とは、米国では「社会保障税」と呼ばれる。強制徴収されるから、たしかに実質は「税(タックス)」である。そうしてみると、政府の目論み通りなら2010年後半に日本は“超重税国家”に変貌する。
「100年安心年金」シナリオがあえなく破綻したのは、年金財政見通しが大外れしたからだ。前提となったのは足下の15年までの内閣府経済見通しと、それ以後の政府・日銀の予測の中央値で設定された長期経済見通しだ。 長期は「物価上昇率1.0%、名目賃金上昇率2.5%、名目運用利回り4.1%」。 日本経済が1998年以来続く「デフレの罠」から脱け出せない中で、目標絡みで打ち出された政策指標を使ったのだから、シナリオはすぐに狂いだした。
賃金上昇率で見ると、09年実績はマイナス4.06%、10年がプラス0.68%という具合だ。厚労省幹部は「1999年以前は、過去の実績を使って予測したが、04年からそれを変えた」と認めた。実態からかけ離れたバラ色に近い将来見通しを描いていたのだ。

欧米では総じて過去の実績を基に見通しが設定される。米国では公的年金の将来見通しについて、日本の国勢調査に合わせた5年ごとに対し毎年行う。しかも「3つの経済前提」に基づいて長期(75年間)、短期(10年間)の双方で公表する。 積立金の運用は全額、安全な米国債で運用する。独仏も3通りの賃金上昇率を前提に予測する。スウェーデンでは、楽観シナリオとともに悲観シナリオも想定する。
欧米の場合、日本とは違い、よほど慎重に、手堅く組み立てて「年金の安心」を追求するのだ。