■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
☆番外編 『台湾パワーを中国が取り込み中 / 中台統一へ布石 』
(2006年8月14日)
中国が台湾の陳水扁政権との対話拒否にもかかわらず、中国本土に進出する台湾の中小企業に対し、特別の金融支援に乗り出した。中国の消息筋は、台湾の経済パワーを中国本土に取り込むソフト型統合戦略、とみる。こうした“取り込み”を積み重ねれば、「中台統一は軍事衝突なしにいずれ実現」との読みが中国政府にあるようだ。
台湾住民100万人移民
香港のメディアなどによると、ここ10年で100万人以上の台湾住民が中国本土に移住した。当初、移住先は香港に近い広東省の深せん、広州周辺、台湾と向き合う福建省のアモイなどが多かったが、近年は北上して上海から蘇州、昆山、無錫(むしゃく)に至る揚子江デルタに陸続と集まってきた。同デルタには日本の先端技術企業も進出し、例えばシンガポール政府の協力で整備した蘇州の工業団地には、ソニーや松下も工場進出している。
台湾系の特色は、1. 中国語を読み書き、話せる、2. 資産家が多い、3. 先進技術を持つ企業が多い―など、中国側にとって願ってもない好パートナーの条件をことごとく揃えている。
90年代半ば頃まで中国の経済発展は、深せん、広州を核とする珠江デルタの急成長が全体を牽引し、その立役者は香港企業であった。ところが近年は、人口で約2300万人と香港の約700万人の3倍強、技術と業種の厚みでも香港を上回る台湾系企業の進出が勢いを増し、これが引っ張る形で中国本土への投資や起業、技術移転が急拡大してきた。その結果が、珠江デルタと並ぶ揚子江デルタの経済発展と、その象徴としての上海の繁栄だ。
多くが中国に帰化
しかも、台湾系の移民は中途半端でない。台湾の家を売り払って中国に渡り、不動産を買って帰化してしまう人が多い。背景には、台湾がいずれ中国に統合されるとの思惑に加え、中国本土への移住者が増えるにつれ、“台湾人コミュニティ”が現地で形成され、中国での生活が一段と快適になってきた事情がある。 上海には既に推定50万人の台湾人が居住し、その多くが一等地の高層ビルのマンションなど不動産を購入しているといわれる。このことが、上海の不動産価格が高騰し続けた一因となった。
このような民間レベルの中台緊密化に伴い、台湾も中国本土からの受注増・輸入増を受け、いまや台湾にとっても中国は最大の貿易黒字国だ。中国が台湾の人材、資本、技術をもはや欠かせないように、台湾も最大の貿易パートナーとして中国を必要としている。
この7月、上海の空港に向かうフリーウェイ。1台のバスが筆者の乗るタクシーを追い抜いて行った。バスの横に字幕がみえる。そこには「(台湾の)台北、高雄と香港、無錫、昆山を結ぶ」と書かれてある。明らかに台湾系旅行業者の専用バスだ。台湾からの旅行者は、旅客機の中台直行便が春節(旧正月)以外はないため、台湾を出発して中継空港の香港で乗り継ぎ、そこから台湾系企業がひしめく無錫、昆山に向かうのだ。
中国、中小の台湾企業を特別優遇
このように台湾系の中国浸透ぶりは、想像していた以上に進行している。台湾移民の急増に伴い、移住先には旅行業やIT関連企業ばかりか学校、美容室、病院など、多業種にわたり次々に開業している。つれて台湾との貿易パイプもますます太くなる。
消息筋によると、中国政府は中台統一のために武力行使というウルトラハードの方法を使わずに、台湾からの移民をさらに促し、その資本、人材、産業技術をそっくり吸収してしまう“ソフト統一”のシナリオの重要性に気付いたのだという。
この観測を裏付けるように、中国政府は7月、台湾人が出資した中小企業に対し特別貸付を行う方針を決めた。中国の英字日刊紙「チャイナ・デイリー」(7月8、9日付)によれば、この特別な信用供与は台湾系中小企業に中国本土での事業活動に必要な資金を提供するためだ。中国政府は台湾系企業の資金需要には常に細心の注意を払ってきたが、今回の措置は中小企業の資金ひっ迫状態を緩和するのが狙いだという。
同紙によれば、中国側がこの政策意図を前面に出したのは、昨年9月に中国の政策金融機関の一つ、中国開発銀行が台湾の投資家に300億元(約4500億円)の貸付を実施して以来だ。中国当局者は親中国である台湾の野党・国民党との連携を密にして、今後さらに中台経済の緊密化を図っていく、と語っている。
今回の措置は、訪中していた台湾の野党・国民党代表団に対して発表している。中国政府は既に台湾産果実の非課税化や病院の共同開設を認めるなど、台湾住民を喜ばす各種優遇策を打ち出しているが、いずれも国民党との対話を通じてだ。統一に反発する陳水扁・民進党政権よりも国民党のほうが台湾住民の利益にかなう、という台湾の2008年春の次期総統選をにらんだメッセージである。
中台直行便の運行拡大を図る今年6月の中台合意も、双方の交流深化の延長線上にある。これは、中台間の直行旅客チャーター便の運航をすべての伝統行事時期(祝祭日)に拡大するほか、貨物航空機の直行便もケースバイケースで認めるという内容だ。7月19日には中国と台湾を結ぶ初の直行貨物チャーター便が台北空港を離陸して上海に飛んだ。上海周辺に工場を持つ台湾の半導体メーカーに機器などを輸送したという。
このように政治的緊張にもかかわらず、中台の経済的結び付きはかつてないほど強まっている。チャイナ・デイリー紙によれば、台湾の投資家は2005年末までに中国本土に6万8095件のプロジェクトに投資し、投資額は契約ベースで896億9千万米ドル(約10兆3千億円)に上っている。消息筋は、「中台統一は平和的手段によってもはや時間の問題」と指摘する。