■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
☆番外篇『特別会計を廃止せよ』(日本経済新聞3月1日付の「経済教室」に掲載された内容は以下の通りです)
(2006年3月1日)
特会改革で行革も実現
自民党の柳沢伯夫税調会長が1月末、消費税率(現行5%)の「10%程度」への早期引き上げの必要を表明した。今後、消費税論議が活発化するのは必至とみられる。しかし、政府・与党が歳出カットを徹底せずに安易な増税に走るなら、国民の納得を得られないばかりか、いま火急の行財政改革を緩ませてしまう恐れがある。せっかく伸びてきた景気回復の芽も摘んではならない。
増税の前に目を向けるべきは、借金漬けの一般会計をよそに資金がダブつき、離れで「スキヤキ会計」と化した特別会計(特会)だ。特会にメスを入れて抜本改革すれば、消費税10%への引き上げに相当する12.5兆円規模の財源捻出は十分可能、と筆者はみる。増税論議に先行して、まずは改革の「本丸」といえる特会改革に集中して取り組むことが重要だ。
筆者は、特会の抜本改革で消費税増税の回避はおろか、国の財政事情を劇的に改善できるとみる。
特会の抜本改革の効果は、財政面にとどまらない。行政改革の面でも絶大な収穫が期待できる。透明性とチェック機能を高めれば、各省庁が官業の資金源として「裏の財布」として、自らの裁量で使えた特会資金が自由にならなくなり、ムダ遣いに急ブレーキが掛かる。資金の流れは「官から民に」変わらざるを得なくなる。豊富な資金を得て肥大化していった官業は縮小を余儀なくされる。
つまり、特会改革は財政改革から始まり、官の支配力の退潮・民の活力化という行政改革につながる。資金の流れを変えずして行革は実現できないが、それが可能になるのだ。
本論に入る前に、まずは特会の現状を財政面からみてみよう。国と地方の借金は合わせて約1000兆円にも上る。国の一般会計予算(05年度、82.2兆円)のほぼ4割を借金(国債)で賄う窮状だ。
肥大化が進みカネ余り状態
この状況下で、05年度の特会予算は歳出ベースで411.9兆円と、一般会計予算の5倍にも達する。会計間の出入りなどで生じる重複計上分を除くと、一般会計の純計は34.5兆円、特別会計は205.2兆円と、実に6倍近い。06年度の政府予算案では、両会計の予算規模の格差はさらに広がる。20年前の1985年当時、特会の予算規模は一般会計の1.7倍に過ぎなかった。年々拡大傾向をたどっているのだ。
しかも、特会はカネがダブついている。05年度予算で、歳入449.2兆円に対し歳出は411.9兆円と、37兆円もの入超だ。一般会計のカネ不足に対し、肥大化した特会はカネ余り状態にあるのだ。
それにもかかわらず、一般会計から特会への巨額の資金繰り入れが毎年続いた(05年度予算で47.7兆円)。理由は、シーリング(予算の概算要求の限度額)で一般会計予算が厳しく査定されるため、シーリングを適用しない特会に資金を回したことなどによる。特会は、厳しい財政要求の「抜け道」として利用されたのである。
このように、数年前まで国会ではほとんど審議されず、マスコミもめったに報道せず、財務省の査定もずさんだった特別会計は、官の「沈黙の会計」として、ひそかに都合よく使われてきた。すなわち、特会の財源は各所管省庁が管理・運用し、外部からのチェックなしに実質、意のままにカネを動かすことができる「重宝な資金源」であった。
しかも、特会を管理する権限を持つ省庁は、これをいいことに、官業を営む所管の独立行政法人(独法)や公益法人に、特会資金を供給してきた。例えば、雇用保険の積立金を財源とする労働保険特会の場合、雇用保険三事業(雇用安定、能力開発、雇用福祉)の05年度法人向け予算2600億円超の88%を厚生労働省所管の独法4法人に、残り12%を同省所管の34の公益法人に補助金、委託費として支出している。
いずれも天下り先だ。雇用保険積立金で全国に2070も建設した勤労省福祉施設は結局、不採算から売却処分を余儀なくされた。この間、施設事業を担った特殊法人や公益法人に特会から巨額の保険料財源が使われたのは記憶に新しい。特会資金は所管省庁の裁量で「官の聖域」に惜しげもなく注ぎ込まれてきたわけだ。
いま、財政危機から消費税引き上げ論議に火が付こうとしているが、その前に壮大なムダ遣いをもたらしている特会資金から財源を捻出することこそが、最優先の政治課題となる。特会改革で消費税に代わる財源捻出は、果たして可能なのか。
特会論議はかつてなく高まっているが、財務省は「(特会予算は)一見巨大にみえるが、子細にみると、削減できる余地はそれほどない」(主計局法規課)と改革の効果には悲観的だ。
主計局によると、06年度予算でみると、特会の歳出総額は前年度を48兆円上回る460兆円に膨らむ。しかし、一般会計からの繰り入れなどの重複分を除く純計額(225兆円)から国債償還費・利払費、社会保険給付、地方交付税交付金、財政融資資金への繰り入れなど削減困難な予算を除いた「予算精査対象財源」は12.3兆円に縮小するという。主計官が削減余地は限定的、とみる理由だ。
だが、数字を「特会事業の存続」を前提とせずに、ゼロベースで見直すと、風景は変わる。 まず、収入が余った純剰余金(不用金)をみると全特会で計1兆3685億円、積立金が207兆2177億円(04年度決算ベース)。うち財政融資資金、外国為替資金、石油・エネルギー対策、電源開発促進対策、産業投資、農業経営基盤強化の各特会に資金のダブつきが目立つ。これらの不用金と社会保険給付以外の積立金を合わせ、消費増税に代わる財源にするのである。先の財政融資と外国為替資金は積立金が計37兆円もあり、長期にわたり継続して取り崩し、新財源に充てることが可能だ。
仮に積立金の水準を五年間に5割下げるとして、毎年ざっと3.7兆円相当の財源捻出が可能となる(不用金と合わせ五兆円相当の新財源)。
次に、特会事業から財源をひねり出す。特会の「廃止」か「民営化」を軸に徹底整理することで、消費増税に必要な12.5兆円相当の財源捻出が視野に入ってくる。
ハコもの事業で大失敗した雇用保険3事業は廃止する。ムダの多い労災保険事業も、ハコものの廃止を含め大幅に圧縮する。これにより、1.2兆円(06年度予算。以下、同じ)に上る労働保険事業費のざっと半分が浮く。このほか年金の給付以外に使っている事務・事業費1.6兆円、公共事業の5.9兆円、電源開発促進の0.4兆円、食糧管理の0.8兆円なども、事業の廃止や合理化により、ことごとく大幅に削減できよう。
なかでも公共事業費の大半を占める道路整備特会の廃止・道路特定財源の一般財源化で3.6兆円相当を浮かす。石油公団を廃止したのになお存続している石油・エネルギー特会は廃止し、0.7兆円相当を確保する。こうした政治の決断で、財源捻出をさらに拡大できる。
消費税引き上げの回避は、このように特会改革で十分可能とみられるのである。
一般会計に統合 収支を区分経理
しかし、筆者は個別特会の廃止・民営化・合理化と並行して、特会制度自体を廃止する抜本改革が必要と考える。特会資金のムダ遣いを永遠になくし、省庁による特会の悪用に終止符を打つためには、特会制度を廃止して透明性の高い一般会計に統合するのがよい。
特会制度を持たずにすべてを一般会計に統合し、特別な事業は「ファンド」として経理する米国式会計制度の上をいく、より良い日本版を作るべきである。特会事業で国の関与がどうしても不可欠なものに限り、収支が分かるように一般会計上で区分経理する。トラック(一般会計)やフィールドの各種競技(個別区分経理)をスタンド(納税者)から一覧できる「陸上競技場方式」にして、透明で分かりやすい会計制度に変えるのである。