■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
 ☆番外篇 『日本郵政公社が発足 ― その巨大な矛盾とリスク』      
 (2003年4月1日)

  日本郵政公社が4月1日に発足した。公社は郵便貯金と簡易保険を合わせると資金量は約360兆円に及ぶ。世界最大規模の金融機関だ。
  国の厚い保護を受ける官業だけに、その事業の失敗は国民にツケ回しされる。事業の不振が続けば国民負担を増し、隆盛に向かえば、民業を圧迫して金融不安を深める構図となる。どちらに転んでも、「厄介な存在」となる。

  この公社が抱えるリスクとは、一言でいえば超巨額の金融資産をどう運用するか、の「資金運用リスク」だ。このリスクは、金利が低迷し続ければ増大し、逆に金利高に転じれば減少する。
 郵政事業の中期経営計画によると、2003年度−06年度の当初4年間の郵政公社の累計最終利益は3兆9510億円。このうち郵貯事業で3兆8985億円の利益を上げる計画だ。つまり、公社の利益の99%近くを郵貯単独で稼ぐシナリオである。したがって、ドル箱の郵貯が公社浮沈のカギを握っている、といってよい。

 その郵貯の資産は、2007年3月末時点で246兆円余に上る、と見込まれている。うち有価証券が69%を占める。この資産運用をどのように行うか、で収益が分かれる。
 郵貯資産の運用は、これまで有価証券向けの7割を国債購入に充ててきた。「安全で確実な運用」を重視すれば、当然の結果といえる。公社後も、「国債中心」の運用パターンは変わらないから、長期金利の利回り次第で収益は大きく揺れる。  仮に、中期経営計画の予測を覆し、10年国債の利回りが上昇して2007年度に2%台(現状は約0.7%)に乗らずに、デフレ経済から脱け出せないまま1%前後に停滞しているようだと、利益計画は吹っ飛ぶ。

 こうして「資金運用リスク」とは金利に依存する「国債頼みのリスク」にほかならない。そこで公社としては、収益源をつくり出すのが重要な経営課題となる。とりわけトヨタ自動車元常務の高橋俊裕副総裁が導入するトヨタ式生産手法を活用した効率化・コスト削減、全国の郵便局約2万4700局のネットワーク活用の成果がカギとなろう。

 公社は三井住友銀行、アイワイバンク銀行(イトーヨーカ堂、セブン-イレブン・ジャパン系)などと現金自動預け払い機(ATM)の相互利用サービスで近く提携する。郵貯の利用者は銀行の支店をはじめ、両行が全国約6000か所のコンビニエンスストアに設けているATMを利用し、24時間現金を引き出せるようになる。
 このほか郵便局での投資信託の販売も検討中だ。これにより集客力を一気に高め、個人マネーを貯蓄、とりわけその7割を占める定額貯金から投信に分散・拡大させる狙いである。
 しかし、この場合も、投信が株式や公社債から組み立てられている以上、損得は相場次第となるため、その成否は金利動向と同じく、デフレ経済が好転するか否かにかかる。

 公社はキャッチフレーズに「真っ向」を掲げる。だが、その実態は真っ向な勝負からはほど遠い、国の保護と信用下での「非真っ向勝負」である。



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