■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第55章 政府税調が「原則課税」で紛糾 ― 危うい公益法人改革      
(2003年3月26日)

  結論が1年先送りされていた公益法人改革が、3月末までの閣議決定期限を目前に突然見直しを余儀なくされ、基本方針(公益法人制度改革大綱)の策定がまたも先送りされることとなった。政府税制調査会の非営利法人課税ワーキンググループ(税調WG=座長・水野忠恒一橋大教授)が、NPO(民間非営利団体)法人に対しても「原則課税」としたことから反対が燃え広がったためだ。改革の先行きは脆く、危うい。土壇場での改革の迷走ぶりと「改革の中身にどんな欠陥があったのか」を検証してみる。

土俵際のうっちゃり

  まず、3月に入ってからの事態の急ピッチな展開を追ってみよう。税調WGは3月4日、公益法人とNPO法人に同好会、同窓会などの中間法人を加えて一本化した「非営利法人」に対し、「原則課税」とする方針を打ち出した。
  これをきっかけに、民間団体などから反論、異論が続出する。寄付金や義援金にも原則課税されるから、民間団体の反発は激しい。  
 税調WGの方針を受け、政府の行政改革推進事務局も「大綱」で3法人一本化を確定するつもりでいたが、反対が噴出したため、まとめるはずの石原伸晃行革担当相の私的懇談会「公益法人制度の抜本的改革に関する懇談会」(以下「懇談会」と略)が突然、その日の朝に中止された(3月6日)。
  次いで、NPO法人関係者らの反発を無視できなくなった自民党行革推進本部公益法人委員会も、NPO法人を非営利法人の対象から外すよう政府に申し入れる。そして税調WGも予定の最終会合を前日に中止する(3月10日)。事態急変を受け、政府税調は公益法人とNPO法人の「非営利法人」への一本化を見直し、ワーキンググループの「原則課税」方針を白紙撤回したのだった(3月14日)。
  税調本流の正論が支流の迷論を迷いから醒ませた格好だ。同じ頃、NPO法人の数は一万を突破した。石弘光税調会長は記者会見で、NPOと公益法人の成り立ちの違いとNPOへの社会の期待感を強調している。
  この結果、NPO側の土俵際のうっちゃりで、辛うじて最悪の事態だけは免れた。とはいえ、今後も税調WGのような「NPOの役割軽視」型の改革論がぶり返したり、官の周辺公益法人が特権を残そうと巻き返したり、「改革」で官の権限を焼け太りさせる恐れもある。改革の先行きは全く楽観を許さない。

堀田力 vs 猪瀬直樹

  こういうドタバタ劇の源流は、そもそも1月30日に行革推進事務局が「懇談会」の場に示した公益法人、NPO法人、中間法人を一本化する「非営利法人」の事務局案にさかのぼる。これを基に先の税調WGで課税のあり方が検討されたのだ。そして3月4日のWGの会合で、「非営利法人」への原則課税でほぼ合意したわけだが、その際、中間法人が原則課税である以上、中間法人が含まれる「非営利法人」も原則課税にならざるを得ない、というふうに説明している(資料1)。
  だが、同時に水野座長は「3法人を一つにくくる理念は必ずしもはっきりしていない」旨述べている。社会福祉法人など広義の公益法人が除外されたのも奇妙だ。
  つまり、3月中の閣議決定に向けて拙速で臨み、意見調整も不十分なまま問題点を詰めていなかったことをうかがわせる。
  事実、同じWGのメンバーで、さわやか福祉財団理事長の堀田力氏(元東京地検特捜部検事)と道路関係4公団民営化推進委員会の委員で作家の猪瀬直樹氏が、4日の会合で堀田氏が少数意見の原則非課税を、猪瀬氏が原則課税を主張して激突している。
  背景には、何よりNPO活動に対する重要性の認識の隔たりがある。が、それ以前に、石原行革担当相、行革推進事務局および昨年11月に公益法人制度の抜本改革を目指して設置された先の「懇談会」が、税制を含むあるべき制度の全体像を描き損なっていたことが、土壇場の混迷の大きな原因をつくっていたのだ。
  つまり、一つには税金を取り立てたくてウズウズしている税調に、制度の重要な一環である税制を丸投げすべきではなかった。次に「懇談会」は改革案を事務局任せにせずに、3法人の成り立ちを自ら調べ、中間法人を初めから除外して制度改革を考えるべきであった。座長もいない「懇談会」は、文字通り大臣や官僚と懇談しただけだったのか。
  「中間法人」は後述するように、「公益法人」ではないのだから、いっしょくたにできない。なぜ、政府側は思考の道筋を間違えたか、次にそのナゾに迫ってみてみよう。

5000ある問題公益法人

  公益法人制度改革を考えるうえで重要なのは、公益法人とNPO法人の生い立ちと性格の違いである。と同時に、「公益性・社会貢献性」を同じ尺度で測り、それが明らかなら税制上の優遇を等しく施す公正さである。
  公益法人(財団法人と社団法人)は民法34条に基づいて主務官庁が公益性を認めれば設立を許可され、以後、主務官庁の監督指導下に置かれる(主務官庁制)。  
  結果、1898(明治31)年に民法が施行されて以後、これまでに2万6000法人以上が設立されてきた。
  問題は、数年前まで右肩上がりで設立され続け、膨大な法人数に達して管理困難となった「数の問題」にとどまらない。各省庁が自らの行政需要に結びつけて天下り先として乱造し、補助金などの国民負担増や民業圧迫を引き起こしている実態が問題になっているのである。
  これら約5000に上るともいわれる問題公益法人は、次の3つのカテゴリーに分類できる。
  1. 行政の需要と結び付いて多額の補助金や委託費を受け取り、国や特殊法人の補助・補完や委託事業を行う行政委託型法人(国家試験、検査・検定、認定、資格付与、講習、施設の管理・運営、シンクタンクなど)
  2. 特定の業界やグループの共益を追求する法人(中間法人法が施行された2002年4月以降は「中間法人」に分類される。ただし同法には公益法人から中間法人に移行するための組織変更規定は設けられなかったため、郵政弘済会、郵政互助会など国の職員の互助会、共済会の類いは引き続き「公益法人」にとどまっている)
  3. 本来なら民間の営利企業が行うべき事業を行っている法人(日本自動車連盟=JAF、関東陸運振興財団、経済調査会など)
  こうした問題法人による国や地方自治体の補助金や委託費のムダ遣い、所管官庁による天下りや利権の独占、民業圧迫が問題なのである。特殊法人改革と並んで公益法人改革が叫ばれたのも、公益法人を舞台にKSD事件に象徴される政官の不祥事が相次いだからだ。

「非営利法人」一本化の誤り

  これら公益法人は原則非課税。法人税、事業税、固定資産税などは免除され「収益事業」から生じた税のみ負担するが、その税率は民間一般企業の30%に比べ22%と軽減される。KSD事件を引き起こした財団法人も、法人税を払っていなかった。
  公益法人は寄付金に関しても主務官庁から公益の増進に著しく寄与しているとみなされれば「特定公益増進法人」に認定され、寄付者の所得から控除されるなど優遇措置が認められている。
  一方、NPO法人は98年12月に施行のNPO法(特定非営利活動促進法)に基づき、国と都道府県が認証する。急カーブで増え続けた結果、ことし2月末時点で全国で1万89法人に達した。ここ1年間で約4000法人も増えたことになる。NPO法人も原則非課税だから、公益法人と同じ扱いだ。  

  これに対し、中間法人は本来、前述した問題公益法人の 2. に該当する、として分類されたものだ。ただし、中間法人法の施行前に既に公益法人になっていた国の職員の互助会、共済会などは依然、中間法人に移行していない。理由は、法的に移行が義務付けられていないうえ、中間法人は民間企業と同様の原則課税で税の優遇措置が受けられないからだ。
  中間法人は、準則主義により登記すれば設立できる。昨年九月末時点で中間法人は約150法人にとどまっている。内訳は同好会、同窓会、学会、ゴルフ場の会員団体などだ。任意団体と違って会費や寄付にも課税されるため、今後も増えそうにない。自民党などの抵抗から公益法人からの法による強制移行が、いまだ実現していないためだ。

  このように、中間法人というのは公益法人改革の過渡的な措置として設けられたが、効力停止状態にあるのだ。
  こうした三法人の成り立ちと特有の問題を政府側はしっかりつかんで、対策に生かす工夫が足りなかった。
  そうはせずに、奇妙な中間法人を公益法人とNPO法人に無造作にくっつけ「非営利法人」に一本化しようとしたのである。明らかにコンセプトが間違っていたのだ。この一本化政策で「原則課税」になるというのだから、公益法人協会やNPO団体が猛反対したのも、けだし当然であった。  
  中間法人はもともと「公益性がない」とみなされ設けられたわけだから、公益法人やNPO法人とは異質なのである。にもかかわらず、石原行革担当相と「懇談会」は中間法人成立の経緯を無視するかのように、事務局の3法人一本化の「非営利法人」案をうのみにしている。しかも、税制を税調に丸投げして「原則課税」を誘い出してしまった。
 
「新NPO」の創設を

  行革推進事務局は内閣官房に属しているが、税制については縦割り行政に従って税調に委ねた。その意味で、税制の財務省への丸投げは「縦割り行政」の必然的産物だ。
  税調は財務相の諮問機関だから、当然、財務省の意向に敏感になる。結果、税調の結論は「税金を取れるところから取る」式になりがちだ。NPOの意義や将来性など二の次になり、NPO法人にもなりふり構わず原則課税を課したのも自然な成り行きといえる。
  この「縦割りの弊害」を打破するには、各府省各局の「所掌事務」の弾力化を含めた制度改革を行わなければなるまい。
  「非営利法人」への原則課税が「大綱」に盛られることになれば、財務省の権限を強め、2001年12月に閣議決定された「公務員制度改革大綱」に続く官主導による官の焼け太り「改革」になるはずだった。それを主導した官の主役は、公務員制度改革が経済産業省、公益法人改革が財務省という違いはあるが・・・。

  公益法人問題の抜本改革には、一世紀以上続いた古い公益法人制度そのものを壊し、新たな法律で社会福祉法人や宗教法人など「広義の公益法人」やNPO、旧公益法人をも含めた法人を対象に「新NPO」を創設すべきだ、と筆者は考える。このグランドデザインをここに改めて掲げてみよう(資料2)。
  内閣に過半数の民間人から成る日本版チャリティ委員会(仮称)を設置し、届け出制の下、法人から届け出を受け、明確な公益事業の定義に従い審査して「新NPO」に認定する。認定されれば、原則非課税(ただし収益事業には課税)となり、税制優遇措置を得られる、―こういうスキームなら、21世紀の日本社会に大いなる活力を吹き込むことができる、と思えるのである。




(資料1)   公益法人改革のこれまでの方向性



(資料2)    21世紀型「新NPO」の概念図
出所)北沢栄著『官僚社会主義』(朝日選書)


[ Kitazwa INDEX ]

ご意見・お問い合わせトップページ


Copyright NAGURICOM,2000