■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
<番外編>
KSD事件の背景―犯罪の
温床になりやすい公益法人
財団法人「ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団」(KSD)の前理事長、古関忠男被告らが引き起こしたKSD事件は、公益法人を隠れミノに政官界工作を繰り広げた実態を浮かび上がらせた。事件は、「公益法人の盲点を衝いた典型的な犯罪」といえるもので、被告が財団の理事長職になければ、犯罪はもとより起こり得なかったといえる。昨年夏、首相官邸など国の機関にウランを含む放射性鉱石「モナザイト」が郵送された事件も、休眠状態にあった公益法人が起こしたものだ。なぜ、公益法人は犯罪の温床になりやすいのか。
天下りを受け入れ、監督官庁を手玉
公益法人とは、民法第三四条に基づき設立された社団法人と財団法人を指す。労働省OBである古関被告は、自ら経営する財団を利用して、次のような手口で政官界に切り込んだ。このような複合要因から、理事長が暴走した結果、事件は起こるべくして起こったのである。
- 「公益性」を看板に、監督官庁の労働省をはじめ七省庁から天下りを受け入れ、政官界工作の地ならしをした→公益法人の信用を悪用、労働省を手玉。
- 関連財団法人をほかに三つもつくり、関連財団法人が手掛ける「ものつくり大学」の設立準備資金や政界工作資金を支出させる一方、理事長自ら別の財団の理事長収入と合わせ一億円以上の年収を手にした→公益法人を足場に、事業を拡張して私物化。
- KSDが設立した任意団体「KSD豊明会」、関連の政治団体「豊明会中小企業政治連盟」を迂回させて自民党に献金したり、後援している議員候補を自民党参院選比例区で上位当選させるため、党費を肩代わりしてKSD豊明会の名簿を本人に無断で使って党員を大幅に増やし、当選させた。同時に、自民党の国会議員にわいろを渡したり利益供与を行い、事業展開に有利になるような国会質問をさせた→労働省の監督権限が及ばない任意団体を使った違法な政界工作。
- 同財団は、事件が表面化したことし1月まで理事の職務逸脱をチェックする評議員会を設置していなかった(指導監督基準違反)が、労働省はこれを見逃していた→労働省は天下り先の監督に甘く、チェックをおろそかにした→監視・監督の機能不全。
- 自民党の国会議員の多くが、公益法人に理事として関与しているため、公益法人に対しては仲間意識があり、暴走に対して黙認しがち。改革にも消極的(公益法人白書によれば、国所管の公益法人の理事を務める現職国会議員は99年10月1日現在、延べ481人に上る)→公益法人の犯罪が放置されやすい土壌。
事件の根本原因は、経営の実態が民間の上場企業と違って、外部の目から隠されているところにあった。財団がどういう事業を行い、どういう結果を出しているか、財務状態はどんなか、という経営情報が公開されていなかった。
加えて、労働省は自ら“KSD汚染”に手を貸していた。KSDを監督するどころか、天下りを続けてKSDを事実上、支援していた。
新聞報道によれば、労働省からKSDに二人、ほかのKSD関連法人・企業に延べ八人が天下っている。
労働省は所管公益法人の立ち入り検査の実施状況をみても、98年度時点で4.0%とそれまでの三年間で各省庁中最も低く、指導監督の熱意を疑われてもおかしくなかった。
こうした状況下で、KSD理事長は公益法人という「隠れミノ」を被って、まるで無人の野を走るように「私益」を追いかけたのである。
「主務官庁制」の廃止が改革のカギ
KSD事件を再発させないために、どんな抜本対策が考えられるのか。
政府は2月9日の関係閣僚会議幹事会で、チェックリストをもとに立ち入り検査を充実するほか、公認会計士など外部監査の要請や「総括公益法人指導監督官」の設置を盛った措置を講じるよう各府省庁に指示したが、これは以下に述べる利用から、いかにも抜本対策からほど遠い「場当たり対応」なのである。
対策のカギは、KSD事件がそもそも主務官庁である労働省の「監督機能不全」下で起こったところにある。KSDの設立申請を許可した当局も労働省である。ということは、公益法人の設立許可と指導監督の権限が、主務官庁に与えられている「主務官庁制」により各省庁(もしくは機関委任された各都道府県)が個別に設立許可と指導監督を行い、その権限を背景に天下りしているところに問題がある、とみなければならない。
そして、公益法人設立の根拠となっている民法第34条が、「主務官庁制」を規定している。問題の原点は、したがって、一世紀以上も昔の1896(明治29)年に制定され、二年後に施行された古めかしい民法34条にある。
民法34条には、公益法人を設立するための要件として、次のように書かれてある。
祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得
すなわち、次の三つの要件が満たされれば、公益法人を設立できるとされている。
しかし、この条文には「公益」の定義がないため、問題含みとなる。つまり、設立許可権限を持つ主務官庁が「公益性のある非営利事業である」と判断しさえすれば許可できるのだ。肝心の「どういう事業が公益性があるのか」を判定する「公益」の定義・基準はないから、結局、主務官庁の裁量次第で、「公益事業かどうか」が決まってしまうのである。
- 公益に関する事業を行うこと
- 営利を目的としないこと
- 主務官庁の許可を得ること
そこから、「官」の裁量で、行政から業務を委託されたり、資格付与・検査・検定・認定・試験・講習などを国が指定したり、お墨付きを与える“行政周辺法人”も量産され、現在、公益法人の総数が2万6千法人を超えるに至った経緯がある。
行政周辺法人の数は1983年以降に急増している。
理由は、83年3月に第二次臨時行政調査会(いわゆる土光臨調)が答申した最終報告で、行政事務の簡素化を図る狙いから、先の検査、講習、認定などの行政機能を民間に委譲することを勧める一方、問題の多い特殊法人・認可法人の新設を制限したためだ。以後、「官」は公益法人の設立に力を注ぐようになる。
こうして抜本的な公益法人改革を図るには、主務官庁制の廃止と「公益性」の定義が欠かせない。そして主務官庁に代わり、税制優遇の恩典を与える公益法人およびNPO(非営利組織)に対し設立認可・登録・指導監督を一元的に行う、英チャリティ委員会のような独立した政府機関の設置を検討すべきであろう。
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