NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第28章 自己増殖する「資格」や「認定」
第26章で紹介した「国家資格試験を独占的に実施する指定法人」の実態について、ケーススタディを続けよう。

医療機器センター

 厚生労働省(旧・厚生省)所管の財団法人「医療機器センター」は、88年3月に厚生大臣の指定試験機関の指定を受けて以来、臨床工学技士の国家試験の実施事務を行う唯一の公益法人だ。臨床工学技工法第十七条が指定の根拠とされる法律だが、この法自体、同財団が指定を受ける前年の87年6月に公布され、施行時(88年4月)には財団は既に指定を受けていたから、同国家試験を実施させる公益法人として同財団が当初からビルトインされていたと考えるのが妥当だ。同第十七条4には「公益法人以外の申請者を指定試験機関に指定してはならない」旨明記してある。
 こうして厚生省の指定に先立ち、前身の「医療技術研究開発財団」(71年設立)は改編され、新しい財団「医療機器センター」が厚生省の設置した医療機器懇談会の中間報告の提言を受け、発足している(85年6月)。初代理事長には宇都宮敏男・東大名誉教授(現・会長)が就任した。設立趣意書には、「医療の中で医療機器の果たす役割は極めて大きなものとなっている」とし、「厚生行政との密接な連携の下で総合的な対策を推進していく必要があり、設立に至った」旨強調している。

 要するに、臨床工学技士の国家試験を同財団に独占的に実施させるシナリオづくりを厚生省が進めたのである。
 「臨床工学技士」とは、人工透析の際の生命維持装置を保守点検する技術者のことである。同国家試験は88年度から毎年3月に実施され、臨床工学技士養成所などで学んで受験資格を得た者が対象。受験手数料は同財団の経費報告をもとに厚生省(現・厚生労働省)が決め、2000年3月時は37,300円。2001年3月に19%と大幅に引き上げられ、44,400円となる。
 第13回に当たる2000年3月の受験者数は1183人、うち77.5%相当の917人が合格している。合格すると厚生省に登録され、臨床工学技士の「免許」が交付される。臨床工学技士の受験者数は、94年以来それ以前の2000人以上のペースから600〜900人台に低迷していたが、99年から1000人の大台を回復するようになった。
 受験手数料は厚生省が三年に一度改訂し、前回98年3月には3%幅引き上げている。2001年度の19%引き上げは、受験手数料を自ら決定できる役所の独占的地位がなければ、デフレが続くこの不況下であり得ない大幅なものだ。天下り財団の経営救済を考えた引き上げとしか思えない。
 臨床工学技士法第十六条によれば、受験手数料の額は「政令で定める」から、厚生省で決めた金額が閣議で承認されることになる。ならば、厚生大臣だけでなく内閣のメンバーは少なくともこの大幅引き上げの根拠が正当か問い質すべきだったが、それを行った形跡はない。一方、厚生省は受験手数料の19%引き上げは、「こういう根拠からです」と受験者側に納得のいく説明をする責任があるが、そうはしていない。

受験手数料大幅引き上げの罪

 財団の事業のもう一つの柱に、研究開発事業がある。うち97年度から実施している「高度先端医療研究推進事業」は、厚生省から毎年補助金を得ている。99年度実績ベースで同補助金は1億2495万円。これを使って、先端医療機器の研究開発をはじめ国内研究者の派遣、若手研究者の育成、外国人研究者の招聘、国際共同研究などの事業を推進しなさい、というわけだ。若手研究者の育成・派遣事業では、例えば、同財団の職員として一年間雇用し、その間先端医療研究水準の高い大学の研究室に派遣して研究に専念してもらう、といった方法もとる。
 99年度の収支計算書をみると、当期収入が計7億3257万円に対し、補助金と国家試験事業収入が合わせて1億7017万円、全体の23%を占める。他の収入源は、旧・厚生省の指定実施機関として、あるいは医学会の委託で行う資格付与のための各種講習会(医療用具修理業責任技術者、透析技術認定士、呼吸療法認定士など)や調査事業など。厚生省から委託された薬事法絡みの「医療用具の同一性調査事業」では、調査手数料として1億9700万円得ている。
 だが、支出総額は7億4000万円超と、収入を700万円余り上回る。二年連続のマイナス。ただし、国家試験事業は受験手数料などの収入が事業支出を1200万円以上も上回る「ドル箱」だ。

 これを言いかえれば、計画通り使い切る補助金と独占的受験手数料で賄ってもなお、経営は赤字状態ということだ。2001年度の受験手数料の大幅引き上げが、こうした緊張を欠いた赤字経営の穴埋めを図るものなら罪深い。厚生省は同財団の監督官庁として経営改善を求めずに、漫然と税金を投じてきたのではないのか。
 医療機器の研究開発が、医療の発展に多大な貢献をしたことは疑いない。問題は、国家資格の実施事務を特定の公益法人を指定して行わせる理由や交付する補助金の根拠について、厚生省は税金を使われる側の国民に説明する責任がある、ということだ。
 職員はわずか29人に対し会長、理事が22人、監事が2人。常勤役員2人のうち理事長の長谷川慧重氏が元厚生省健康政策局長のほか、非常勤理事2人が厚生省OB。

日本情報処理開発協会

 経済産業省(旧・通産省)と総務省(旧・郵政省)共管の財団法人「日本情報処理開発協会」は、IT(情報技術)革命が叫ばれる時代に、陽のまぶしい広場に突然躍り出たような公益法人である。国家試験の「情報処理技術者試験」の実施事務を通産省から指定されて独占的に行ってきた法人だが、ここにきて情報化基盤整備の促進や電子商取引(EC)の推進などの形で政府当局や企業、団体、大学、研究機関から広く協力を要請され、引張凧状態になってきた。
 情報処理技術者の育成を図るため、通産省が情報処理技術者試験制度を創設したのが69年。同財団は84年に通産大臣から法律(85年度からは「情報処理の促進に関する法律」)に基づき「指定試験機関」に指定され、国家試験として実施してきた。
 ただし、その目的は「情報処理技術者の評価に関して、客観的な尺度を提供すること」などというもので、「資格」を授与するのではない。一定の能力水準に達しているとの「認定」を行うのである。同試験に合格すると、通産大臣名(2001年から経済産業大臣名)の「合格証書」が貰える。これを、例えば就職を希望先の企業が「技能認定」して入社試験をパスする、というふうに、情報処理技術能力に国の“お墨付き”を得て有利に生かせるわけである。

 だから、米マイクロソフト社などが独自に行う技術者の「能力認定」と基本的には変わらないはずだが、国のお墨付きとあって人気は上昇の一途なのである(99年は計78万4912人も応募し、合格者は12%の9万3492人)。
 国家試験で「資格」を与えるのと、能力を「認定」するのとでは違いがあるが、共通点もある。双方とも国が法律に基づいて「資格」や「認定」を“権威付け”していることだ。「国の権威付け」という点では「資格」と「認定」に実質的な差異はない。
 最大の問題は、官庁が国家資格や認定の試験実施事務を特定の公益法人を指定して独占的に行わせる一方、その法人に天下って実質支配し、補助金などの形で税金を注ぎ込みながら、情報公開を国民の満足のいくようにはしないことなのだ。

時代の追い風が、財団を走らせる

 国の「認定」が「資格」と同じく、それ自体、過去に必要とされたとしても「いまなお」必要なものか、という疑問は残る。必要性というのは時とともに変わるからである。
 しかも放っておくと、国の「資格」や「認定」は確実に自己増殖してゆく。
 情報処理技術者試験の場合も、IT化時代の要請に応えて猛烈な自己増殖を始めている。同試験はスタート時は「一種」「二種」の二つしかなかったが、いまでは一種、二種試験を受け継いだ「ソフトウェア開発技術者試験」「基本情報技術者試験」以外にも、「システム監督技術者試験」「システムアナリスト試験」「プロジェクトマネージャ試験」「アプリケーションエンジニア試験」「情報セキュリティアドミニストレータ試験」など、計13もある。
 試験科目が多いため、試験は毎年4月と10月の二回行われ、受験手数料は全試験共通で5100円。受験申し込みはインターネットからもできる。
 同財団は、99年度に補助金を特殊法人・日本自転車振興会から11億2829万円、国庫から人材研修用に5025万円交付されている。このほか、政府が補正予算でIT関連を増やしたため、99年度の受託調査研究事業収入は448億8718万円にも達した。この委託された調査研究を同財団はNECやキャノン、松下電器産業などの企業群に、例えば「サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)の支援」と行ったテーマで再委託している。

 ここにみられる同財団の働きは、文字通り政府のIT政策の推進役として「政府と民間側の橋渡し」をするものだ。その活動範囲と影響力は、財団の付属機関を示すホームページのリンクサイトからも伺い知ることができるが、受け取った補助金や委託費の使い途については、ホームページは一切触れていない。そればかりか、筆者の事業報告書などの「閲覧」の要望には指導監督基準に従い応じたものの、コピーの依頼に対しては拒否した。肝心なところは情報公開したがらない。  役員構成は、常勤が計10人。内訳は会長、専務理事各1人をはじめ、常務理事6人、理事、監事各1人。ほかに非常勤理事が7人、非常勤監事が1人。
 会長の井川博氏は、通産省出身で経済企画庁事務次官、中小企業金融公庫総裁を歴任した。専務理事の新(あたらし)欣樹氏も、通産畑を歩み、中小企業庁長官出身。常勤理事6人のうち通産省地方通産局長OBが2人、総務庁行政監察局長OBが1人、プロパーが3人。監視役のはずの常勤監事も身内の通産OBと、財団の基調は通産カラーだ。
 年収は理事長が2000万円余り、専務理事が1800万円、常務理事が1500万円という。

 同財団でこのほか注目されるのは、財団の事業目的(日本の情報化の発展)に賛同する企業や団体を対象に賛助会員制度を設けていることだ。年会費はひと口10万円で、現在150社・団体が会員となっている。会員の特典は、同財団が発行する情報化白書や機関誌、調査研究成果の利用、研究会やシンポジウム、講演会への参加などである。
 国家試験の独占的な実施機関に加え、時代の追い風が、財団を走らせる。


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