■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第48章 道路4公団まやかしの民営化案
国交省・道路族の合作シナリオ
(2002年9月9日)
政府の道路関係4公団民営化推進委員会は、8月30日の中間報告をまとめ、小泉純一郎首相に提出した。
中間報告の実質的ポイントは次の6つだ。 1. 道路4公団のすべての資産・負債を引き継ぐ独立行政法人「保有・債務処理機構」(仮称)を設立、2. 道路4公団が営業しているすべての有料道路は複数の会社(特殊会社)が管理・運営し、同機構がこれらの会社の全株式を保有、3. 会社は料金収入から一定額を「リース料」として同機構に支払う、4. 同機構は各社から得た「リース料」で債務の返済を行う(償還期間は最大50年)、5. 会社は、現在建設中の道路のうち、国から要請のあったものを契約に基づき建設する、6. その工事費用のうち自己調達分以外は機構が会社に対し「建設助成」の形で負担する。
上場は無理
一見して、このスキームから、上場を目指す民営化会社は生まれようもない。複数の会社は名目上は株式会社だが、体をなしていないからだ。実態は保有・債務処理機構が全株式を握って完全支配下に置き、リース料も建設助成金も決めるのである。国(国交省)はこの公的機関を動かして民営化会社を意のままにできる。
新会社は国や機構との間で契約を結んで事業を行う、とされているが、対等の契約当事者になり得る立場にない。機構の完全下請けとして従属する形となるためだ。機構に頭が上がらないから、仮に「契約拒否権」が与えられたところで力関係から発動できない。いや、「道路をつくれ」と言われ、「カネも出す」と言われれば、営業拡大のためむしろ進んで引き受けてしまうのは必至だ。
民営化委員会の民営化案は(表)でみるように、実質は現状とさほど変わらない。道路4公団を民営化会社に置き換え、「施行命令」を形ばかりの「契約」に置き換えたものだ。これでは公団本体を「民にできるものは民に」という民営化の理念はまったく生かされていない。
会社側の立場を考えてみる。機構の負債が片付くまで、資産を何一つ持たずに経営の自主性も抑えられ、「リース料」を機構にひたすら払い続ける会社である。一体、健全経営の上場可能な会社になれるだろうか。
同機構自体にも問題がある。機構の各社からのリース料収入は、本来は債務の償還に充てられるべきなのに、高速道路の建設助成金に使われる。これでは、債務をいつまでたっても減らせなくなる恐れがある。
そうなると、機構は際限なく存続していく。機構としても、むしろ助成金を出して建設を続けるほうが自分たちの組織を存続させるから、高速道路工事を続行させて助成金を出すことに関心が向かうようになる。
他方、各会社も返済不要な助成金をもらって建設したほうが有利だから、常勤技術者を雇用して建設をなるべく維持・拡大しようとするだろう。このようにみると、国交省が立案したとみられる同スキームは、巧妙に高速道路建設を進めるインセンティブを散りばめてある。
スキームはむろん「国民負担」の面からみても、問題は大きい。まず、機構の多額の設立・維持経費がある。そのうえ道路4公団合わせて40兆円もの債務を抱え、建設助成金を支払うことになれば、この巨額債務は容易になくならない。国民負担は道路公団のときと同じく先送りされ、先送りされた分、金利によって債務が膨らむ悪循環に陥るからだ。
ティータイムの謎
それにしても、委員会は当初は、道路事業のメリットがある「上下(建設と管理)一体経営」を考えていたのではなかったか。なぜ急転直下、こういう予想外のスキームが合意されたのか。関係者によると、中間報告の骨子がまとめられた8月23日の集中審議の、午後3時から1時間のティータイムに根回しされたという。国交省寄りといわれる中村英夫委員(東大名誉教授)が素案を持ちかけている。
ティータイムの出席者は、委員7人のほか事務局から3人、石原伸晃・行革担当相、熊代昭彦・内閣府副大臣・首相補佐官の計12人。記者団は閉め出され、議事録もとられていない。非公開の「密室」で話し合われたことになる。この間、どういういきさつがあったのか、とくに改革急進派といわれる作家の猪瀬直樹氏ら有力委員はどんなやりとりをしたのか、「ティータイムの謎」が、出席者から明かされるべきであろう。
ところで、この中村案は、道路を保有する国が民間会社と契約して道路の建設・管理の権限を一定期間与える「コンセッション」(特許)と呼ばれる契約をベースにしている。イタリアの道路事業会社、アウトストラーデ社などが、このコンセッション契約を政府と結び、黒字を維持しつつ2000年3月に全株式を民間に売却して完全民営化を達成している。この成功例がモデルとされたのである。
さる7月29日、自由民主党本部で「第6回・高速道路のあり方に関する検討委員会」が開かれた。冒頭、藤井治芳・日本道路公団総裁は、取り組みの説明を求められ、自民党の古賀誠・道路調査会長らに対し、次のように述べている。
「民営化推進委員会には2回呼ばれ、説明してきた。民営化推進委員からの資料要求については、個人的な資料要求もあったが、民営化推進委員会事務局を通したもののみ提出することにしている。また、先週、国土交通省とタッグを組むということを確認したところである」(議事録による)。
資料提出制限もさることながら、後段の「国交省とタッグを組む」ことを確認したとのくだりが重要だ。
先の「コンセッション」と呼ばれる方式でまとめることで合意したのである。
看板倒れの「民営化」
アウトストラーデ社の場合、黒字の健全経営で、完全民営化直前の99年上期に170億円の利益を上げたことが市場に好感され、IRI(イタリア産業復興公社)が保有していたアウトストラーデ社の持ち株がすべて売り払われている。
この見栄えのする「コンセッション」方式を委員会が受け入れるよう、国交省と公団はタッグで画策していこうとしたのだ。藤井・公団総裁は、前述した自民党での検討委員会に先立ち、公団の広報誌「道しるべ」7月号で、自らアウトストラーデ社グループと南フランス高速道路会社グループのコンセッション方式による成功例を引き合いに出して、PRを開始している。
このコンセッション方式を道路4公団に当てはめた場合、民営化の条件がまるでできていない巨額の赤字経営を引き継いだ新会社(特殊会社)が相手方となる。その会社が、政府(国交省)と契約を結び、国が保有する道路を一定期間借りて建設・管理事業をする形となる。「上下分離」による国の道路事業の委託である。
国は、公団に代わる民間会社に事業特許契約を、たとえばコンセッションの整備区間を9342キロと決め、償還期間の長さ50年で結べば、高速道路整備計画も思い通りできる。実質は前と変わらず、看板だけが、さも民営化されたように替えられるのである。今回の民営化案は、このコンセッション方式に猪瀬委員の持論である「保有・債務処理機構」を加えたものだ。
国交省と自民党道路族の合作シナリオに沿って、事は運んでいるかにみえる。
このまやかしの民営化案が実現することになれば、事業の破局は間違いない。
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