■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第40章 小泉・特殊法人改革
  一部に前進あったが、多くの問題を持ち越す
 (2002年2月4日掲載)

 政府は12月18日、小泉改革の成否を分ける特殊法人・認可法人の整理合理化計画を発表した。それによると、特殊法人77と認可法人86の計163法人のうち、国の政策実施機関以外の法人として別途整理される共済組合45法人を除く118法人について、次のように決着した。
 「廃止・統合」が17法人、「民営化・特殊会社化・民間法人化など」が45法人、「独立行政法人化」が38法人。残る18法人は「先送り」もしくは「現状維持」とされた。  全体をどう評価すべきか?

 決着を先行させた道路四公団など重点7法人をみると、実質的な前進があったといえる。7法人はいずれも形の上で「廃止もしくは民営化」が決まったからだ。だが、残り111法人については「先送り」や安易な「独立行政法人化」「民間法人化」が目立った。多くの問題が、今後に持ち越された。

ゾンビのように復活か

 重点七法人は、日本道路公団など道路四公団が「統合・民営化」。住宅金融公庫、都市基盤整備公団、石油公団が「廃止」。
 ただし、廃止組は従来の業務が全くなくなるわけではない。石油公団の場合、公団こそ廃止するが、石油開発のためのリスクマネー供給や研究開発、さらに国の直轄事業として行うこととなった石油の国家備蓄の統合管理などの「機能」は、金属鉱業事業団(特殊法人から独立行政法人に移行)に統合され、生き残る。公団の事業は他の類似の法人の事業の中で改訂版として継承されるわけだ。
 都市基盤整備公団の場合、新規の宅地分譲事業は廃止するが、都市再開発事業については新設の独立行政法人が引き継ぐ。住宅金融公庫も、「5年以内に廃止」とされたが、公庫の既存の債権については新設する独立行政法人が引き継ぐほか、肝心の住宅資金融資業務の取り扱いも、「独立行政法人設置の際、最終決定する」として留保した。  つまり、これら3法人は廃止されるとはいえ、将来ゾンビのように復活する可能性が残されたわけだ。

 その点で、改革の突破口を唯一、しっかり開いたのが、小泉純一郎首相が最重視した道路四公団改革だ。日本道路公団への毎年3000億円の国費投入打ち切りと、民営化の形態・新規高速道路建設の扱いを検討する首相直属の「第三者機関」の設置を決めた意義は大きい。
 その理由は、国費打ち切りにより資金調達に困難を来たすため、既に政府が計画した高速道路整備(総延長9342キロ)にブレーキがかかる上、首相自ら委員の人選に関与する「第三者機関」でまともな検討が期待できるからだ。「高速道路をとにかくつくろう」という自民党道路族の企みは、思い通りに行かなくなる。
 しかも、この国費投入廃止により2002年度の特殊・認可法人向け国家予算の大幅削減も可能になった。小泉首相が公約した前年予算(5兆3000億円)の「1兆円削減目標」を上回る達成が実現したのだ。他方、借金の償還期間を最大50年としたことは、言われているような大した問題でない。民営化されれば、民間の道路事業会社が主体的に「自己責任」で決める問題だからである。

改革の後退面

 しかし、重点7法人以外の法人処理は、ずさんさが否めない。ポスト道路公団の最大の焦点とされた8政府系金融機関の処理は、自民党内の激しい反発を受けて統廃合に踏み込めず、先送りを余儀なくされている。橋本龍太郎元首相が「政府系金融には指一本触れさせない」と言ったと伝えられているが、事実なら小泉首相は自民党を足場にした真の改革はムリだ、と悟るべきだ。
 問題は、国内総貸付残高の二割を占める政府系金融機関がなければ中小企業の資金繰りが立ちゆかなくなる、だから「指一本触れさせない」というのは、論理が逆さまだということだ。中小企業への貸し渋り、貸し剥がしの引き金は、すっかり弱ってしまった民間銀行の懐事情にあり、その一因となっているのが200兆円規模に資金量が肥大化した政府系金融機関の民業圧迫なのである。
 たしかに、金融危機下でベンチャーを含む中小企業に政府系金融機関が資金ポンプとして果たしている役割は、かつてないほど大きい。だが、政府系金融機関をスンナリ一本化して、中小企業の資金繰りを支援すれば機能上は事足りるのであり、「金融危機」を大義名分に官の聖域に手をつけずに肥大化した政府系金融を放置しておくいわれはない。放置すれば税金の無駄遣いと民業圧迫が続き、民間金融はますますやせ細る。混乱が起こるというのであれば、政府が公約する銀行の不良債権の最終処理期限が切れる2-3年後から統廃合を行えばよい。
 政府系金融の統廃合の焦点は二つ。一つは、中小企業金融を一本化できるか。もう一つは、電力会社など大企業向けに長期融資する日本政策投資銀行(99年に日本開発銀行と北海道東北開発公庫が統合され設立)の事業が民業圧迫をもたらすため「民営化もしくは廃止」できるかどうか、である。
 先送りされた政府系金融の扱いは、ことし年初から経済財政諮問会議で検討されることになったが、本稿執筆時点でまだ具体的な動きは出ていない。この問題の決着の仕方が、「2002年小泉改革」の成果を占う大きなカギとなる。

問題法人は先送り

 政府系金融以外の分野でも、改革を事実上、先送りするケースが目立った(年金資金運用基金、簡易保険福祉事業団など)。
 例えば年金資金運用基金(旧年金福祉事業団)の場合だ。厚生年金と国民年金の資金運用で大穴をあけ、大規模年金保養基地「グリーンピア」の建設・運営事業で大赤字を出した結果、同基金の2000年度決算は民間の会計基準を適用すると約8198億円の債務超過に陥る。
 明らかに経営破綻しているのだから即刻廃止して、税金投入を食い止めるべきだが、政府決定は「2004年までに廃止を含め組織のあり方を検討し、決定する」とした行革事務局の「先送り」結論を追認した。

 財務省がまとめた特殊・認可法人の民間企業基準を適用したバランスシート(連結ベース)によれば、2000年度決算で債務超過に陥っている法人は計11に上る。  特殊法人のワーストワンは、国民のカネである簡易保険資金の運用を信託銀行に委託して累積欠損を出した簡易保険福祉事業団。債務超過額は3兆4891億円に達する。次いで年金資金運用基金、日本鉄道建設公団(同6461億円)、本州四国連絡橋公団(同6230億円)の順。
 この簡保福祉事業団も、2003年に設立される郵政公社に簡保資金の運用事業などを移管する。事業団は郵政公社化に合わせ廃止されるが、事業そのものは見直されたあと公社が引き継ぐわけだから、「まやかしの廃止」とも事実上の「先送り」とも受けとれる。  認可法人のワーストワンは、預金保険機構(同3兆9989億円)。破綻金融機関の増大が債務超過額を急膨張させた。実質的に特殊法人と変わらない日本下水道事業団も、74億円の債務超過だ。

 債務超過法人の異常な多さは、特殊・認可法人の経営能力と責任性の欠如を物語る、ともいえる。預金保険機構は例外扱いにすべきかもしれないが、これらの欠損法人の役員は債務超過が自らの無責任経営によるという自覚を欠いているのではないか。
 貸し渋りの時代とはいえ、小企業・零細企業への貸し付けを焦げつかせ、民間銀行ならとうに破綻した債務超過の国民生活金融公庫(99年に国民金融公庫と環境衛生金融公庫が統合され設立)の場合、返済能力のない企業に国民の税金を注ぎ込み続けていたことになる。だが、経営責任はこれまで一度もとらなかったばかりか、民間企業並みに試算し直した財務資料さえ昨年秋まで公表せず、分かりにくい会計処理でひどい経営実態を覆い隠していたのだ。

「第二の特殊法人化」を防げ

  整理合理化計画では、「民間法人化」が19に上った。行革事務局は、発表の1カ月ほど前までは特殊法人の商工組合中央金庫(商工中金)をはじめ約60法人を「民間法人化」するつもりでいた。
 しかし、国費などを受け入れる国の共済組合の民間法人化が問題視され、結局、民間法人化は日本商工会議所や日本公認会計士協会、全国農業会議所など国の補助金に経営が依存していない団体に絞られた経緯がある。
 とはいえ、一見して民営化と思わせる民間法人化の場合も、天下りなどの規制基準を明確にしないため、特殊法人から民間法人化された農林中央金庫のように、所管官庁からの天下り慣行はこれまで通り野放しになる。
 官の支配は依然続くわけだが、民間法人化されれば「特殊法人」や「認可法人」にカウントされないため、総務省の行政監察の対象から外され、国民の目からかえって見えにくい。官の天下り支配の格好の「隠れミノ」になるわけだ。
 残りの法人のうち38は、補助金の入る独立行政法人化が決まった。うち2法人は統合され、計36の独立行政法人が誕生する。  独立行政法人は昨年4月1日時点で57法人。来年初めまでに60法人に増えることが決まっているが、今回の整理合理化計画でさらに36法人が独立行政法人に生まれ変わる。
 だが、既成の独立行政法人57のうち52法人が、役職員に国家公務員の身分を与える「特定独立行政法人」の扱い。急増する独立行政法人が、再び官の一大聖域と化す可能性もある。「第二の特殊法人」をつくってはならない。


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