■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「最新・世界自動車事情」
 ☆番外篇『最新・世界自動車事情』      
(2002年2月14日)

最新・世界自動車事情3 (『テクノオート』2001年10月号掲載)

モータースポーツの華「F1」とはなにか

 自動車は「時間」と「空間」を支配するツールだ、と前月号に書いた。それは、メカニズムを自ら操作して高速でどこにでも行ける移動手段であるばかりでない。ロックできる鋼鉄のドアで外界をシャットダウンできる「安らぎの空間」でもある。
 一言でいえば、「移動する私的空間・自分の世界」であり、ここにクルマの魅力の源泉がある。そこから、カーレースが世界の自動車愛好家にとってたまらない理由も生じる。クルマの究極の機能、スピードを競い合うからだ。中でも「死の本能」を呼び醒ますくらい危いレーシングカーレースが、その中心座に位置する。極限のスピードでうなりながら爆走し、即死と隣り合わせるド迫力が、たまらないのである。

フォーミュラカーレースの最高峰「F1」

 さて、そのカーレースだが、これには大別して2種類ある。レーシングカーによるレースと、市販車をレース用にツーリングカー、GTカーなどに改造して行うレースである。そして、レーシングカーレースは別名、「フォーミュラカーレース」とも呼ばれる。「フォーミュラ(formula)」とは「決まり」とか「公式規格」の意味である。レースのために決められた規格に従い、レース専用につくられたカーなので、「フォーミュラカー」と呼ばれるのだ。
 このフォーミュラカーレースの最高レベルにある、とされるのが「F1(フォーミュラワン)」である。
 F1とは、誰が考案し、どういう性格のレースなのか、どんな歴史を持ち、どのように運営されているのか。
 読者の多くは、この8月19日にF1シリーズの2001年第13戦、ハンガリー・グランプリ(GP)でミヒャエル・シューマッハー(ドイツ)が勝利し、彼と彼の操るフェラーリが今季の総合優勝も決めたことを知っているに違いない。第14戦は9月2日にベルギー、15戦が9月16日にイタリア、16戦が9月30日に米国、10月14日の最終17戦が日本の鈴鹿サーキットで行われる。こうしたレース日程を、既につかんでいる読者も少なくないだろう。
 このF1の生みの親が、フランスの首都パリに本部を置くFIA(国際自動車連盟、Federation Internationale de l'Automobile)なのである。そして日本の公益法人の一つ、社団法人・JAF(日本自動車連盟)が、FIAから日本の自動車団体代表として公認され、日本国内の自動車競技を管理統轄している。
 JAFの国内競技規則によれば、FIAは公認の各国自動車団体によって構成される唯一の国際的機関、と定義されている。JAFについては、同規則は次のように明記している。

1-6 日本国内の統轄権
 日本自動車連盟は、FIAにより日本国の自動車団体の代表として公認され、かつFIAの定款および国際競技規則を承認し、またはこれによって規制されるものであり、国内の自動車競技を管理統轄する唯一の権威であることを宣言する。

 要するに、FIAが国際自動車競技規則を決めて各国自動車団体が公認するすべての競技に適用させる国際的権威なのに対し、JAFは日本を代表して日本国内の自動車競技を管理統轄する「唯一の権威」なのである。世界と日本のモータースポーツのあり方を考えるうえで、以上の既成事実を認識しておく必要がある。

「F1」の仕組み

 FIAは「F1」を最高級のフォーミュラカーレースと位置付け、第2次世界大戦終結から5年後の1950年に創設している。「F1」とは「型式1」という意味である。FIAは、「F1グランプリ世界選手権」と銘打って立ち上げ、自らをF1シリーズのオーナーである、と主張してきた。
 FIAがF1レースを考えついたのには、歴史的な背景がある。フランスはそもそも、自動車が発明されてまもない1894年に世界最初の自動車レースを行った国なのだ。当時、世界で最初に自動車を購入した金持ちのオーナーが、2番目に買ったオーナーとどちらのクルマが速いかを競走したのである。(二番目の自動車レースは翌1895年に米国シカゴで行われている)。
 このようにフランスの市街地の道路上で自動車レースが誕生した経緯が、F1フォーミュラカーレースの発想へとつなげていったのだ。ともあれ、F1は年間17戦行う決まりがつくられ、世界各国を転戦するようになる。米国のカーレースCART(旧インディカー)が米国外でも開催されるようになったのに対応して、F1も2年前から年に1度は米国のインディアナポリス(インディアナ州)で行うようになった。日本では76年に初めて鈴鹿で開催されている。
 F1グランプリには、それぞれ12チームが参加できる。1チーム当たり2人出場できるので、総勢24人がスピードを競うことになる。
 F1の生みの親、FIAはその後、F1レースのプロモーター(興行主)の権利を英国企業のFOA(Formula 1 Administration)に一切委託した。見返りに、FIAは年間4000万仏フラン(約7億円)をFOAから受け取っている。FOAはF1を開催する競技会場への入場券販売の権利を開催地のプロモーターに売るほか、レースの本番前に選手らと歓談できるパードック(待機場)への観客の入場券や、レースのテレビ放映、広告の権利を団体や企業に売ることで巨額の収入を得る。例えば、レースの舞台裏をのぞけるパードックの入場券を、キャノンとか本田技研のような日本の有力企業に売り、企業側は顧客をパードックに招待する。
 このようにFIAがオーナーとしてF1ビジネスに君臨し、世界115カ国の137組織がFIAに加盟するなか、日本ではJAFがFIAと唯一蜜月関係にある、という構図だ。

プロモーターとオーガナイザー

 F1グランプリのような大競技会を開催・運営する場合、興行主であるプロモーターが、競技を運営するオーガナイザーを兼ねるようなことは滅多にない。プロモーターは事業の成否(儲けるか損するか)の責任を負う一方、オーガナイザーは競技会の運営全般をプロモーターから請け負い、組織運営上の責任を負う。日本での場合、JAFの登録団体やクラブが通常、オーガナイザーの任に当たる。
 JAFによれば、鈴鹿で2001年10月に行われるF1レースでは、本田技研の子会社である鈴鹿サーキットランド株式会社が先のFOAと直接交渉してプロモーターとなる一方、JAF加盟の鈴鹿モータースポーツクラブ(SMSC)がオーガナイザーを引き受ける。JAFは、こうした契約に一切関与しないというが、他方、FIAに今年度の会費として477万円相当をスイスフランで支払っている。
 果たして、JAFはF1グランプリにどのような形で関与しているのか、FIAの有力構成団体として国内のモータースポーツ事業にどうかかわっているのか、次号でその実像を追ってみよう。


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