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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第38章 どうなる特殊法人改革 政策金融の一本化と民間法人化が焦点
 小泉首相が道路4公団など7特殊法人の「民営化・廃止」を先行して決断したことで、特殊法人改革問題は第二ラウンドに入った。12月中旬にも決まる政府の整理合理化計画では、肥大化した政府系金融機関の整理と認可法人の「民間法人化」問題が大きな焦点となる。
 政府系金融機関については、債務超過に陥っている国民生活金融公庫などの中小企業金融機能の統廃合が論議の中心になろう。また、特殊・認可法人の相 当数が民間法人化される見込みだが、事実上、完全民営化の印象を与えかねない目くらましの行革手法として論議を呼びそうだ。

国民公庫は債務超過

 特殊・認可法人を整理合理化するに際して尺度の一つとなるのが、税金投入を強いる財務悪化の程度だ。
 財務省が10月に発表した政府系金融8機関の2000年度の行政コスト計算書によれば、民間会計手法を適用すると6公庫のうち4公庫が赤字転落し、国民生活金融公庫に至っては債務超過に陥った。つまり、現行の決算書は事実上粉飾して実態を良くみせているわけだ。事態を放置しておけば、民間金融機関なら とっくに倒産している債務超過法人にも税金を注入し続けることになる。
 民間企業の会計基準に照らして最終利益が出るのは、国際協力銀行、日本政策投資銀行、公営企業金融公庫、農林漁業金融公庫の4機関。これに対し、現行の会計法では1532億円の当期利益を計上した住宅金融公庫が343億円の赤字に転落するほか、国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、沖縄振興開発金融公庫が赤字に陥る。地方公共団体向けに融資する公営企業金融公庫を除く民間企業向け融資の7機関の半分以上が赤字となるわけだ。経営の破綻ぶりが浮き彫りとなった国民生活金融公庫は、当期損失が531億円、結果、1801億円もの債務超過となる。

 国民生活金融公庫は2000年度に国の一般会計から補給金509億7300万円を受け取り、国からの借入金残高は約10兆4600億円に上る。
 総裁は歴代、所管官庁の旧大蔵省事務次官で現在は尾崎護氏。副総裁2人は元社会保険庁長官と元国税庁長官。常務理事4人中2人が元厚生省局長と元通産省大臣官房付。非常勤理事1人も大蔵省OB、監事2人中1人(非常勤)も元警察庁局長だ。 役員10人中実に7人までを中央官庁OBが占める。事実上の官営 だ。給与(月額)は総裁が134万6000円、副総裁が127万9000円、理事105万8000円、監事92万3000円。
 民間ベースの会計手法だと一挙に政府系金融機関の赤字が表面化する理由は三つある。一つは、現行の法定会計法だと退職給付引当金が計上されていない。二つめは、一般会計から受け入れている国費を除外するため。三つめは、貸倒引当金を積み増す必要があるためだ。
 国民生活金融公庫の場合、不良債権比率が8.7%と政府系金融機関の中で沖縄振興開発金融公庫(9.0%)に次いで高く、9403億円もの不良債権にあえぐ。民間基準に沿って貸倒引当金を大幅に積み増し、退職給付引当金の935億円を計上し、一般会計からの受け入れ金(補給金)を除外すると、一挙に債務 超過になるのだ。

 問題は、こうした民間ベースの情報開示が行われ、国民が自らの税金の投入先である特殊・認可法人の財務実態の全体像を知ることができるようになった のが、ようやく行政コスト計算書が発表された今年10月からだという事実だ。あまりにも遅い情報公開である。官僚の天下り先でもある特殊法人などの経営実態は、長い間国民の目から覆い隠されていたのである。そして、経営破綻を示す債務超過に本州四国連絡橋公団や簡易保険福祉事業団ばかりではなく、政府系金融機関も陥っていた実像が、ようやく確認されたわけだ。
 したがって特殊法人改革の次の焦点の一つは、肥大化し機能が重複して財務内容が著しく悪化した政府系金融機関の整理になる。事業実態に照らせば、経 営破綻法人は国民負担からみて「廃止」の方向だ。
 一方、機能別にみれば、中小企業を対象に融資している政府系金融機関は数多い。
 国民生活金融公庫(主に零細企業向け)のほか、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫(商工中金)、中小企業総合事業団に加え日本政策投資銀行も一部手掛ける。
 これら中小企業向け政策金融の一本化は既に、6月の特殊法人改革推進本部の初会合で浮上しているが、民間銀行の貸し渋り・貸しはがしが横行する逆風の中で、一本化を具体化できるかどうか。小泉首相の決断一つにかかっている、といえそうだ。

「民間法人」は「民営化」でない

 もう一つ、整理合理化計画で浮上すること必至の問題に、特殊・認可法人の民間法人化がある。行革推進事務局は当初、商工中金など60近い特殊・認可法人を一気に民間法人化する方向で考えていた。しかしその後の検討で、整理合理化計画に盛り込まれる民間法人は結局、10余りに圧縮せざるを得なくなった。
 国や地方自治体、公立学校などの各種共済組合計47の認可法人は、国や地方自治体から公務員の基礎年金交付金などの形で公的資金を受け取っているため「民間法人」の要件に当てはまらない、と判定されたからである。
 「民間法人化」というと、一般には「民営化」と受け取られがちだが、実態は民間の株式会社ではない。第二次臨時行政調査会(いわゆる土光臨調)が83年3月に答申して導入された奇妙な法人を指す。民営化を進めようとする臨調側と抵抗する官僚側の妥協の産物で、法律上の定義もない法人形態だ。事業内容などを定めた設置法は残すが、国の関与は最小限にすべきだという、特殊法人の性格を薄めた法人である。しかし「民間法人」という言葉を使うので、まぎらわしい。

 いわば目くらましの行革手法だが、これまでに民間法人化された計20の法人をみると実質は「民間法人ふうの疑似特殊法人」といってよい。
 総務省によれば、唯一の根拠とされる第二臨調の答申(第5次)でいう民間法人化には、次の条件が必要とされている。
 1. 事業が制度的に独占でない、2. 役員の選任が自主的に行われている、3.国またはこれに準ずるものからの補助金などに事業の経常的経費が依存してい ない。―そして、これらの「民間法人」に対する政府の関与は最小限にすべきだという。
 この奇妙な「民間法人」となった最初の特殊法人グループの一つが、1923(大正12)年に設立された日本最古の特殊法人、農林中央金庫だ。しかし農林 中金によれば、政府出資や公的資金は受けていないが、役員に所管官庁(旧大蔵省と農水省)からの天下りをいまなお受け入れている。

ますます見えない「実態」

 理事長は歴代、農林水産省事務次官OBで、現在は上野博史氏。97年まで同次官を務めたあと、認可法人の農林漁業信用基金理事を渡って昨年6月に就任した。専務理事に大蔵省出身の元経済企画庁局長、常務理事に元農水省局長、監事に日銀OBと、民間法人以降も官の天下りの温床であることに変わりはない。つまり、カネの政府関与はなくなっているものの、ヒトの政府関与は相変わらずなのである。
 天下りと並ぶ「民間法人」のもう一つの問題は、特殊法人でないから総務省の行政監察の対象からも外されるため、活動が国民の目からますます見えにく くなることだ。

 さらに、「民間法人」の要件とされる「補助金などへの依存」や「政府の最小限の関与」についての具体的な規定がなく、恣意的に解釈できる余地を残し ているのも問題だ。行革推進事務局によれば、補助金の受け入れも自己収入を上回らないような小規模なら容認されるという。つまり、明確な規制基準が設 けられていないために、特殊・認可法人にとってさほど抵抗感なく民間法人化を受け容れられるわけである。
 民間法人化には、このような“隠れミノ”の仕掛けがある。


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