■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
 第39章 どうなる公益法人改革
       前進すれども「本丸」には手つかずの実態
(2002年1月8日掲載)

 政府は12月18日、計163の特殊法人・認可法人の整理合理化計画を決定した。これにより次の焦点は、先送りされた政府系金融機関の統廃合と公益法人の制度改革に移った。
 

補助金削減では一歩前進

 公益法人改革は、これまで特殊法人改革の日陰にいるかのように目立たなかった。理由の一つは、小泉首相が道路4公団をはじめとする巨大7特殊法人の決着をまず優先し、ここにメディアの関心が集まったためだ。二つめの理由は、政府もメディアもさして注目していないのをいいことに、行革推進事務局が、消極姿勢をとり続けたためである。事務局は、特殊・認可法人改革、公務員制度改革とともに公益法人改革のあり方についても、専従チーム(約20人)を組んで調査・検討してきたが、肝心の抜本改革案をまだまとめていない。
 したがって、公益法人改革は特殊法人改革のように「政治」が主導することなく、事務局案がそのまま決定・発表されたにとどまっている。結果、これまでに前進したのは、次の4点だ。

 1つは、公益法人が受け取っている国と都道府県からの補助金7100億円超(99年度、特記のない場合は以下同じ)のうち、国所管の「補助金依存型」と「第三者分配型」公益法人に対し補助金の廃止・削減が本決まりしたことだ。「補助金依存型」とは、年収の三分の二以上を国からの補助金などに頼っている「丸抱え法人」。「第三者分配型」とは、国から交付された補助金などの50%以上を外部に再委託などで丸投げして収入を得る「トンネル法人」を指す。
 このなかで、問題の第一は、国の一般会計、特別会計からの多額の補助金が「トンネル法人」を仲介して研究機関や大学に交付されることだ。「トンネル法人」を使うと、この公益法人の人件費・管理費分のコストが余計にかかるようになり、国民負担がその分増える。しかも、仮に補助金の必要性がなくなっても、法人を維持し、天下りOBを養うため、無用な交付が続けられる恐れがある。
 この一例が、厚生労働省所管の「産業医学振興財団」だ。同財団の2000年度事業計画によると、役員給与(常勤3役員)計5432万円をはじめ、職員の給与を含む財団の全人件費はすべて補助金から充てられる。財団の事業運営費が丸ごと国民の税金で賄われているわけだ。こういう「トンネル法人」への補助金支給がようやく規制されるわけである。
 「丸抱え法人」は、収入のほとんどを国や地方自治体からの補助金・委託費に依存している。事実上、国や自治体の下請け機関で毎年自動的に公的資金を得るから、合理化努力に乏しく、補助金・委託費の無駄遣いも指摘される。
 「丸抱え法人」の一例が、収入の9割以上を国からの補助金に依存している文部科学省所管の財団「日本国際教育協会」。10億円以上の補助金を受け取った国所管の公益法人は、全体の12%に当たる47法人ある。同財団の補助金額は全公益法人ランキング中3位の208億5392万円に上る。事業の中身は、外国人留学生が日本で生活していくためのアパート代の補助とか日本語学校に通う外国人留学生への奨学金支給といった支援だ。

 問題は、外国人留学生や日本人学生に対し補助金で支援する似たような公益法人がいくつもあり、補助金・委託費が分散されて非効率な使われ方になることだ。これら「トンネル」「丸抱え」双方の法人の役員ポストに所管官庁から天下っていることはいうまでもない。
 もう一つの「丸抱え法人」の財団「防衛施設周辺整備協会」の場合、防衛庁から三種類の補助金計約49億3600万円(2000年度)を受け取っている。うち、航空機騒音防止関連の二種の補助金は、2004年度から同財団を仲介せずに補助金が国から直接交付されるようになる。テレビの受信障害の助成措置については、従来の防衛庁→財団→NHK→受信契約者に流れた補助金のルートが、財団抜きの国→NHKの交付ルートに変わる。この交付ルートの“中抜き”により、予算の削減を図る狙いだが、財団を外して浮いたコストを国の直接交付事業によって増えるコストが帳消しにする可能性もある。
 このように、補助金是正措置については狙い通りにはいかずに、予想外のコスト増から実効が上がらない恐れもある。政策のフォローによるコスト評価が今後の課題だ。

抜本改革は先送り

 2つめの前進は、補助金で役員報酬を支払っている公益法人への助成禁止措置だ。財団「内外学生センター」など32法人がこれに該当し、2001年度予算額は約12億円に上る。うち外務省所管の財団「交流協会」を除く31法人に対し遅くとも2005年度までに廃止することが決まった。だが、先の「産業医学振興財団」の例のような職員の人件費を補助金で賄う法人の扱いには触れずじまい。一応の前進とはいえ、中途半端さは否めない。
 3つめは、補助金など国費の流れの透明性を向上させる新ルールの導入。そのなかで、とりわけ重要なのは、公益法人向けの全ての補助金などについて、金額、事業概要、主な使途、交付先選定理由の情報をインターネットで開示する、としたことだ。これが最も実質的な前進といえる。
 以上の3つの方針は、具体化され、12月18日の政府の特殊・認可法人の整理合理化計画とともに発表された。
 4つめの前進は、国の委託を受けて行う公益法人の検査・検定、国家試験、資格賦与や公益法人が実施する事務・事業への国の“お墨付き”(推薦、認定など)の廃止および第三者認証に移行、などへの見直しだ。
 ただし、この見直し措置の具体化は2002年3月末までに持ち越される。

 以上が、2001年12月までの公益法人改革の成果である。
 問題は、改革がまだ「部分手直し」にとどまっていることだ。事実上の天下り官業として、利権を独占したり民業を圧迫する公益法人の制度改革にはまだ手をつけていない。
 これまで行革事務局は、抜本改革については結論を問題法人の個別論議よりも後回しにしてきた。抜本対策は2002年3月末までにまとめる、としているが、事実上の先送りだ。

 抜本改革を考える上で重要なポイントがある。
 一つは、公益法人が特殊・認可法人と共に官業システムの一環に組み込まれていることだ。公益法人を官業のネットワークの「核」を成す構成要素としてとらえる視点が必要だ。それは官業の「三位一体」の多重層構造の広大なすそ野部分を形成する(図1)。そして公益法人の翼下に多くの子会社、関連会社がぶら下がっている。
 この「三位一体型」官業システムを資金面から支えるのが全部で37を数え、予算規模が一般会計のざっと4倍ある国の特別会計だ。
 この特別会計と一般会計から特殊・認可・公益三法人に、国費が補助金、補給金、出資金などの形で投入され、使われる。しかし、この補助金などの流れと使途の全体像は情報公開されていないから、これら「官の聖域」にどのくらい国民の税金が投入され、どの分野でどう使われたか、を納税者は知ることができない。
 特殊法人を頂点とする官業のネットワークのなかで、公益法人は自ら出資した子会社、関連会社と特殊法人との取引を仲介し、結びつけるブローカー的役割も演じつつ、官業ネットワークを強化する。
 その具体例として、特殊法人・都市基盤整備公団のネットワークを取り上げてみよう。
 同公団は傘下に自ら設立した公益法人7法人を抱えるほか、持株比率が過半の子会社5社、持株比率が20%以上50%以下の関連会社10社、子会社の関連会社1社の計16社を抱える。さらに、関連会社の下にその出資会社が5社、そのまた出資会社が資金を出して設立した公益法人が2法人、ほかに公団の出資会社が5社もある(「住都公団に公平な価格政策と情報公開を求める全国連合会」調べ)。公団はこのように、旧財閥を思わせる計35公益法人・会社群から成る一大ネットワークを形成している。
 その現業の底辺部は公益法人と出資会社で固められ、他社の参入を阻む排他的な公団ファミリーをつくっている。
 似たようなネットワークを日本道路公団も保持する(図2)。道路事業の利権と公団のコンツェルンのようなネットワークの巨大さが、「官の聖域」の栄華を物語る。
 したがって、特殊・認可・公益法人を官の三位一体型ネットワークとしてとらえ、無数にある公益法人については問題を一網打尽にするため、その制度に全面的にメスを入れるべきである。
 その意味で、「主務官庁制の廃止」が改革の柱になるべきだ。
 これまでに再三指摘してきたように、公益法人の諸悪の根元は主務官庁制にある。主務官庁が100年以上も昔の民法34条を根拠に公益法人設立の要件の一つである「公益性」を、定義・基準が明記されていないことをいいことに恣意的に解釈して乱造してきた経緯があるからだ。
 ボランティアたちが社会貢献活動を行うNPOの時代に、旧来の「公益法人」の概念はもはや時代遅れだ。国が「非営利・公益事業」に対して税制優遇を行うのなら、NPOに対しても同一の判断基準で認定し、同じ扱いをしなければ不公正である。
 したがって、内閣府に第三者機関の「日本版チャリティ委員会」を新設し、公益法人もNPOも同一の扱いで「非営利・公益性」の認定と税制優遇を受けられるようにする。他方、「非営利・公益事業」と認定されたすべての法人、団体に対し、事業、財務内容のインターネットによる情報公開を義務付けるようにするのが、よいのではないか。

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