NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第26章 「行政請負」公益法人の大問題
 特殊法人が設置した施設を傘下の公益法人が管理・運営する―この種の「請け負い」専門の公益法人のもう一つの例に、厚生労働省(旧・厚生省)所管の財団法人「年金保養協会」がある。この財団は全国の大規模年金保養基地「グリーンピア」計13施設のうち4施設の運営を厚生労働省所管の特殊法人・年金福祉事業団から委託されている。
 親会社ともいうべき当の事業団は、事業の破綻の責任を問われて2001年3月末に廃止され、業務の大部分は新設の特殊法人・年金資金運用基金に引き継がれる。だが、厚生省は、失敗したグリーンピア事業の全廃を決め、事業団は2000年8月、高知県内の施設(「グリーンピア土佐横浪」)の一部を地元の学校法人に売却した。岐阜県内の施設(「グリーンピア恵那」)も2000年4月末で運営を停止した。

年金保養協会

 年金福祉事業団のホームページを開いてグリーンピアの案内をみると、次のようにある。―「(『グリーンピア』は)厚生年金保険、国民年金保険の被保険者や年金受給者、ご家族が自然に囲まれて『ゆったり、ゆっくり、楽しく』くつろいでいただけるようにと、年金福祉事業団が設置・運営している施設です。百万坪の広大な敷地に、宿泊施設、スポーツ・レクリエーション施設等が設置され、ご年配の方からお子様まで、どなたでも楽しむことができます」
 この説明は事実に反する部分がある。事業団はグリーンピアを設置はしたが、その運営は年金保養協会と地元の自治体に委託しているのだ。9施設を委託された自治体は、それぞれの県知事が許可した公益法人に運営事業を丸投げしている。年金福祉事業団は、理事長が前代の幸田正孝氏に至るまで5代にわたり元厚生事務次官が天下り、現理事長の森仁美・環境庁事務次官も前身は厚生省大臣官房審議官という「厚生省の聖域」だ。いわば厚生省が後述するいきさつから大規模年金保養基地を建設し、運営は自らやらずに“身内”の公益法人に任せたのである。

 下請け役の同財団は、北海道・大沼、新潟県・津南、兵庫県・三木、鹿児島県・指宿の四施設を運営、80年7月の第一号施設開業以来、利用客はこれまでに計1600万人を超えたという。
 だが、経営の推移をみると「グリーンピア大沼」以外は利用客は減少傾向にある。「大沼」「三木」の収支は改善方向にあるものの、「指宿」は99年度4800万円の赤字を出し、「津南」も利益が急減している。
 前回の「中野サンプラザ」の例でみたように、特殊法人には国から補助金などの形で多額の税金が投入されるが、その施設を管理・運営する公益法人は減価償却分に相当する施設の借料を特殊法人に支払っていない。年金保養協会も同様だ。だが、借料を負担していないのに、経営は青息吐息で独立採算はおぼつかない。
 同財団の場合、運営に公的資金は使っているのか。99年度でみると、6000万円余りの委託費を事業団から受け取り、これを老人のためのゲートボール大会などの福祉事業(2000万円余)のほか、運営する「年金資金運用研究センター」の委託調査(4000万円)に使っている。年金福祉事業団のほうは、グリーンピアの施設事業や年金受給者への融資事業の収支を示す「一般事業勘定」(99年度は約242億4900万円の赤字、累積赤字額は約1568億4500万円)で、国の厚生保険特別会計から交付金を約641億4600万円受け取っている。さらに大蔵省の資金運用部に預託した公的年金積立金の一部を借り入れて、運用する資金運用事業の収支を表す「資金確保事業勘定」(99年度は約202億200万円の利益、累積赤字額は約5568億1400万円)でも、国の同特別会計から支給された交付金は約12億6800万円に上る。

 つまり、国民の巨額のカネが、特殊法人と“下請け”公益法人の怪しげな経営に惜しげもなく注ぎ込まれてきたのである。特殊法人への国庫交付額は、公益法人側が借料を支払わない分、増えているといってよい。しかも、保養施設の設置により民業を圧迫することにもなる。この種の施設は「福祉」を大義名分に、旧厚生省・労働省に多い。
 いま、自民党首脳の間に夏の参院選を意識した特殊法人改革の気運が高まってきたが、特殊法人の業務を系列公益法人が100%子会社同様に請け負っているから、特殊法人改革は公益法人改革と「連結」させなければ実効は挙がらない。
 公益法人が特殊法人の完全子会社の役割を果たしている事実は、年金保養協会の歴史をみれば一目瞭然だ。グリーンピア構想は、72年7月に首相に就任した田中角栄の著書『日本列島改造論』に促されて具体化し、同年8月、厚生省年金局と大蔵省理財局がグリーンピアの設置に合意している。ここにグリーンピアが関東地方になく、いずれも日本列島のへき地に建設された歴史的背景がある。東京に一番近い「グリーンピア津南」に東京から行く場合、交通の便は車で「東京から関越自動車道で石打ICより国道353号経由で約3時間、210キロメーター」と案内にある。上越新幹線を使っても、越後湯沢駅から宿泊者専用送迎バスで約1時間もかかる。ということは、グリーンピアは時の首相におもねて作られたもので、利用の便とか採算性は始めから度外視されたというほかない。

 年金保養協会が設立されたのは、グリーンピアの実現に向け厚生省が同年度から予算要求を出した73年12月。翌74年にはグリーンピアのモデルプランを作成するよう委託され、全体の基本計画案を作成している。その後、80年7月に「グリーンピア三木」と「グリーンピア大沼」の運営を委託され、営業を開始した。厚生省の企んだ官業を運営する目的で設立され、事業団と一体化して事業を続けてきたわけである。
 こうした経緯から、同財団は当初から厚生省の天下り基地だった。加藤威二・前理事長は元厚生事務次官、加地夏雄・現理事長も厚生省を経て国民健康保険中央会理事長、「健康・体力づくり事業財団」理事長などのキャリアを持つ。常勤理事は理事10人中2人で、柴義康・専務理事は厚生省東海北陸医務局長OB、廣瀬友久・理事も厚生省官房付きから年金保養協会事務局長を経ている。事業団の廃止は決まったものの、同財団はそのまま残る。

テクノエイド協会

 いわゆる「指定法人」の検査・検定・資格認定の問題に移ろう。「指定法人」とは、総務庁の定義によれば、主務官庁(または機関委任を受けた都道府県)が行政事務を行う際、個別の法令や告示、通達に基づき、法人や事業を指定し、@特定の法人に事務の委託を行う、A法人が行う特定の事業を「行政上必須の要件」と位置付ける、B特定の公共的事務を行うことに法律上の権威を与える―という「指定事業」を行う法人を指す(97年9月発表の総務庁行政監察結果報告書より引用)。
 このほか主務官庁が民間の法人が独自に行う事業を「一定の水準にある」と認めて「推薦」する場合もある。これらの法人は行政から事業を委託されたり、行政により「権威付け」されるため、行政との結びつきが強く、補助金・委託費など国から交付金を受け取ったり、天下りの受け皿になるケースが多い。
 財団法人「テクノエイド協会」は、こうした指定法人の一つ。義肢装具士の国家試験機関である。障害者と高齢者の福祉増進に寄与することを目的に、主務官庁の厚生省が87年3月に設立許可している。

 この種の公益法人の問題点は、(1)国家資格自体が「参入規制」になる恐れがある、(2)本来なら必要でなくなった国家資格が、法人があるために温存される恐れがある、(3)独占的な地位を得ることで多大な利権、過剰な利益を得ている可能性がある、(4)補助金など公的支援で経営を賄うため、運営に透明さが要求されるが、情報開示が不十分、D合理化とコストダウンがなされているか疑わしい―などである。
 同財団は二つの点で指定法人中、行政との結びつきが最も強いカテゴリーに属する。一つは、義肢装具士の国家試験を厚生省指定で実施する唯一の公益法人であること(→独占的国家試験機関)。二つめは、福祉用具の研究開発・普及促進に対する助成を行う唯一の指定法人であることだ(→独占的助成機関)。つまり、福祉用具を扱う資格試験、人材育成、研究開発・普及のための助成、調査研究などを国から保証される形で一手に手掛けているのである。この立場上、テクノエイド協会は厚生省と助成事業を委託する特殊法人「社会福祉・医療事業団」から補助金・交付金・助成金の名目で公費を99年度実績ベースで計約7億2240万円(うち補助金は約2億6587万円)受け取っている。これら補助金収入などが総収入の九割近くを占める。
 この厚生省との熱い関係を反映して、総務庁が96年8月―11月に実地調査した結果でも、兄弟関係にあった厚生省所管の社団法人に助成金を優先的に交付したり、理事18人中11人を厚生省OBが占めるなどの問題点が指摘された。

 最新状況はどうか。
 事業の柱は、(1)義肢装具士国家試験の実施、(2)福祉用具(福祉機器、補装具、機能回復訓練用機器など)の研究開発助成―の二つ。国家試験は義肢装具士法により指定試験機関にされ、研究開発助成のほうも「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」に基づいて厚生大臣から指定されている。
 「義肢装具士」とは、医師の指示の下に義肢や装具の装着部位の採型、装具の製作と身体への適合を行う者で、同財団はこの資格の国家試験を年1回3月に実施している。受験手数料は厚生省が決めるが、なんと6万5900円もするのだ。筆記試験のみで、2000年3月は96人が受験して、ほぼ全員の93人が合格している。この受験手数料だけで630万円以上の収入が財団に入る仕組みだ。そもそもこのような国家資格は必要不可欠なものなのか。
 もう一つの柱、「研究開発助成」は、助成する企業、研究機関などは同財団の委員会が公募して選考して決める仕組みで、助成費は事業団から交付され、用具の研究開発が「6000万円以内・原則2年以内」、用具に関する調査研究が「400万円以内、2年以内」。
 2000年度の助成事業予算は前年度実績(4億2262万円)とかっきり同額で、新規助成が20件。事業団の公金を使って助成事業の対象を選ぶのだから、同財団の「福祉用具開発研究委員会」のメンバーや助成対象の採用理由をオープンにする必要があろう。
 厚生省からの補助金の用途としては、各種調査研究、情報システム構築のほか、全国介護実習・普及センター連絡会議の開催など。指定事業として職員5人分の給与も補助金から支払うことが認められている。同財団は寄付者が寄付金の控除を受けられる「特定公益増進法人」にも指定され、厚生省から万事、手厚く遇されている形だ。99年度には、福祉用具情報を全国の製造業者や輸入業者から収集して一元的にデータベース化するIT(情報技術)化に乗り出したが、データを社会福祉・医療事業団のネットワークシステム(WAMNET)に提供するなど、特殊法人との連携を強めている。
 役員構成は、理事長・小島弘仲氏が元厚生省社会局長、常務理事の村尾俊明氏が元厚生省監査指導課長(以上常勤)のほか、元事務次官が2人、さらに元家庭局長、元医務局長と、4人の理事(非常勤)を厚生省OBが占める。職員17人に対し厚生省からの天下り組を中心に理事が18人、監事が2人もいる。頭デッカチの多い公益法人の中でも、役員数が職員数を上回る異常ぶりだ。


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