NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第25章 赤字の特殊法人を補完する黒字の公益法人
 1965年に設立された建設省所管の財団法人に「道路施設協会」というのがあった。「あった」と過去形にしたのは、建設省所管の特殊法人「日本道路公団」が公団直系の道路施設協会にサービスエリアなどの管理を独占的に請け負わせ、利権を貪っていた実態が次々に明るみに出て、98年10月に財団法人「道路サービス機構」と同「ハイウェイ交流センター」の二つに分割を余儀なくされたためだ。

 道路施設協会は、公団から占用許可を得てサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)のレストラン、売店、ガソリンスタンドなどを独占的に設置・管理していたわけだが、それを可能にしたのは一片の「建設省道路局長通達」であった。
 局長通達は、局長の一存で主務大臣をも素通りして出せる。法的根拠はまったくなく、不透明きわまりない行政の支配ツールだ。日本の行政で透明なのは、法律(議会が決める)、政令(閣議で決める)、省令(大臣が決める)、告示(大臣が決める)まで。これらはすべて国民が選んだ国会議員が関与しているのと、「官報」に掲載され、国民は何が決められたかを知ることができるためだ。
 ところが、官僚は通達を勝手に出して自分たちの利益のために役立てることができる。
 道路サービス施設について「一括して同一の占用主体に占用を認めるものとする」とした67年の道路局長通達は、まさにこのような官僚のツールとして使われたのである。財団・道路施設協会はこの通達で道路公団から「占用権」のお墨付きを得て、SAやPAの独占的営業に乗り出すが、その際二つの仕掛けが使われる。

 一つは、同財団が日本道路公団職員の互助会だった「厚生会」の資本を元手に設立されたことだ。そして建設事務次官か国土庁事務次官が天下る道路公団総裁の退任後に、財団理事長のポストがあてがわれた。公団が「資本」と「役員」を送り込んで業務を独占する財団をつくり、利益を独り占めする構図ができ上がったのである。
 もう一つの仕掛けは、同財団が、自ら出資した直系の関連会社とだけ随意契約して独占的利益を山分けしたことである。道路施設協会が先の二財団に分割される前の97年当時、同協会の出資関連会社は実に67社にも上った。このうち58社の代表者が日本道路公団もしくは建設省出身者で占められ、深刻な不況にもかかわらず独占的契約のおかげでわずか1社を除く66社が経常利益を計上している(96年3月期決算)。つまり、日本道路公団が93年以降、国庫(道路整備特別会計)からの補助金・出資金が急増大し、財投資金(郵貯、公的年金積立金、簡易保険積立金など)からの累積借金が当時21兆円にも膨らんでいたのに、子会社ともいうべき道路施設協会とその関連会社は「不況どこ吹く風」とばかりに好景気を謳歌していた。特殊法人の経営は借金だらけで巨額の税金を注ぎ込んでいるのに、直系の財団と関連会社は国民の与り知らないところで大いに潤っていたのだ。

分割された道路施設協会

 この道路施設協会が、世論の怒りを呼び、サービスに競争性を持たせる目的から閣議決定を受け、二つに分割されて再出発したのである。その一方の「道路サービス機構」は自らを「ジェイサパ」、他方の「ハイウェイ交流センター」は「ハロースクウェア」の愛称で呼び、全国の高速道路にある約500カ所のサービスエリアを半分ずつ分けて100キロ区間単位で交互に運営することとなった。双方とも利用者本位のサービスを強調する。だが、両財団とも高速道路のサービスエリアなどにあるサービス施設を建設・管理している事業内容自体は、道路施設協会時代と変わらない。
 問題は、公団一家の業務独占が改められ、サービスの業務委託で競争入札制度が導入され、公正に実施されているかどうか、である。
 結論からいうと、分割の効果が現れはじめたとはいえ、なお見せかけ上の変化にすぎない可能性もある。
 例えば、競争入札制。「道路サービス機構」管理下の基山(きやま)パーキングエリア(福岡県)で入札の結果、99年4月にハンバーガー・チェーンの「ロッテリア」が、同年7月には「ハイウェイ交流センター」管理下の小谷(こたに)サービスエリア(広島県)で地元の製パン業者「アンデルセン」が焼きたてパンショップを開業している。このように新設エリアなどで新しいサービスが生まれているものの、「東名」など基幹道エリアのサービス内容に顕著な変化はまだみられない。
 競争入札制の効果がなお「地域限定版」にとどまっているのだ。その分、旧来の公団一家の既得権業者が甘い汁を吸っているともいえる。

 両財団の体質が道路施設協会時代とさほど変わっていない疑いを抱かせているのは、常勤理事ポストをことごとく道路公団と建設省の天下り組が占めているためだ。公団OBの多くは元は建設省からの天下りだから、実態は依然、建設省の天下りの温床といってよい。
 「道路サービス機構」の場合、常勤役員は理事長、副理事長、常務理事各1人及び理事4人、監事1人の計8人。うち杉岡浩・理事長が前道路施設協会理事長で元日本道路公団理事。それ以前に国土庁防災局長、建設省大都市圏整備局長を務めた建設省OBだ。ほかに副理事長、常務理事、理事1人も公団出身者。建設省・道路公団ファミリーが文字通り同財団を牛耳っているといえる(この執筆中に、同財団が東京国税局の税務調査を受け、99年3月期までの3年間で約7千万円の所得隠しを摘発されていたことが判明した)。
 「ハイウェイ交流センター」も似たり寄ったりだ。理事長、副理事長と理事5人、監事1人の計8人が常勤。うち公団OBが公団理事を務めた理事長をはじめ6人、建設省からの直接天下りが1人、常勤監事は国税庁OBと、全員が「官」関係者で占める。この旧来構造温存型の役員体制では、体質改善などおぼつかない。

放送大学教育振興会

 文部省所管の財団法人「放送大学教育振興会」を取り上げてみよう。同財団は政府全額出資の特殊法人「放送大学学園」が設置した放送大学が実施する放送授業の教材の作成などを行う。毎日18時間テレビやラジオ放送で行う授業のテキスト作りという重要業務を特殊法人から委託されているわけだ。特殊法人自らがなぜ、それをやらないのか?
 同財団の加藤義行・常務理事はこう説明する。「放送大学の中でテキストの作成・配布をやるという初期の構想は、特殊法人の定員の枠もあって取り込めなかった。文部省も既存の特殊法人でやれる適当なところはないか検討したが、断念した。結局、最低一億円くらいの資本が必要だったが、なかったので、当初は任意団体で始めた」。
 まず任意団体として84年にスタートし、放送大学開講(85年4月)後の85年12月に財団に変身している。自前の事業収入で事業を賄い、補助金など公的資金は受け取っていない。放送大学向けなどへの印刷教材の販売が収入の7割、ビデオ教材が同3割を占める。在学生の増加と通信衛星を利用した全国向けデジタル放送の開始で、財団の事業収益も98年から急伸している。この収益から教材の研究開発などに助成金も出している。

 先の加藤常務理事は「放送大学側の方針通り教材を作る。財団は放送大学の仕事の請け負いをやっているのだから、大学側とは逐一連絡を取っている」と語る。発足時から現在に至るまで、財団はひたすら放送大学の業務を請け負って事業を拡大してきたわけである。
 つまり、親会社に相当する特殊法人(放送大学学園)が99年度予算ベースで国からの出資金が約2億800万円、補助金が約111億1700万円と、総収入150億3200万円の大半を事業収入である授業料・入学料(計36億1300万円)以外の「国民の税金」に頼っているのに対し、下請けの財団は収益を順調に増やしている。特殊法人と財団の事業は一体化しているのだから、財団の利益を国民の側に還元する仕組みをつくれば、特殊法人向けの国民負担は一段と軽くなるはず。だが現実は、利益は「見えない政府」(財団)に年々吸い取られ、国民の負担は減っていかない。

特殊法人が設けた施設を管理・運営

 特殊法人が設置した施設の管理・運営を専ら行う公益法人もある。東京のJR中野駅前にそびえる総合福祉施設「サンプラザ」を管理・運営する労働省所管の財団法人「勤労者福祉振興財団」がこのケースだ。
 サンプラザの「相談センター」に置かれている勤労青少年向けパンフレット。その表紙には「目覚めよう、新しい自分。」と大書してある。内容は、職場での悩みごとの相談や職業ガイダンスを盛ったもので、「専門相談」の項をみると、曜日によって弁護士とか精神科医が相談に当たる、とある。
 「中野サンプラザ」は全国の大都市圏に展開する15の「全国勤労青少年会館(愛称、サンプラザ)」の第一号。1963年に特殊法人の雇用促進事業団(現在の雇用・能力開発機構)が、勤労青少年の雇用の安定と福祉の増進を図ることを目的に設置した。

 オープン当時は雇用促進事業団が直営していたが、88年7月に「勤労者福祉振興財団」が設立され、同事業団に代わってその管理・運営を引き受けるようになる。事業団が直営を放棄して管理・運営を財団への委託に切り替えたのは、同財団によれば、行政の事務簡素化の観点から民間への委託推進を主張した、第二次土光臨調の答申(83年3月)が引き金になっている。いや、実情はこの答申を奇貨として、「官」が利権追求の基地としての公益法人づくりに積極的に乗り出したふしがある。中野以外のサンプラザについても、労働省が都道府県に委託して財団法人を知事の許可でつくらせ、これらに管理・運営を任せてゆく。
 したがって、勤労者福祉振興財団にすれば、「国に代わって事業をやっている」(管理部)という認識がある。だが、問題は国(政府)のやることが国民の負担を増やしていることだ。特殊法人に対しては国から補助金などの形で多額の税金が投入されるが、その施設を管理・運営する公益法人のほうは減価償却に相当する施設の借料を支払っていない。特殊法人側はこの借料相当の収入が入らないことになるので、その分国民の負担が実質的に増えることになる。

 旧雇用促進事業団の場合、サンプラザのような福祉会館やレジャー施設を全国に相次いで建設するなど際限ない肥大化を続けて規律を失い、事業は破綻状態となった。結果、99年の事業団廃止、新特殊法人「雇用・能力開発機構」の設立が閣議で決まっている。これを受け、財団が事業団から毎年受け取ってきた先の相談業務などの委託費(公的資金)が99年度から打ち切られ、財団は自立型経営への転換を余儀なくされた。
 しかし、親会社ともいうべき事業団が廃止される事態に直面したにもかかわらず、財団の経営は赤字続きからなお脱け出していない。施設の借料を支払わないで済む“特権”も、黒字経営に転じさせるバネになっていないところが問題だ。官業特有の硬直性が力強い経営改善を阻んでいる。
 財団の収支状況の推移をみると、95年度以後、98年度を除く毎年、赤字を計上している。収入が支出を上回った唯一の年度である98年度も、長期借入金5億円が「収入」に含まれているためで、実質は赤字だ。

 こうして同財団は、特殊法人に施設の借料を支払わないうえに公的資金にほかならない委託費まで受け取って、なお赤字を垂れ流していたことになる。
 財団の役員構成をみると、常勤が理事長、専務理事、理事1人の計3人でいずれも労働省OB。中村正・理事長は労働省大臣官房総務審議官出身。労働省所管の財団法人「高年齢雇用開発協会」理事長を経て雇用・能力開発機構の新設と同時に99年10月に就任した。年収は、昨年、経営自立化に向け一割カットして約1800万円。小田切勝幸・専務理事は福井労働基準局長の出身で、年収は約1600万円を得る。
 特殊法人が設けた施設の管理・運営を行う公益法人は、福祉施設や保養所、病院を持つ労働省、厚生省所管に多い。そして既にみたように、業務を委託した特殊法人自体がルーズな経営から破綻同然になり、運命共同体だった請け負い役の公益法人も慢性的な経営不振に陥っている。これら一連の経営の弛みは、国民負担の増大となってはね返る。
 解決策は、特殊法人と公益法人の廃止、既存施設の売却処分、あるいは公益法人の営利企業化(民営化)といったラディカルなものにならざるを得ない。特殊法人と関連公益法人を蝕む病は相当に重い。


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