NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第24章 「情報公開」は形だけ
 財団法人「ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)」の前理事長、古関忠男容疑者らによる業務上横領・背任事件は、財団を隠れミノに政官界に働きかけて事業を広げ、私腹を肥やしていった実態を浮かび上がらせた。事件は次の四つの要因が絡んで、前理事長の「公益法人を利用した典型的な犯罪」に発展したものだ。

<1>「公益性」を看板に、政官界工作を繰り広げた。→公益法人の信用を悪用
<2>関連財団法人をほかに三つもつくり、事業基盤を広げつつ、一億円以上の年収を手にした。→出身母体で監督官庁の労働省を手玉
<3>KSDが設立した任意団体「KSD豊明会」、関連の政治団体「豊明会中小企業政治連盟」を迂回させて自民党に献金したり、党費を肩代わりして党員を増やした。→労働省の監督権限が及ばない任意団体を使って政界工作
<4>労働省は理事長をはじめ天下りOB役員の監督に甘く、チェック機能をおろそかにした→監視体制の劣化

 つまり、事件は閉ざされた「官の聖域」で、理事長が暴走した結果、起こるべくして起こったのである。
 事件の根本原因は、経営の実態が民間の上場株式会社と違って、外部の目から隠されているところにあった。法人がどういう事業を行い、どういう結果を出しているか、という基本的な事実が情報公開されず、理事会をチェックするはずの評議員会もつくられていなかった。公益法人という「隠れミノ」を被って、まるで無人の野を走るように「私欲」を追いかけ、事件を引き起こしたのである。
 政府は96年9月20日「公益法人の設立許可及び指導監督基準」について閣議決定している。その中で、「情報公開」の必要性を認め、次のように明記した。

(1) 公益法人は、次の業務及び財務等に関する資料を主たる事務所に備えて置き、原則として、一般の閲覧に供すること。
1 定款又は寄付行為(筆者注、社団法人の「定款」に相当する、財団法人の事業の目的、組織、業務に関する基本規則)
2 役員名簿
3(社団法人の場合)社員名簿
4 事業報告書
5 収支計算書
6 正味財産増減計算書
7 貸借対照表
8 財産目録
9 事業計画書
10収支予算書

(2) 所管官庁においては、(1)に規定する資料を備えて置き、これらについて閲覧の請求があった場合には、原則として、これを閲覧させるものとする。

 ―「平成11年度公益法人に関する年次報告」によれば、この指導監督基準に基づき、98事業年度から事業報告書などの情報公開が実施されているという。そして、国所管の公益法人の場合、平均九割以上が「一般の閲覧に供している」と記してある。
 だが、実態はどうなのか。まず筆者の現場体験からいうと、こうした事業報告書などの開示を含む取材依頼に対し、一切の回答を拒否したケース(財団法人「内外学生センター」〈旧「学徒援護会」〉)がある。こういう法人は、一般の人が事業内容を知りたいから事業報告書を見せてほしい、と頼んでも承諾しないに違いない。
第二に、渋りに渋った末に取材に応じたが、事業報告書などのコピーを拒否したケース(財団法人「水資源協会」)。この場合、先方の常務理事と総務部長は(指導監督基準が示した)開示ルールに従い関係書類を出して見せたものの、書類のコピーはルールにないからと認めなかった。そのときの総務部長とのやりとりを再現すると―。

(筆者)財団の設立の際、公益法人などからの出えん(出資)があったというが、どういう法人がいくら出したのか。
―いえない。
(筆者)いえない理由は何か。
―これを以前にも聞かれたが、申し上げられない、と答えて済んでいる。
(事業報告書などのコピーを筆者が依頼したのに対し)
―閲覧はしてもいいがコピーはダメ。開示ルールの範囲でしかやれない。

 第三に、取材には口頭で応じたものの書類は見せないケース(財団法人「勤労者福祉施設協会」)。「証拠に残るものは一切渡せない」というわけである。事実上の「閲覧拒否」だが、「自分の一存では(情報公開していいかどうか)決めかねる」(総務課長)というのが表向きの理由だ。この場合、そもそも指導監督基準を順守するという姿勢に欠ける。

公益法人の名簿も実質「非公開」

 第四に、情報公開している資料自体がデタラメもしくは事実を歪めているケース。もちろん当事者はデタラメな資料を公表している意識なぞなく、きちんとした資料を作成して情報開示しているつもりだ。
 このケースに該当するのが、財団法人「公庫住宅融資保証協会」。特殊法人である住宅金融公庫、年金福祉事業団、沖縄振興開発金融公庫が行う政策的な住宅融資を推進するために72年に設立された公益法人だ。特殊法人の補完事業を行う裏方の存在である。
 その99年度の財務資料の一つ、「正味財産増減計画書」がインチキくさいのだ。理由は、前年分と同様、一年間の正味財産の増減がぴったり同額でゼロになっているからである。公益法人の要件の一つに「営利を目的としないこと」(民法34条)とあるゆえに、儲け過ぎないように配慮したせいか、引当金や準備金を操作して正味財産が年間を通じて増えも減りもしなかったように細工してあるのだ。民間企業の決算案ならば、株主総会で承認されるはずがない。この種の資料も、立派に監督庁から「情報公開扱い」されているのである。

 だが、公益法人の情報公開度を測る“極め付き”は、全国の公益法人名簿であろう。99年10月現在、国所管、都道府県所管を合わせて2万6354ある公益法人の名簿すら、米国のようにインターネットで誰でも知ることができるようなディスクロージャーがなされていないのである。
 つまり、税制を優遇され、補助金など公金を交付されている公益法人を探そうにも、国民はそのリストさえ、簡単に得られない。リストを手に入れる方法は、「公益法人協会」なる財団法人が刊行している「全国公益法人名鑑」という本を購入するか、これを備えた公共図書館に行くしかない。しかも、この本は一冊9千円(平成12年版)もするから、なかなか買えないうえに一般の書店には置いていない。
 以上が公益法人に関する「情報公開」の現実である。政府はいま、「IT革命」を掲げてパソコン操作技能の普及などに躍起だが、肝心の政府のお膝元にある「国民の税金」の使い途にもつながる公益法人の事業活動や財務内容の情報公開は真剣にやろうともしない。政府はIT革命の前提となる自らの情報公開はしないまま、民間のIT革命をやろうというのである。
 「見えない政府」の存在を「国民に見えるようにする」のは、政府にとってたぶん危険すぎることなのだろう。本連載で「公益法人」を繰り返し取り上げてきたのも、不徹底とはいえ改革の俎上に乗せられた「特殊法人」に比べ、税金を食ったり、政府の周辺業務を独占したりするその実態が薄闇に隠され、始まったばかりの情報公開も形ばかりなためだ。

特殊法人を補助・補完

 話を本題のケース・スタディに戻そう。「官」の天下りの温床である特殊法人の事務を補助・補完している公益法人がある。先の「公庫住宅融資保証協会」もその一つ。大蔵省と建設省共管の財団である。事業収入額、事業支出額とも公益法人中のトップ級だ。
 住宅金融公庫などが行う住宅融資の債務保証と債務の返済を完了する前に死亡した場合などに残債務を家族などが団体信用生命保険により一括して弁済する制度にかかわる事業を行っている。
 理事長の高橋進氏は元建設次官。住宅金融公庫総裁を経て、97年6月に同財団理事長に就任した“渡り鳥”だ。ことし10月に就任した若林良之助・常務理事は、大蔵省官房参事官出身。同財団が大蔵、建設両省の共管であることを反映して上級役員ポストを大蔵、建設OBが分け合う構図だ。
 問題は、この公益法人が実質黒字なのに対し、業務を委託する形の親会社ともいうべき特殊法人は赤字にあえいでいるか、国から多額の補助金や利子補給を受け取っていることだ。

 特殊法人の欠損や増大する公的資金の投入は国民の負担増につながるから、公益法人に生じた利益を特殊法人に還元する仕組みをつくって国民負担を減らすべきだ、という考え方が出てくる。あるいは、業務の二重構造を解消して特殊法人本体(もしくは民営化された会社)に公益法人の業務を統合すれば、その分、特殊法人の経営悪化も相当緩和される、とも考えられる。あるいは、公益法人を民営化させ、営利法人とすることで、事業を透明化し、競争原理の導入でコストダウンに結びつけられるという考えも成り立つ。いずれにせよ、この特殊法人と公益法人の「二人三脚型」の事業形態が、全体としてコスト高と国民の負担増をもたらしていることは間違いない。
 このことを示すために、同財団の関係特殊法人の一つ、住宅金融公庫を例にとってみる。財政投融資の投入先の最大口財投機関で、昨年度は財投受け入れの当初計画ベースが10兆1千億円強、使った実績が7兆5800億円余り。この差は、超低金利政策下で住宅ローンの利用者が高金利時代に同公庫から借りたローンを民間金融機関に借り換えて「繰り上げ返済」したため、使い残しが大きく出たせいだ。この繰り上げ返済による金利収入の減少とローン返済の延滞増から同公庫の経営は著しく悪化し、穴埋めのため国の一般会計から補給金3376億円、交付金2834億円、合計6210億円を受け取っている(99年度)。
 これに対し、補完役の同財団の経営は厳しい経済環境を背景に、保証債務の履行件数の過去最高水準に達する増大、債権回収の伸び悩みにもかかわらず、昨年度の収入は支出を83億円上回った。つまり、「特殊法人の実質赤字」対「関連公益法人の実質黒字」の構図がくっきりと浮かび上がるのである。

水資源協会の暗躍

 もう一つ、特殊法人の水資源開発公団と補助・補完関係にある国土庁所管の財団法人「水資源協会」を取り上げてみよう。
同財団は比較的歴史が新しく88年の設立。ダムや用水路などの建設・管理を業務とする公団に対し、水資源開発・保全・利用に関する調査研究、国土庁などが主催する「水の日」、「水の週間」の諸行事への協力と推進、水資源についての国民の関心を高めるための広報・出版活動など、ソフト面から公団の事業を支援する。ダムや堰の建設を地域住民が受け容れる環境づくりが狙いだ。公団や国土庁、建設省などから受注したり委託される調査研究が主な収入源で、昨年度は実質黒字、事業収入は約22億6800万円に上った。この調査研究事業で役員(10人)、職員(29人)の給与・報酬を賄い、国から補助金は受け取っていない。国や公団からの調査委託費は、昨年度は計1億円弱。
 これに対し水資源開発公団は、2000年度予算で国から交付金を約541億3100万円、補助金を318億3700万円受け取るほど、国庫への依存度が高い。この公団と財団の関係も、先のケースと同様だ。国民負担の観点からすれば、双方の重層的な業務は全体として競争排除やコスト高をもたらすため、業務統合や民営化が求められよう。
 この財団のトップ理事三人は、いずれも水資源開発公団からの天下りOB。理事長(非常勤)の川本正知氏は前総裁、専務理事(常勤)の毛涯卓郎氏は業務参与OB、常務理事(常勤)の稲川暎二氏は監査室長出身だ。批判の高い特殊法人の業務の周辺にも、公益法人が根を張る。


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