■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「白昼の死角」
第241章 トランプ・マスク政権の「次の一手」/イーロン・マスクの底知れぬ野望(上)

(2025年1月26日)

天才は守る

トランプ第2次政権が幕を開けた。恐らく米国史上、内外に最大の衝撃を与えそうな政権だ。イーロン・マスクがその主要な役割を担う。マスク独特の奔放な発想とシナリオをトランプが容認し、後押しするとみられる。マスクの影響の大きさから「トランプ・マスク政権」と呼ばれるようになるかもしれない。

マスクの壮大な政策シナリオは、技術革新を妨げる規制の大規模撤廃に始まり、規制作りと管理を担った官僚の大量解雇と巨額の公費カット、さらに規制撤廃によるAI革命の推進、自らが手掛ける先端AI事業の大繁栄へ―と展開する。これをマスク個人のファンタジーに過ぎない、とみるべきでない。マスクの政府縮小改革に米国民のトランプ人気は、少なくとも発表直後は、急上昇するかもしれない。多くの人々が心の奥に共有する「アメリカの自由思想」が、マスクの発想の源流になっているからだ。

マスクが米大統領選でトランプ支持を打ち出して以来、米国史上最高額の政治献金(約420億円)もあって、トランプ大統領の信頼は絶大だ。「マスクは史上最大の天才。私は天才を守る」と公言した。選挙勝利後、インド系起業家のビベク・ラマスワミと共に新設された「政府効率化省(DOGE)」の共同責任者に任命される。マスクへの信頼と期待の表れだ。マスクは、トランプ陣営への肩入れで市場の評価を上げて世界1の富豪となった。

マスクはスペースXとテスラのCEO、ソーシャルメディアXのオーナー、生成AI開発を目指すxAI、バイオテックのスタートアップ、Neuralinkの創始者でもある。電子決済サービス「PayPal」、チャットGPTを生んだ「オープンAI」の創業にも加わった。並外れた起業の才と影響力を持つ。南アフリカ出身の53歳。かつてロケット生産工場で火星へ移住する考えを来訪者に明かしている。「世界戦争、小惑星の衝突、文明崩壊が起きた場合、人類の(偉大な)意識を保護するため火星に避難する」と。

政府職員を大量解雇

米国の建国の理念は、国民主体の民主主義だ。国民が選挙で選んだ人々が政府を運営するという基本理念がある。しかしマスクは「現状の米国はそうは機能していない」と明言する。DOGE共同責任者のラマスワミと共に、米ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿したDOGE計画によると―
「法的な命令の大部分は、議会が制定した法律ではなく、選挙で選ばれない官僚が公布した“規則と規制”だ」と指摘する。続いて「政府の法執行の決定や裁量的支出の大半を行っているのは、民主的に選ばれた大統領でも大統領に政治任用された人々でもない。何百万人もの政府機関で働く、公選も政治任用もされていない公務員だ」と実態を解説する。

ところが公務員は法的保護措置によって解雇される心配がない。「これは反民主的かつ建国の精神に反する。納税者に大きな直接的間接的コストを課すこととなる」と断言。問題打破のため、マスクら2人は3つの主要な政策を掲げる。「規制の撤廃」「行政の縮小」「コスト節減」だ。規制の数々がAI技術革新を妨害した、とバイデン民主党政権下のマスクの実感が反映されている。一方、マスクにはテキサス州オースティンやテネシー州メンフィスなどの自社工場が環境汚染を起こし、環境当局に何度も摘発された前科がある。

マスクらの主張を要約すると、こうなる。先端AI技術の進化と事業展開を邪魔する規制をことごとく撤廃する。規制を作り管理してきた官僚組織は縮小させなければならない。規制をなくしていけば、その分担当の官僚も要らなくなり、ムダな税金の負担も減らせる。
政府職員の解雇は、歴史的に大統領令によって可能だとする。米最高裁も、大統領令によって公務員規則の修正ができる、と支持した。従って、大統領令で大量の職員解雇から政府機関の移転までを実現する。その方法について、次のように記した。「(休暇を取りがちな)政府職員に週5日の出勤を義務付ければ、われわれが歓迎する自発的離職者が大量に出るだろう」。マスクは既に行政改革で政府予算の3分の1近い2兆ドルの削減計画を表明した。

最後にDOGEの勝利を宣言する。「ワシントンの既得権益層からの猛攻撃に対処する準備はできている。勝利する予定だ。決然と行動する時が来た」

強者の栄光を追求

マスクの政権内発言は勢い付く。政権の「経済安保」と並ぶ最重要課題の「移民政策」。流れは結局「不法移民はノーだが、高度技能・知識を持つ移民はもっと受け入れる」差別型政策に行き着いた。
これもマスクの影響が大きい。共和党内で反移民で強硬な極右とされる活動家、ローラ・ルーマーは、マスクとの対談で高度技術に明るい外国人の移民に拒否感を露わにした。マスクは言った。「あなたはアメリカが勝つことを望むのか、負けることを望むのか」

その後、トランプはマスクに同調した。「外国籍の学生が大学を卒業したら、卒業証書の一部としてグリーンカード(永住権)を自動的に発行する」と公表するまでになる。
トランプ第2次政権が、1次の前回よりも破壊的な革新性を持つことが分かる。いわば過激ニューライト政党に変身したかに見える。しかし、それを一過的な一時的変身と捉えるべきではない。むしろアメリカの歴史に根差した文化への回帰現象とみなすべきだろう。

その文化的基盤の大きな部分が、「強者のエリートによる社会支配」という超エリート主義思想と考えられる。一種の力崇拝で、とりわけ支配力が尊ばれる。
これはもう一方の一般市民に対して民主主義の理念が掲げる「自由主義・平等主義」とは一見してチグハグだが、競争的な自由資本主義下の理念と実態の矛盾として理解できるだろう。

マスクが追求してきた「アメリカン・ドリーム」に通じる思想が、「富者・強者の栄光」の追求だ。人間を超える超能力が社会を進歩させる。この種の信念が、マスクを次の行動に突き上げる。テクノ・リバタリアンたちが、同じ方向を向き、規制なきラディカルな自由資本主義を求める。
ラマスワミは、マスクの移民差別政策を支持し、こう警告した。「現状のままだと、アメリカは“凡人(mediocrity)文化”に向かう」。若い有能な外国人移民をもっと受け入れなければ、アメリカの創造性は失われてしまうという危機感が明らかだ。
トランプ第2次政権の衝撃度は、おそらく1期目を遥かに超える。