■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第213章 グルテンフリーのコメに脚光/食料安全保障に備えよ(中)

(2022年10月6日)

日本農業の再活性化こそが地域再生の要だが、それは同時に食料の安全供給を確保する手立てでもある。18年の減反政策廃止を機に、再活性化が著しい地域では、米粉など加工用米、飼料用米、輸出用米の需要増と対応力が目を引く。食料安全保障への道を開く新しい農業の素顔とは、どんなものか。


コメパンマン登場

東京都と新潟県は7月、米粉の活用と消費促進に向けた協定を締結した。小池百合子・東京都知事と花角英世・新潟県知事によれば、輸入小麦の価格高騰などで代替として期待される米粉の活用と消費の促進を図るのが狙い。協定には、新潟県産の米粉を活用した米粉パンのPRや製造販売への支援などを謳う。PRキャラクターには「コメパンマン」が登場する。
新潟県は、小麦粉消費量の10%以上を米粉に置き換える「R-10プロジェクト」を展開する一方、東京都は6月の補正予算で新潟県産米粉の活用を盛り込んでいた。都と協力することで、大消費地の首都圏で消費拡大の高波を起こせるのでは、と県関係者は期待する。
日本の食料供給は、国産と、輸入上位4カ国(米国、カナダ、豪州、ブラジル)で供給カロリーの9割弱を占める。食料安全保障を確保するには、国産を増やすことと、主要輸入国との安定的な友好関係の維持が欠かせない。

一方、コメの需給を見ると、変化は急だ。国内のコメ消費量は、右肩下がりを続ける。半面、コメを炊飯米として消費するだけでなく、米粉にしてグルテンフリーの素材としても使う動きが海外で活発化し、輸出が急伸している。ピンチの中でチャンスが到来したのだ。
チャンスは、世界の健康意識の高まりとグルテンフリー市場の急拡大がもたらした。コメは成分にグルテンを含んでいないため、麦類に含まれるグルテンによるアレルギーを避けられる。グルテン・アレルギーはパンが主食の欧米などで増加の一途をたどる。農水省によると、世界のグルテンフリー市場は急拡大を続ける。2024年に市場は、100億米ドルを超える見込みだ。
日本では、米粉用米の需要量は2012年度以降、2万トン余で推移してきたが、グルテン表示や認証の新制度で需要を21年には4万トン規模に押し上げた。グルテンを含まない米粉の特性を発信する「ノングルテン米粉第三者認証制度」や「米粉の用途別基準」の運用を18年から開始。さらに製品のグルテン含有量が1ppm以下となるよう「ノングルテン米粉の製造工程管理JAS」を20年に制定し、米粉の国内普及・輸出拡大を促進した。
このことは、コメ物語の次のページが開かれたことを意味する。

「コメの飼料で肉が旨い」

米粉をはじめコメ事業の成功ケースを見てみよう。全国4位のコメどころで、農業の活性化が進む山形県。山形は、農業生産性(耕地1ヘクタール当たりの農業産出額)を2020年までの10年間に群馬、山梨、長野などと共に、2割〜3割改善した。
山形産の新たなブランド米「つや姫」。山形県の庄内地域は、すでに江戸時代にコメの一大産地として全国に知られるようになる。その繁盛ぶりは井原西鶴の『日本永代蔵』にも記されるほど。コメづくりの情熱が農家に代々引き継がれていく。その品種の最新版がつや姫だ。イネのテスト交配を重ね、かつての主力「ササニシキ」、「はえぬき」に続きデビューしたのが2010年。全国展開を狙い、生産者を有機栽培と特別栽培(化学肥料の窒素成分使用量が50%以下)に限定するなど品質管理を徹底し、トップブランド化を目指した。農水省発表の4月の相対価格(全銘柄平均)は、新潟県魚沼産コシヒカリに次ぐ全国2位となった。成功への一歩をしっかり印したのだ。

庄内地域・三上町にある「まいすたぁ農場」(写真)では、新しい米づくりを提案し、庄内の農地の受託生産をする。主食用のほか、加工・飼料・輸出用とバリエーション豊かなコメ生産を奨励する。自らも農場で「はえぬき玄米」を生産し、健康志向の顧客にパックご飯にして届ける。
庄内の遊佐(ゆざ)町では、海外依存が圧倒的に大きい養豚用飼料にコメを使う。「飼料用米プロジェクト」を2004年に立ち上げ、早くからコメの自給率向上と水田を次世代に残していく社会モデルづくりを提唱してきた。コンセプトは「コメを飼料にした養豚で水田を守る」。今年1月、直営農場「平田牧場」から「国産63」をキャッチフレーズにした豚を初出荷した。キャッチフレーズの意味は、「飼料の63%を国産原料にして育てた豚」。63%のうち61%は遊佐町の生産者が作った飼料用米で、残りは大麦などで配合した。通常の配合飼料ではトウモロコシを61%使っているため、コメを61%とした。国産のコメが輸入トウモロコシを完全に代替した形だ。
飼料づくりから意外な知見も得た。同社の新田嘉七社長は「コメを飼料にすると肉が旨くなることが分かった」と言う。この知見が今後、内外の養豚向け飼料づくりに重要なヒントを与えそうだ。

ドイツでも日本産米粉に人気

日本産コメの魅力は海外にも知れ渡り、中国や香港、台湾などアジアばかりか、欧州でもコメから作った日本酒の人気は高まる。日本酒の最大輸出相手国は中国。2021年の中国向け日本酒輸出は数量で52%増の7268キロリットル、金額で同78%増の102億8000万円となった。輸出金額ベースで10年前の2011年当時の50倍近い。
もう1つ、ここにきて海外で存在感を高めるのが米粉だ。ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、2021年1月〜10月の日本産米粉のドイツ向け輸出額は、コロナ流行前の2019年同期比で2.2倍に急増した。ジェトロの協力を得て、ミュンヘンのカフェが日本産米粉を使ったドイツの伝統的なリンゴケーキのレシピを今年2月に開発、ベーカリー事業者らの評判を呼んだ。ドイツで日本産米粉普及への期待が盛り上がる。

こうした内外の米粉動向に呼応して、日本のJAなど農業団体も米粉を含む作物づくり戦略の練り直しに乗り出した。JA福島中央会などは、7月の理事会で米粉、冷凍米飯、パックご飯、大豆や麦などの畑作物にも着目し、生産拡大の新戦略を定める方針を決めた。8月以降、福島県内のJAの関係委員会で具体策に向け議論を進めていく。これまでの議論で、米粉は県内でもパンや菓子、中華麺などに利用する事業者が増えているものの、製粉に使う機器を導入している製粉会社が少なく、せっかく米粉用コメを作っても米粉の生産が限られる、などの問題点が判明した。
米粉取り組みへの具体的な課題が、次第に浮き彫りにされてきた。


〈写真〉まいすたぁ農場