■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第154章 年金積立方式、改革の焦点に/「維新八策」契機に議論必至

(2012年9月18日)

大阪維新の会が8月末に発表した次期衆院選の公約「維新八策」最終版で、「年金制度の賦課方式から積立方式への移行」を打ち出した。 これにより、消費増税から切り離されて先送りされた社会保障の抜本改革で、年金積立方式の是非が最大級の焦点に浮上するのは必至だ。

現行制度もはや限界

現行の公的年金制度は、年金を受給する高齢世代を現役世代が保険料を納付して支える「賦課方式」を基本に、基礎(国民)年金の2分の1を税金で賄う税方式を組み合わせている。これに対し、「積立方式」は「若い働き世代の時に保険料を積み立て、本人が高齢時に積立金を運用益込みで受け取る仕組み」だ。
賦課方式の場合、「若い者が高齢者を支える」世代間助け合いの色合いが濃いため、十分に機能するためには「年金保険料を納付する側の働き世代の数が多く、年金を受け取る受給者(高齢者)が比較的少ない」のが前提条件となる。
このため現在のように少子高齢化が進み、団塊世代が受給側に回るようになると、需給のバランスが崩れ、財政は厳しくなる。人口構成の変化に加え、デフレ経済の長期化や非正規雇用者が増えたことで働き手(年金納付者)の収入が低迷し、年金未納が急増したことも、年金財政を一段と圧迫している。収支の目算が狂って財源不足が顕著となり、賦課方式の限界が見えてきたのだ。

現行制度の枠内で年金の財源不足に対応しようとすれば、次の3つの選択肢しかない。
1. 保険料の引き上げ(収入増)
2. 給付費の引き下げ(支出減)
3. 支給開始年齢の引き上げ(支出減)
「2004年の年金改正」で約100年にわたり年金財政の将来見通しを得たはずなのに、昨年秋に「支給開始年齢の引き上げ問題」が噴出したのは記憶に新しい。

実質未納率7割に

厚生労働省の調査によると、2011年度の国民年金未納率は41.4%と過去最低に落ち込んだ。これに経済的理由などによる納付免除者や納付猶予者を合わせると、実質未納率は国民年金被保険者(第1号)約1940万人の7割に達する。5人に3人強が収めていないことになる。同省の未納原因調査によると、「経済的困難」と「年金制度・行政への不信感」によるところが大きい。

若者の経済的困難については、1990年代後半に始まった非正規雇用の急拡大が主因だ。総務省によると、昨年には非正規雇用者が全雇用者(役員を除く)の3分の1超に上る35%を占めた。文部科学省が8月に発表した学校基本調査(2012年速報)では、今春の大学卒業者約56万人のうち非正規雇用やパートタイマーなど安定した仕事に就いていない者が22.9%にも上ることが明らかになった。ほぼ4人に1人が、心もとない不安定雇用の状態にあるのだ。
しかも大卒者のうち3万3000人以上が「就職も進学もしなかった」者で、ニート(若者無業者)かそれに近い状況にある。
若者に多い非正規社員の低賃金も問題だ。平均すると、正社員の約3分の1の低さである。厚労省の調査によると、国民年金(第1号)被保険者のうち臨時・パートの割合は約3割を占め、非正規雇用者の中でも保険料完納者の割合が最も低い。所得が低く未納率の高い臨時・パートが増えたことが、国民年金保険料の納付率低下につながっている。

厚労省が昨年8月に発表した就業形態の多様化に関する実態調査によると、2010年9月の1カ月に支払われた賃金総額(税込み)は臨時・パートタイマーの場合、9割超が「20万円未満」。契約社員、派遣労働者、嘱託社員では「10〜20万円未満」が最も高い比率を占める。
非正規雇用の全分野で月給は比較的高い出向社員を除き「20万円未満」が大半だ。非正規雇用者の平均賃金は「年間200万円弱」と見られる。

積立方式の強み

このような“若者の生活の危機”が現行年金制度の賦課方式を根底から揺るがしている。年金など社会保障の負担増と将来の受給減を悲観して、若者らを中心に「生涯、負担した分より少ない給付しか受け取れない」と考える人がいまや約6割を占める。
厚労省が2月に実施したアンケート調査によると、20歳以上の58%が「負担が給付を上回る」と回答した。うち30〜34歳は82%、25〜29歳は80%がそう答えている。若い層ほど社会保障の負担感が重いことが確認されたのだ。
存続が危ぶまれる現行の賦課方式に変わる新年金制度として近年、クローズアップしてきたのが積立方式だ。

日本の厚生年金は戦時の1942年に創設された当初は積立方式だった。これが戦後間もない48年に、超インフレにより積立金の実質価値が暴落したことを契機に賦課方式に移行している。人口増と高度経済成長に恵まれた間、それは大きな問題なしに機能した。
ところがこの約10年来、予想以上の少子高齢化の進行、経済格差の深刻化、若者の低収入などの要因が重なり、現行制度は未納問題に象徴されるように行き詰まってきたのである。
積立方式の強みは、人口の少子高齢化が進んでも保険料を変える必要がないことだ。なぜなら、将来の年金給付に必要な財源は、基本的に自分が拠出した保険料を積み立てることにより確保されるからである。
年金給付の財源が自分たちの積立金である、ということは、自分の将来に備え保険料を着実に納めていこうというインセンティブにもつながる。積立方式だと、「保険料を納めても払い損になる」とか「制度が崩壊して年金が貰えなくなるのではないか」といった年金不安・不信はそもそも起こらない。積立方式は、人口構成や就業構造の変動の影響とは無縁なのである。

世論調査で、地域政党・大阪維新の会が次期衆院選の比例代表投票先として24%を占め、自民党と民主党を抑えてトップに躍り出た。同党が掲げる年金積立方式が年金論議に大きな波紋を投じるのは間違いない。