■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第139章 財務省主導「事業仕分け」の失敗/なぜ「埋蔵金」が「埋蔵借金」に変わったのか
(2010年12月13日)
財源創出が期待された国の特別会計(特会)に対する事業仕分け第3弾は、惨たんたる失敗に終わった。財務省の根回し通りに、「埋蔵金」に代えて新登場の「埋蔵借金」を“発掘”し、埋蔵金論争を締め括ってしまったからだ。
この結果、政権交代を実現させた民主党マニフェスト(政権公約)の主要政策の実行は事実上、不可能となってしまった。
「ある」とされていた埋蔵金が、肝心の事業仕分けで突如として消え失せてしまい、掘り起こされなかった経緯は、不可解だ。
このナゾを解き明かす鍵は、仕分け1週間前、10月20日の政府、民主党トップの発言にある。この日、行政刷新会議の会合で、菅直人首相は特会の大胆な廃止を指示したあと、奇妙にもこう付け加えた。「特会には埋蔵金ならぬ『埋蔵借金』があると指摘されている。それを含めて国のお金を国民に明らかにしてほしい」。
同じ日、蓮舫行政刷新担当相は、事業仕分け開始に向けた記者会見でこう語った。「特に菅総理から強い指示を頂いていますのは、特別会計のフルオープン化・・・それは、隠れ資産である埋蔵金はもちろんなんですが、逆に隠れ借金である埋蔵借金も含めて、これまで向き合うことがなかなかなかった現実を直視していきたいと思っております」。
このように、事業仕分けの直前になって「埋蔵借金」が急浮上してきたのである。菅首相をはじめ政権中枢部は、いつのまにか考え方を変え、腰砕けになってしまっていたのだ。
「借金」説をうのみ
特別会計仕分けには、マニフェスト実現のための財源創出という重大な“使命”があったはずだ。
学者を含む仕分け人らがなぜ、「特会にあるのは埋蔵金ではない。借金だ」とする財務省の主張を、いとも簡単にうのみにしてしまったのか。
確かに特別会計のカネの流れが複雑かつ不透明で、外部の目から埋蔵金の正体なるものが見えにくかった、という事情はあったろう。
だが、仕分け人が仕分け当日に「借金」と認定するに至った理由は、はっきりしている。対座した財務省担当官の指摘に同意し、従ったのである。
仕分け人の一人で、財務相の審議機関である財政制度等審議会特別会計小委員会委員長を務めたことがある、富田俊基・中央大教授は、「埋蔵金」とされた外国為替(外為)特会の積立金を「借金」と認定した。同特会には、消費税8%分にも相当する20.6兆円の積立金がある。財政投融資(財投)特会の積立金のほうは、全額4.8兆円が今年度の一般会計の歳出予算用に繰り入れられたため、空っぽとなり、外為特会の積立金の扱いが焦点となっていた。
富田氏は、外為特会の積立金を「借金だった」と認定した理由について、こう説明している。
「外為特会は、円売りドル買いの介入資金として政府短期証券(為券)を発行して資金調達し、米国債などを購入しており、両者の金利差によって毎年巨額の運用益が発生している。外貨で受け取った利子を市場で売却すると円買い介入とみなされてしまうので、外貨は売却せず、利子収入に見合った額の政府短期証券を発行することで円に替えている」。ここから外為特会の積立金は「政府短期証券で調達されたものである」とし、「埋蔵金といわれてきたものが、実は借金だったわけである」(日本経済新聞11月24日付『経済教室』)と主張する。
結局、富田氏らの埋蔵金の“借金認定”を踏まえた評決が行われ、外為特会の積立金の一般財源への活用は見送られた。外為特会の仕分けの評決は、「剰余金(積立金)の一般財源化へのルールづくり」という、間の抜けたもので終わった。仕分け人らは、同積立金が毎年取り崩され、一般財源に活用されているのに、2011年度予算に向け具体的な数字を要求することさえしなかったのだ。
特別会計に眠る積立金と剰余金(歳入から歳出を差し引いて残る余剰資金)から埋蔵金を掘り出し活用する考えを事実上、完全否認してしまったのである。
消費増税路線へ転換
しかし、筆者がみるところ、ドル収入に見合った額を円で借金しているのだから、実質は「借金」とは言えない。取材に対し、財務当局者も「資産の裏付けのある借金」と認めた。そして、これを借金とみなすかどうかは「とらえ方の問題だ」との認識を示したのだ。わざわざ為券を発行して外貨収入分の円を調達するのは「外貨のままでは歳入として計上できない」(主計局法規課)ためである。
それなら収入分のドルを市場で売って円に替えればよさそうだが、それを行うと市場介入となり影響を広げるために、為券を発行して借金する形で積立金を円に替えているのだ。ならば、これを実質的には「借金」とみなすべきでないのは明らかだ。
しかし、仕分けの結果は、財務省の狙い通りとなったのである。こうして「埋蔵金」は「埋蔵借金」に変質したのだ。
問題は、「埋蔵金」のすべてが封印されたことにとどまらない。この仕分けの結果、民主党政権からメッセージが発信された。それは「財源探しは終わった。次は借金返済のための消費増税」というものだ。
特別会計仕分けでは、一般会計と異なり、複雑怪奇で不透明な資金の出入りや流れ、使い方に鋭いメスが入ると思われた。「特別会計の闇」に光が当てられ、空港整備の特定財源のようなムダ遣いの温床や硬直化した分かりにくい制度が一刀両断されるのでは、と多くの国民は期待した。
しかし、この期待は見事に裏切られた。「スーパー堤防」廃止のような局地的な成果はあったが、大局的にみれば肝心要の埋蔵金発掘と制度改革に失敗した。消費増税を避ける手段を見つけるはずだったのが、財務官僚の主導で逆に消費増税路線に向け舵が切られた。
鳴り物入りで始まった事業仕分けは、特別会計仕分けという最後の正念場で迷走し、仕分けへの信頼は大きく失われてしまった。