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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第140章 天下り法人の抜本改革に道開く/厚労省整理合理化委が報告書(差し替え・拡大版)

(2011年1月27日)

公費を使って国から委託された事業を行い、天下りを受け入れてきた公益法人問題―。この古くからの“病巣”に正面からメスを入れる改革案を盛った報告書が、昨年末、細川律夫厚生労働相に提出された。同報告書は、筆者が「厚生労働省独立行政法人・公益法人等整理合理化委員会」の座長として取りまとめた。 公益法人を“横串”にする形で、抜本改革案を打ち出したもので、厚労省所管の991法人が対象。改革案の適用を他府省に拡大すれば、影響はさらに広範にわたる。

異色の委員会

報告書が(筆者が関与した実績を報告する性質上、多分に手前ミソとなるが)「いい内容」を打ち出せたのには訳がある。 委員会は昨年9月に発足したが、委員の人選の多くは長妻昭厚労相(当時)が行い、筆者もその一人に指名されたからだ。
委員計8人の中には、郵政民営化を押し進めた松原聡・東洋大教授、年金行政の不正を追及したジャーナリスト・岩瀬達哉氏らがいた。
むろん、委員にはさまざまな意見があり、取りまとめ作業は並大抵ではないが、こうした改革派の存在がなければ、出色した改革案に実りようがない。 とりわけ松原氏による、独立行政法人(独法)・国立病院機構と労働者健康福祉機構(労災病院系)の整理合理化案および公益法人の「指定法人」の見直しに関する具体的提案には助けられた。

しかし、当の長妻大臣は第1回委員会(9月13日)直後に更迭されてしまう。幸い、細川新大臣に引き継いでくれたお陰で委員会は存続とはなったが、検討スケジュールは大きく短縮された。 当初、昨年12月末が「中間取りまとめ期限」とされ、公益法人については今年に入って継続される方向だったが、次期通常国会に法案を提出するとの理由から、「最終取りまとめ期限」に差し替えられたのだ。
こうして検討期間が3カ月余りに圧縮された制約下で、委員会は結論を出さなければならなくなった。 委員会の任務は、厚労省所管の独法20法人、特別民間法人11法人の統合・廃止・民営化・地方移管などを含む整理合理化、および1000法人近くある公益法人の“横串改革”の内容と方策の決定である。
これをようやく、首尾よく成し遂げた思いだが、この成果は前述したように、長妻前厚労相の抜本改革断行への決意がなければ、そもそも始まらなかったのである。 そこから当委員会の報告書を「長妻氏の置き土産」と評する向きが出てきたことも、ある意味、当然であった。
もう一つの成功要因である議事の「手法」については後述することとし、まずは報告書の意義を明らかにしておこう。

独法傘下病院の再編・整理

報告書は、独立行政法人(独法)に対し3、特別民間法人に1、公益法人に対しては9の項目から成る整理合理化案を示した<図表(PDF)>
うち財団法人と社団法人から成る公益法人については、制度・慣行、契約など各府省共通の問題に対し、改革への提言を行った。
このうち独法については、独法傘下の国立病院、労災病院等の1年を目途とした統合、再編・整理の検討、食品と医薬品の研究のシナジー効果を狙った国立健康・栄養研究所と医薬基盤研究所の統合などを提言した。
特別民間法人に関しても、ヒアリングを行った中央労働災害防止協会をはじめ、全特別民間法人を対象に設立根拠法の見直し、および透明性の高い適切な経営形態への移行を目指して、1年を目途に検討するよう求めた。
前者の公立病院のケースでは、厚労省所管の独法が運営する病院は、国立病院144、労災病院30をはじめ、全部で244もある。 これらの病院を政策医療を提供する公的病院として地域的に効率のよい配置に再編・整理する必要がある。
というわけで、厚労省にとって病院群の整理合理化計画の策定は、きわめて重要な課題となる。

公益法人改革の3本柱

これに対し、公益法人の横串の成果は、厚労省内にとどまらない。 各府省の公益法人も、横並びに同様の問題を抱えている現状をみれば、報告書の影響は厚労省を超えて広がるのは必至とみられる。 報告書が、これまで再三の改革や事業仕分けにもかかわらず、根本的には実態が変わらなかった公益法人改革を、再び突き動かす可能性が出てきたのだ。
その内容とは、どんなものか。―
報告書の公益法人改革の主柱は、3本ある。 第一は、法令で指定されて国から交付金等を受け、独占的に事業を行う指定法人について「全指定法人は、指定根拠法令の検討を通して、その在り方を全面的に見直す」としたことだ。 仮に指定法人として存続の必要が確認された場合には、「その指定先選定理由の情報公開、プロポーザル方式を含む参入要件、新たな指定基準など「新ルール」を制定する」。
第二は、「特定の補助金等を特定の法人に毎年度交付する」いわゆる“名宛て補助金”の原則廃止だ。 ただし、「当該補助金の政策的必要性が高い場合については、可能な限り競争的な選定となるよう検討する。 また、予算上相手先を特定せざるを得ない場合には、情報公開を徹底し、透明性を確保する」とした。
第三は、国家試験の高い試験料の引き下げだ。国家試験、国家資格等の試験料、登録料に関し、「指定を受けた法人が効率的に事業を行うのに必要な費用を賄うに足りる適正な料金となるよう見直す」。

指定法人を全面的に見直す

指定法人についてみてみよう。厚労省所管では、「全国に1つ」の法人を指定して交付金等を支出し、業務を実施させている指定法人が、介護労働安定センター(介護労働講習や介護労働に関する情報収集・提供等を実施)など全部で6法人。 さらに、指定を受けて国家試験・資格業務を実施して受験料・登録料を得ていたり、審査業務から収入を得ている指定法人が計15法人。 このほか、指定または登録により行われる研修、講習業務は39制度あり、該当する指定制度はすべて複数法人指定が可能、となっているため、なかには指定法人が113に上る労働安全衛生講習もある。
このように指定法人は、国の交付金や独占的な地位から得る安定収入で事業費を賄い、天下りを受け入れる“装置”となってきた。
報告書は、この指定法人をすべて根拠法に照らしてその在り方を全面的に見直すよう求めたのだ。

第二のいわゆる「名宛て補助金」の原則廃止について、みてみよう。 「名宛て補助金」とは毎年度、補助金等を特定の先にいわば自動的に交付してきた一種の慣行だ。 「官の行う事業と天下り法人」を補助金でつなぐ慣行である。 「全国に1つ」法人を指定し、国費を交付する前出の指定法人6法人を含め、計45法人がこれに該当する。
この中には臓器や骨髄移植の対策事業費のように、専門性が高いため交付先の法人が特定されてしまう補助金も、たしかにある。 だが他方、雇用開発支援事業向け補助金のような場合は、専門性がないことから天下りOBを養う目的で交付され、既得権化している疑いがある。
報告書は、名宛て補助金の扱いを基本的には改めるべき、とした。 ただし、政策的な必要性から相手先を特定せざるを得ないケースでは、国は情報公開を徹底し、交付先選定理由について十分な説明責任を果たすべき、と明記したのである。

第三の「国家試験・資格の試験料登録料」については、社会福祉振興・試験センター(社会福祉士や介護福祉士の試験・登録業務を実施)などをヒアリングした結果を重くみた。 試験料・登録料を財源に実施された業務から毎年度、十分な収差差益が出ていることが判明したため、料金水準を見直すべき、としたのだ。 試験料などを独占的に得られる地位を付与されているため、デフレ下なのに大幅な料金引き上げをする法人もみられ、適正料金設定の必要性が高まっている、と判断した。

報告書は、 “トンネル法人”にも言及した。 委託事業を他法人に丸投げし、受け取った委託費を丸投げ先法人に再交付する公益法人について「補助金等を国から直接、事業実施法人に交付する仕組みに改める」。 さらに「高い専門性に基づき資金を配分する事業を行う法人については必要性が認められ得るが、その専門性を十分に検証する」と指摘した。
トンネル法人には、研究事業実施主体を選定して研究費を分配するヒューマンサイエンス振興財団や、こども未来財団(子育て支援事業を実施)などがある。
報告書はさらに、機械などの検査・検定の登録制度の運用についても「民間参入を促進するため登録要件の緩和・見直し等を行い、登録法人数の拡大を図る」と提言した。 この業務については2003年度末に指定制度から登録制度に移行し、現行法で複数法人の参入が認められているが、新規参入は少なく、既存法人のシェアが圧倒的に大きい点を問題視したのだ。

取るべきは“過激手法”

筆者は当初、検討スケジュールの圧縮を受け、議事をどう運営していったらよいか、取るべき「手法」に考えを巡らした。
頭をよぎったのは、道路四公団民営化委員会の委員長らの中途辞任による“空中分解”であった。 その原因は、委員長を務めた今井敬・新日本製鉄名誉会長の優柔不断な指揮ぶりにあった。 自らの考えを示すことなく、結局は国土交通省の案でまとめようとして反発を食らい、委員会は散り散りになったのだ。この悪夢を再現させてはならない。
そこで筆者は、会議のたびに座長案を叩き台として押し出して議論を起こし、自分のペースに持ち込もう、と考えたのである。 委員の間から出てくる案はむろん大歓迎だが、日程の制約は厳しく、検討を急がなければならない。 そのためには、議論の軸を自らのコントロールが効く「座長案」にしなければ、と考えたのである。
だから問題法人を選びヒアリングした際には、対象法人全てに対し、座長の「視点」を予め用意し委員らにメール配信して、これに沿って質疑応答を始める手法を取った。 そして、議論を巻き起こすべく、改革プランを敢えて過激なくらいに「先端を行く形で」提示することとしたのだ。

たとえば、独法の労働政策研究・研修機構(JILPT)に、この手法を適用した。 厚労省が本来担うべき社会保障政策と並ぶ労働政策について、研究・立案機能をもっと強化するために、独法に移した研究機能を国に再び戻す案を検討する必要性を主張したのだ。 その背景には、1990年代後半から始まった非正規雇用・格差問題の拡大がある。
この問題にJILPTの研究機能は十分なリスポンスができず、JILPTに研究を委ねた国の労働政策も立ち遅れた、との問題認識があった。
ヒアリングで、JILPTの理事は非正規・格差問題への対応について「パートの問題、それから派遣の問題、最近では、契約労働者の問題」といった個別問題対応で有効に貢献してきたと強調した。 しかし「大きな固まりで(労働政策全体として)、こういうことをしてはいけない」というふうに対応してこなかったことを渋々認めた。
だが、筆者の認識が委員に必ずしも共有されなかったとの感触から、最終とりまとめ直前に、提案を取り下げた。

とはいえ、この提案が関係者に問題を提起し、関心と議論の活性化を引き起こしたのは間違いないだろう。10年前に導入された独法制度が、政府の事務・事業のうち特殊法人を含む現業実施部門を政府から切り離し合理化する狙いがあったことは、百も承知だ。
だが、筆者は研究の中枢機能は本来、本省自らが持つべき、とかねがね考えていた。年金事務や年金積立金の管理・運用を本省から分離・独立させるのとは、わけが違う。この腹案を敢えて座長案に盛り込んだのだ。
このような経過をたどって、報告書を委員の協力を得て土壇場の年末ギリギリに結晶させることができたのである。

(注)委員会の資料、議事録掲載URLは以下の通り。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008k6i.html