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第130章 天下り法人に改革のメスは入るか/事業仕分け第2弾
(2010年4月5日)
政府の行政刷新会議は、4月下旬から政府系公益法人と独立行政法人(独法)を対象に、「事業仕分け」第2弾を実施する。
陣頭に立つ枝野幸男行政刷新相は、「(今回の仕分けは)予算削減が目的でない」と記者会見などで語っている。仕分けの成果をむしろ、官庁の天下りに使われてきた公益法人や独法の制度改革につなげたい考えのようだ。
昨年11月の第1回仕分けは、国会議員らが公開で予算査定を行うという劇場化手法で、国の予算への国民の関心を一気に高めた点で画期的だった。 だが半面、仕分けの“お膳立て”を財務省に任せたことで、財務省所管の事業が仕分け作業から相当抜け落ちるなど、いびつな面もあった。
今回は対象を官庁の天下り先となっている公益法人と独法に絞り、「天下り状況と予算の使い方」の実態解明を行う。 対象法人の選定作業や仕分け基準の策定も現在、行政刷新会議の手で進められている。 仕分け会場も、前回は財務省所管の独法・国立印刷局の体育館だったが、今回は別の場所になる予定だ。
これは、計画通りにいけば、予算削減から制度改革、すなわち量から質への転換でもある。2010年度予算でみると、独法向け支出は3兆1626億円、公益法人向けは2046億円と、予算額は双方合わせ3.3兆円あまりにすぎない。 予算削減を狙うには絶対額があまりに小さい。だが、制度改革の面からみれば、意義は大きいといえよう。
「電波」を仕切る巨大法人にもメス
政府系公益法人は7000近くあるが、今回、仕分けの対象となるのは国や独法から1000万円以上の支出を受けている、天下りを受け入れている、など7つの基準に合致した法人。 なかでも、会計検査院の過去の検査や国会審議で問題視されたことのある50法人を「有力候補」として、優先的に仕分けするという。独法については、原則として98法人すべてを対象とし、種類ごとにその必要性から洗い出していくという。
「有力」50公益法人には、たとえば総務省所管の「電波産業会」がある。電波利用の照会相談、調査・研究、携帯電話やデジタル放送の標準規格を策定する法人だ。「電波利用の一層の飛躍的な発展を図るため」1995年5月に設立され、翌6月に電波法に基づき郵政大臣(当時)により「電波有効利用促進センター」に指定された。
この法人に筆者らの関心が高い理由は、行政と半ば一体化して電波利権を握り、その業務が関係業界にも広い影響を及ぼす天下り団体であることだ。
電波産業会の特性としては、以下の6点があげられる。
今回の仕分けが、このような法人にどう対処するか、興味深い。
- 法律(電波法)により指定された業務を独占的に扱う。
- 「照会相談業務」という同法人にしか技術的にできない独占業務から高額の手数料収入を得る。その結果、公共業務用マイクロ回線を使う中央官庁や地方自治体、電力会社のコストを押し上げ、国際的に割高の通信費の一因を作っている。
- 国から毎年、周波数変更作業などで補助金を受け取る(08年度は12億円)。
- 電波システムの標準規格情報などを会員に提供し、高額の会費を徴収する。会員にはNHK、NTT、東芝、東京電力など放送、通信、電機、電力など各業界の大手244の企業が名を連ねており、年会費の過去最高額はNTTから徴収した600万円である。
- その地位を利用して、デジタル放送の伝送方式のような重要な標準規格設定作業まで行っており、通信・放送業界のビジネス動向を左右している。
- 常勤役員ポストに主務官庁のOBが天下り、実権を握っている。非常勤の会長や理事は民間企業から出る(現会長は日立製作所会長)が、専務理事をはじめ常勤理事4人はすべて総務省OBである。
また、筆者は事業仕分けが真に成果を発揮するために、仕分けと並行して会計法改正を行うことを提案したい。これが実現すれば、独法(98法人)、特殊法人(32法人)の計130法人に適用でき、2割程度のコスト節減が見込まれる。
会計法第29条の3は、国が行う契約の方法を規定している。国が公費を使った契約を結ぶ場合、原則として「競争に付さなければならない」としているのである。ただし、地震で橋が損壊したなど「緊急の必要により競争に付することができない場合」などは例外としてなじみの業者との随意契約ができる。
ところが、国と独法の契約は、事実上、ほとんどが随意契約なのである。近年増えているはずの競争入札も、会計検査院が調べたところ、その大部分は以前と同じ天下り法人と同じ法人だけが入札する「1者応札」であることが判明した。 競争入札としながら、受注条件を「過去に同様の工事を行った実績があること」などとすることで他を排除してきたのである。
こうした偽装競争契約を含む国の契約を、適正化する必要がある。そのためには、競争を定めた法律に違反した場合の罰則・公表規定を設けることが必要だろう。この会計法改正によって、現在もまかり通っている随意契約もしくは偽装競争契約を、本物の競争契約に切り替えさせるのだ。 そうすれば、契約が正常化し、それに伴うコスト削減が見込まれるだけでなく、民間企業に業務拡大のチャンスを与えることで民業の活性化が期待できる。
10兆円規模の「埋蔵金」発掘も
もうひとつ、事業仕分けで重要なのは、「埋蔵金」の洗い出しだ。
民主党がマニフェストで謳った政策を実現するための財源を創出するには、本来、一般会計の実質5倍規模に上る特別会計(特会)にメスを入れる必要がある。 今回の事業仕分けでも、巨額の埋蔵金が眠る特会を直接の対象とすることは見送られたが、特会の資金を原資に蓄財し公益法人や独法の「埋蔵金」にもメスを入れることで、財源創出が実現できるはずだ。 第1回の仕分けでも、公益法人と独法に眠る「基金」から約1兆円の「埋蔵金」を国に返納させることに成功したが、それは“氷山の一角”でしかない。
筆者は、道路系法人を中心とした多くの公益法人が、「正味財産(資産から負債を引いた純資産)」を過剰に積み上げているとみる。 道路系法人とは、道路特定財源(08年度で計5.4兆円)から巨額の予算を得て道路事業を推進してきた法人だ。 たとえば道路特会(現社会資本整備事業特会道路整備勘定)からの支出が最も多い「道路保全技術センター」や、内部留保の多さで知られる「建設弘済会」(全国に8法人)、道路など都市開発を支援する「民間都市開発推進機構」などである。
道路特定財源は09年度に一般財源化されたが、政府が必要とみなした道路整備資金は一般会計経由で道路特会に入り、必要先に支出される。つまり、資金ルートが変わっただけで、実態は従来と大差ない。
公益法人は、都道府県所管のものを含めれば、07年10月1日時点で計2万4648法人を数えるが、総務省の調査によれば、その正味財産の合計は21兆369億円にのぼる。うち1法人で100億円以上を保有する法人が321ある。
この「埋蔵金」を洗い出し、政策遂行に必要な新財源とするのである。公益法人の「埋蔵金」約21兆円のうち、少なく見積もっても半分に相当する10兆円程度は一般財源に活用可能と考えておかしくないだろう。
独法でも、旧国鉄の保有地売却などで05年度に1.3兆円の利益剰余金をあげた鉄道建設・運輸施設整備支援機構や、08年度に予算を156億円使い残した新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などがある。 参院選向け政治ショウに終わらさずに、これらの「埋蔵金」の洗い出しにも本腰を入れ、真の制度改革に立ち向かうことを期待したい。