■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第120章 民主党の財源策に重大疑問符/異様に少ない「埋蔵金活用額」
(2009年7月30日)
来るべき総選挙後の新政権は、膨らむ社会保障費・経済対策費の財源をどう確保していくか ― が最大級の課題となる。政権掌握が確実視される民主党は、消費増税を公約通り4年間凍結するなら、財源をどこから捻出しようとするのか―。財源規模からみて「霞が関埋蔵金」の活用がカギとなるが、同党が近く公約する財源向け埋蔵金の活用額は異様に少なく、改革に疑問符が付く内容だ。
省庁を安堵させる民主党案
民主党が27日に発表した衆院選マニフェスト(政権公約)向け財源策。同党は「子育て手当て」「公立高校無償化」「高速道路無料化」など政策の必要財源を16.8兆円と試算した。だが、その財源策は心もとない。
最大の問題は、ムダ遣いの削減(計9.1兆円)と共に活用されるはずの「埋蔵金」の扱いだ。その発掘・活用額を09年度補正予算で乱立した基金と合わせ、たったの4.3兆円しか見積もっていないことだ。
これは、どういうことか。
答えは、現在21ある特別会計(特会)のうち、年金の支出に充てる年金特会を除き、積立金が最多の外国為替資金(外為)特会と財政投融資(財投)特会の積立金の活用しか考えていないからだ。昨年3月末現在、外為特会が17兆4557億円、財投特会が17兆2401億円の積立金を持つ。
民主党案は、「埋蔵金」の活用をこの2特会の計35兆円近い積立金のごく一部を活用しようという案にほかならない。つまり、全特会でストックの積立金が195兆円超(08年3月時点)あるが、その中で突出して多い外為特会と財投特会の積立金の一割強のみを取り崩して一般財源として活用する ― という案なのである<図表1>(PDFファイル(筆者作成))。
「埋蔵金」論議で筆者らが主張する特別会計のフロー(剰余金)は、民主党案の視野に全く入っていない。なかでも剰余金のうちから毎年必ず出てくる10兆円規模の使い残し額(不用額)を一般財源に繰り入れて継続的に活用していく、という考えは「検討に値しない」とみなしたのだろうか、一顧だにされていない。
これでは、特別会計を自らが管理・運用して壮大なムダ遣いが指摘される省庁を、ホッと安堵させたに違いない。
民主党案が、「可処分埋蔵金」を特会積立金のごく一部に矮小化させてしまった原因は、興味深い。政権奪取の可能性が増した同党を財務省官僚が「埋蔵金の真実」から遠ざけるべく、同党内の親官僚派に巧みに工作した疑いが浮上する。「埋蔵金」の潜在規模およびその持続的可処分性に関する筆者らの主張を退けたからには、民主党は「埋蔵金活用額4.3兆円」とした独自の主張の根拠を国民に説明する必要があろう。
不思議なのは、特別会計に関してだけでない。民主党案は、特会の外に休眠する「埋蔵金」について一切言及していない。特会資金支出先の独立行政法人や特殊法人、公益法人(昨年12月からの新制度施行後は「特例民法法人」)で貸付金、内部留保、正味財産、基金などに化けている「埋蔵金」は無視した形だ。民主党は政権奪取後に、第二段階としてこれら拡散された「埋蔵金」のありかを追及する姿勢は、あるだろうか。
筆者が拙著『亡国予算 闇に消えた「特別会計」』(実業之日本社)で、特別会計を中心に官の「埋蔵金」の隠し場所を追跡したのには、理由がある。特会には余剰資金が眠る一方、窮迫した国民生活向けには一般会計での借金が充てられる「この国の異常な財政」に異議を申し立てるためだ。
この観点に立ち返って、本稿ではさらに二つの「可処分埋蔵金」について述べておこう。
「国庫余裕金」の余裕資金
一つは、これまでにマスメディアが報じなかった「国庫余裕金」である。
国庫余裕金とは「一般会計と特別会計の歳入・歳出金、国税収納金整理資金(国税収入の受け入れ・還付金支払い資金)、預託金、保管金など国庫金の収支差額によって国庫全体として生じる余裕資金」(財務省の定義)のことだ。
ひと言でいえば、国のカネの出し入れの過程で「一時的に」生じるキャッシュフローの余裕分だが、この資金がほとんど毎月、潤沢に存在しているのである。
この余裕資金の08年度の平均残高は消費税ほぼ1%分の2兆4776億円、年度末残高は9099億円に上る(財務省調べ)。さらに07年度までの過去5年間の平均残高推移をみると、3兆円超(07年度)から8兆円超(04年度)と、波打ちながら余裕の資金保有状況である。
ここで肝心な点は、潤沢な国庫余裕金が何に使われているか、である。財務省によれば、「国庫に留まる余裕金を可能な限り圧縮するため、国庫金の受入日と支払日を合わせる調整を進めた」としているが、その上で「国庫に余裕が生じた場合には、現金不足の特別会計に無利子で貸付けを行った」という。
つまり、余ったカネは現金不足の特会に使ってもらうわけである。余裕金の全額が、外為特会に使われている。具体的には、専ら米ドルなど外貨・外債を日常、売買する財務省所管の外為特会に無利子で貸し付けてきたのだ。
08年度までの過去5年間の外為特会への国庫余裕金の繰替使用(無利子貸付け)の平均残高をみると、最大4.4兆円超(04―05年度)から最小で8000億円超(08年度)に上る。
外為特会への貸付け理由について同省は「外国為替資金証券(政府短期証券)の発行を減少させ、政府全体として利子負担を軽減させるために行った」としている。
法令で特別会計を支援
このように過去5年間でみると、国庫余裕金は外為特会に対してのみ貸付けられてきた。だが、特会改革の一環として07年に施行された「特別会計に関する法律」によれば、それぞれの特会は支払い資金に一時的な不足を生じた時、この国庫余裕金を無利子で一時的に立て替え使用できる(返済は年度内。外為資金の場合は年度の概念がなく、1年以内)。
同法施行前は、旧・各特別会計法が個々の特会の規定に沿って認めていた「国庫余裕金の繰替使用(無利子貸付け)」を、すべての特別会計に認めることになったのである。 このことは、マクロ的には次の特殊事情を浮かび上がらせる。資産超過の特別会計は、一時的な資金不足になっても国庫余裕金から無利子で借金できる。これに対し、財政赤字の一般会計のほうは国庫余裕金からの無利子の借り入れはできない。つまり、特別会計は「特別扱い」される、おかしな仕組みになっているのだ。
加えて、国庫余裕金が外為特会の資金繰りに使われていることの意味は重要だ。同特会の積立金は、全特会中、財投特会と並ぶ17.4兆円超(08年度3月末時点)と、最大規模だからだ。その資金繰りに積立金が使われずに温存され、国庫余裕金が利用されているのである。
このことは、言い換えると、「使わないで休眠している巨額の積立金」を経済危機で緊急に必要な財源に即刻、活用できることを意味する。
遊休積立金を、このまま遊ばせておく手はない。筆者の調べでは、外為特会の03年度から07年度までの5年間の積立金推移を見ると、07年度の場合、積立金17.4兆円超は例年のように財投特会に預け入れられ、一定の約定期間、運用を財投機関に任せて利息を得ている。だが、この預託された積立金の8割の約14.2兆円が長期の「7年以上」、残りの積立金もすべて「3年以上」で預託しているのだ。
財務当局は、外為資金や財政資金を積み立てる理由について表向き、為替や金利の大規模な変動に伴う評価損リスクに備えるため、と説明してきた。
しかし、現実は「7年以上」ものを中心に積立金を長期運用しているのである。このことは、積立金を取り崩す必要性を財務当局は想定していない、ということだ。
「資金不足から積立金を取り崩す事態は結果的に発生していない」と会計検査院が06年10月に検査報告した背景には、このように政府短期証券の発行や国庫余裕金でやりくりしたカラクリがあったのだ。
国が多額の国債を発行する一方で、国庫全体としては現金に余裕がある、というのが、日本の国庫のいびつな現状だ。このギャップの解消に向け、財務省も、07年度には税収・年金保険料の受け入れ日に独立行政法人の運営費交付金(事業費)の交付日を合わせるなどの調整を行い、国庫余裕金の圧縮を行った(同年度の国庫余裕金平均残高は前年度比約1.5兆円減少した)。しかし、それでも生じた余裕金は身内(財務省所管)の特会に無利子で貸し付けられたのである。
このように常時、余裕のある国庫金は特別会計への無利子貸付けに向かう結果、特会は常にカネ余りか、少なくとも不足のない資金状況になるわけだ。新政権は、特別会計の余剰資金に加え、この国庫余裕金にも着眼する必要がある。民主党が消費税引き上げを凍結するなら、「埋蔵金」の問題を通り一遍にさらうのではなく、最新の民間調査を踏まえてもっと特別会計に突っ込んでいかなければならない。
46基金に「埋蔵金」
もう一つ、14兆円規模の09年度補正予算の成立で、新たに生じた「埋蔵金」に触れておこう。補正予算は、経済危機対策を柱に「底力発揮・21世紀型インフラ整備」とか「健康長寿・子育て」「低炭素革命」といった聞こえのよいうたい文句が並んだ。
しかし、その中身をみると旧態依然のハコものや道路、港湾整備が多い。「アニメの殿堂」と呼ばれる「国立メディア芸術総合センター」も、「底力発揮・21世紀型インフラ整備」のキャッチフレーズの下、突っ込んだ国会議論がないまま一挙に117億円もの予算を付けて批判を浴びた。
政府は「受け皿」となる46もの「基金」をつくり、この補正予算のうち4兆3674億円を基金に交付する<図表>(PDFファイル(出所:財務省))。
基金が設置されるのは、地方自治体(15基金)や独立行政法人、公益法人などの天下り先法人(21基金)、将来天下り先として活用するはずの民間団体(公募。10基金)。
基金は、いずれも予算を複数年度にわたって使えるため、手元に資金を保管しながら必要に応じて動かすこととなる。このうち、少なくとも天下り法人向け資金は、官がキープする一種の「埋蔵金」にほかならない。
4.3兆円超の予算を受け取る基金中、最大は「緊急人材育成・就職支援基金」で、予算額は7000億円。基金を設置する法人は、厚生労働省所管の特別民間法人・中央職業能力開発協会だ。「特別民間法人」とは、特別な目的のため法律で設けられた「民間法人」とされるが、元特殊法人が多く、実態は“疑似特殊法人”というべき法人である。ほかに農林中央金庫や中央労働災害防止協会がある。
以下、「介護職員の処遇改善等臨時特例基金」(地方自治体に設置)の4773億円、「地域医療再生基金」(地方自治体)の3100億円、「緊急雇用創出事業臨時特例基金」(地方自治体)の3000億円、「農地集積加速化基金」(公募の民間団体)の2979億円 ― と続く。
公益法人の既存の基金は、計121もあり、総額1兆1800億円(06年4月時点)に上る補助金を貸付けなどに使っている。使用基準があいまいなまま溜め込んでいるケースも多く、事実上「埋蔵金」となって埋もれている。今回の「基金」も同じ轍(てつ)を踏む公算が大きい。
急ごしらえの官製基金は即刻、解消し、その予算額を別途、民が喜ぶ分野に有効に転用させなければならない。