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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第119章 「直轄事業負担金」改革待ったなし

(2009年7月9日)

国が主体となって行う公共事業の費用負担を地方自治体に求める「直轄事業負担金」制度の改革が、“待ったなし”の状況となってきた。全国知事会が6月16日、4項目から成る「見直しを強く求めるアピール」を発表し、国が負担範囲の適正化を図らなければ、今年度分は「支払えない」と迫ったためだ。
東国原英夫宮崎県知事、橋下徹大阪府知事らは衆院選をにらみ、霞が関と永田町に揺さぶりをかける。

燃える知事会

全国知事会は7月中に、焦点となる負担金の対象範囲の基準案を決め、国と協議に入る計画。国との間で熱い「夏の陣」を抑えるのは必至だ。
同アピールによれば、国土交通省と農林水産省が全国知事会の求めに応じて5月末に開示した08年分の直轄事業負担金の内訳は「地方負担金の使途などの妥当性について到底判断できるものではない」という。全国知事会は、地方が公共事業の主体となり国が協力して補助金を交付する「国庫補助事業」と同程度の情報開示を求めたが、そのレベルには遠く及ばない内容だったためだ。
そこで全国知事会は同アピールで「国に一層の情報開示を求めていくが、自らが合理的な基準案を作成し、具体的な提案を行っていく考え」を表明した。
知事側が態度を一段と硬化させた理由は、国の不十分な情報開示だけでも、国の職員の退職手当など国庫補助事業では請求されない経費まで地方の負担金に含まれていることが判明したためだ。

アピールでは、国に対しさらなる情報開示と負担対象範囲の早急な見直しに加え、「国が負担すべき維持管理費負担金の来年度からの廃止」と「地方意見が反映できる(協議)制度の創設と最終的な直轄事業負担金制度の廃止」を要求している。
同負担金問題が今春になって燃え上がった背景には、分権改革気運の高まりがある。地方分権改革推進会議(首相の諮問機関)は、国に対し02年10月に「地方分権推進計画に基づき、直轄事業負担金の段階的縮減を含め見直しを行う」「直轄事業の実施に当たって負担金制度が維持される場合、地方公共団体との事前協議制度の導入を検討する」よう求めた。
同推進会議を引き継ぎ、07年4月に発足した地方分権改革推進委員会は07年11月、「中間的なとりまとめ」で、負担金の廃止・縮減について見直しが必要、との認識を示した。さらに昨年12月の同推進委の第2次勧告は「負担金の積算や使途の明細が不明確」と指摘した。

こうした流れを受け、物言う知事らが登場する。大阪府の橋下徹知事は今年3月、国交省からの負担金請求書を「ぼったくりバー」と評した。直轄事業負担金について「一種の謀反と言ってもいいような異議申し立ての声が知事たちから上がった」と、丹羽宇一郎・同推進委員長は朝日新聞に語っている。


主従関係への“謀反”

知事たちが直轄事業負担金問題を重視するのは、ここに国の“横暴”をみるためだ。橋下知事は、同負担金制度を「奴隷制度」と評したが、少なくとも「主従制度」の象徴といってよいだろう。
国の直轄公共事業における都道府県の負担割合は、公共施設(直轄国道、一級河川など)の建設については3分の1、維持管理については10分の4.5となっている。
負担金の事業別構成割合をみると、09年度予算ベースで地方の負担金総額1兆260億円のうち、道路が49.3%(5063億円)、河川が13.5%(1382億円)、ダムが6.3%(644億円)。以下、港湾の4.1%(422億円)、砂防2.6%(262億円)、都市公園0.8%(81億円)、その他(主に農業関係)23.4%(2406億円)と続く。道路の比重が際立って大きく、負担金のほぼ半分を占める。
全国知事会がとりわけ問題視しているのは、「地方に課す負担金の範囲」について国の考え方・基準が不明であることだ。
たとえば、1. 複数の県にまたがる工事の負担金の配分が不明、2. 事業内容、単価が不明で、直轄事業の施行に直接要する経費か否かの判断がつかない、3. 各費目の積算内訳が不明―など、根拠がはっきりしない。

具体的な問題点として、国庫補助事業では請求項目にない退職手当、管理職の人件費が請求され、人件費の比率が補助事業に比べ高い。さらに、事業との関係が明らかでない国土技術総合研究所、地方整備局、技術事務所の経費が計上されていたり、補助事業にはない庁舎や、職員住宅の用地費、建設費、補修費などが計上されている。
つまり、工事費と業務取扱費及びその内訳の人件費などの負担根拠がことごとく不透明なのだ。負担金には「児童手当」、「職員手当」、「超過勤務手当」、「共済組合負担金」も含まれているが、どれも「根拠が不明」としている。
知事側は、直轄事業負担金の約15%を占める「維持管理費」の廃止も求める構えだ。これは国が管理する施設については「管理主体である国が本来、全額を負担すべき」という考えからである。都道府県管理施設の維持管理費については、都道府県が負担していることから、国の全額負担は当然だ、としている。

直轄事業負担金制度については、知事会側は早くも1959(昭和34)年8月に制度の廃止を要求している。「制度の不合理を是正し、これを国の全責任において実施し、地方団体に対する負担を課さないこと」と、要求の文言も明快だ。
「維持管理費」についても、1962(昭和37)年8月に、国に対し次のように全額負担の要求を出している。
「建設大臣が自ら維持管理しており、都道府県はその内容について関与せず、経費のみ、その1/2(当時)を負担していることは、責任明確化の上から問題がある。管理者たる国が全額負担すること」

しかし、これらの要求も「物言う知事」の不在から腰折れし、長い歳月を経て“風化”してしまっていたのだ。
全国知事会は「物言う知事」が加わり、“理論武装”し、国側にようやく正面から強硬に要求を突き付けた形だ。