■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第118章 まだある「埋蔵金」/「国庫余裕金」を特別会計に貸付け

(2009年7月1日)

消費税を引き上げる前に、活用できる「埋蔵金」は一体、どの位あるのか―。財務省理財局によると、国庫全体として生じる余裕資金を示す「国庫余裕金」の08年度平均残高が、消費税ほぼ1%相当分の約2.5兆円に上ることが判明した。07年度までの過去5年間をみても、国庫余裕金の年度平均残高は毎年3兆円超(07年度)から8兆円超(04年度)に達しており、国庫が常時、余裕資金で潤っている実態を示している。財務省は国庫余裕金を極力、現金不足の特別会計(特会)に無利子で貸し付ける方針だが、特会も全体で「財政余剰」の状態にあり、この知られざる「埋蔵金」の使途が論議を呼ぶのは必至だ。

官主導の骨太方針

政府は6月9日、経済財政諮問会議に「経済財政改革の基本方針2009」(骨太の方針)の原案を提示し、その中で基礎的財政収支(プライマリーバランス)を「10年以内に黒字化する」として、財政健全化目標を10年先送りする形で示し直した。しかし、この目標を達成するためには、2011年度以降、消費税を現行の5%から12%に引き上げる必要がある、との試算を打ち出した。
この「骨太方針」が、国民の反発を食らう代物であることは明らかだ。国民に負担増を求めるばかりで、ムダ遣いされる公費の活用やコスト減に言及していないためだ。
とりわけ「埋蔵金」の“発掘”と活用について何一つ触れていないことが、骨太方針の「官僚主導ぶり」を物語る。

今回、浮上してきた「国庫余裕金」とは、どんなものか。
財務省の定義によれば、国庫余裕金とは、「一般会計と特別会計の歳入・歳出金、国税収納金整理資金(国税収入の受け入れ・還付金支払い資金)、預託金、保管金など国庫金の収支差額によって国庫全体として生じる余裕資金」のことである。
この余裕資金の08年度の平均残高は2兆4776億円、年度末残高は9099億円に上る(財務省調べ)。さらに07年度までの過去5年間の平均残高推移は〈表1〉の通りで、ほとんど毎月、余裕の資金保有状況であることが分かる。

ここで肝心な点は、潤沢な国庫余裕金が何に使われているか、である。財務省によれば、「国庫に留まる余裕金を可能な限り圧縮するため、国庫金の受入日と支払日を合わせる調整を進めた」としているが、その上で「国庫に余裕が生じた場合には、現金不足の特別会計に無利子で貸付けを行った」という。
つまり、余ったカネは現金不足の特会に使ってもらうわけである。余裕金の全額が、外為特会に使われている。具体的には、専ら米ドルなど外貨・外債を日常、売買する財務省所管の外国為替資金(外為)特会に無利子で貸し付けてきたのだ。08年度までの過去5年間の外為特会への国庫余裕金の繰替使用(無利子貸付け)の平均残高は〈表2〉の通りである。最大4.4兆円超(04-05年度)から最小で8000億円超(08年度)に上る。
外為特会への貸付け理由について同省は「外国為替資金証券(政府短期証券)の発行を減少させ、政府全体として利子負担を軽減させるために行った」としている。

法律で特別会計を支援

このように過去5年間でみると、国庫余裕金は外為特会に対してのみ貸付けられてきたが、「特別会計に関する法律」によれば、それぞれの特会(現在、会計数21)は支払い資金に一時的な不足を生じた時、この国庫余裕金を無利子で一時的に立て替え使用できる(返済は年度内。外為資金の場合は年度の概念がなく、1年以内)。
同法律は特別会計改革の一環として成立(07年3月、翌4月施行)したもので、その第十五条によって他の国庫からの歳出金の支払いに「特段の支障がない場合」(財務省)、どの特会に対しても一時的な資金不足に対し無利子貸付けが可能となったのだ。同法は、旧・各特別会計法が個々の特会の規定に沿って認めていた「国庫余裕金の繰替使用(無利子貸付け)」をすべての特別会計に認めることにしたのである。
このことは、マクロ的には次の特殊事情を浮かび上がらせる。全体として資産超過の特別会計は、一時的な資金不足になっても国庫余裕金から無利子で借金できる「特別な扱い」になっている。これに対し、財政赤字の一般会計のほうは国庫余裕金からの無利子の借り入れはできない。つまり、特別会計のみ「特別扱い」を受けているのだ。

財務省が今年1月に国会に提出した「平成19年度特別会計財務書類」によると、特別会計の資産から負債を差し引いた資産超過額が08年度3月時点で100兆円の大台を超えた。全28特別会計(当時)の資産は635兆508億円、負債は534兆2981億円で、資産超過額、つまり純資産額は100兆7527億円に上る。
これに対し、財務省が発表した、企業会計ベースでみた一般会計は、06年度末で資産が255兆5000億円、負債が590兆9000億円。差し引き335兆4000億円が、民間企業でいう「債務超過」だ。
一般会計の「債務超過・財政赤字」に対し、特別会計の「資産超過・財政余剰」の構図だが、国庫余裕金は特別会計のみが活用できる、おかしな仕組みになっているのである。

遊休積立金を消費増税前に活用せよ

加えて、国庫余裕金が外為特会の資金繰りに使われていることの意味は重要だ。同特会の積立金は、全特会中、財政投融資(財投)特会と並ぶ17.4兆円超(08年度3月末時点)と、最大規模だからだ。その資金繰りに積立金を使わずに温存し、国庫余裕金の無利子貸付けを活用している。
このことは、逆に言うと、「使わないで休眠している巨額の積立金」を経済危機で緊急に必要な財源に即刻、そっくり回すことができる。

遊休の特別会計積立金を、このまま遊ばせておく手はない。筆者の調べでは、外為特会の03年度から07年度までの5年間の積立金推移を見ると、07年度の場合、積立金17.4兆円超は例年のように財投特会に預け入れられ、一定の約定期間、運用を財投機関に任せて金利を得ている。この預託された積立金の8割の約14.2兆円が長期の「7年以上」、残りの積立金もすべて「3年以上」で預託している。
財務当局は、外為資金や財政資金を積み立てる理由について表向き、為替や金利の大規模な変動に伴う評価損リスクに備えるため、と説明してきた。
外為特会が財投特会と並んで「資金不足から積立金を取り崩す事態は結果的に発生していない」と会計検査院が特別会計検査の結果、06年10月に指摘した背景には、政府短期証券の発行や国庫余裕金でやりくりしたカラクリがあったのだ。

国庫全体として現金に余裕が生じている一方で、多額の国債を発行している国庫の現状がある。このギャップの解消に向け、財務省は07年度税収・年金保険料の受け入れ日に独立行政法人の運営費交付金(事業費)の交付日を合わせるなど調整し、特会への無利子貸付けを行うことで、国庫の余裕金の圧縮に一定の成果を挙げている(07年度の国庫余裕金平均残高は前年度比約1.5兆円の減少)。
しかし、そこには財政赤字にあえぐ一般会計への配慮はなく、身内(財務省管理内)の特別会計への「特別扱い」があるばかりだ。
ちなみに、年度末の国庫余裕金残高から繰替使用(無利子貸付け)残高を除き、財務省証券発行残高を加えた額は、日本銀行が預かる政府預金となる。08年3月末の政府預金残高は、緊急支払い準備用の当座預金1500億円を含め、計3兆5085億円に上る。この一般財源への活用も、同時に検討されるべきであろう。
消費税引き上げの前に行うべき「埋蔵金」の活用―。この観点から、「埋蔵金」の一種ともいえる「国庫余裕金」「政府預金」の使途についても国会などで十分に論議する必要があろう。





〈表1〉国庫余裕金の平均残高の推移                   (単位:億円)
    2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度
 4月
26,056 52,855 41,821 39,292 32,237
 5月
―  ―  12,135 ―  ― 
 6月 19,661 24,191 89,761 34,627 22,898
 7月 13,309 8,581 17,429 10,767 ― 
 8月 35,992 50,222 52,243 63,138 20,393
 9月 46,954 71,093 57,454 41,004 19,061
10月 32,168 79,542 68,394 45,312 31,271
11月 47,190 82,261 56,118 17,961 10,669
12月 69,771 119,776 100,435 55,154 34,131
 1月 88,276 108,666 95,867 42,776 18,790
 2月 113,891 118,693 108,031 63,060 43,765
 3月 103,554 81,359 83,681 71,335 53,270
年度平均 61,461 82,897 72,160 45,540 30,071
年度末残 93,214 40,626 31,871 21,196 ― 
 (出所:理財局国庫課調)
(注1)ここでいう国庫余裕金残高とは、日毎に見て、国内指定預金(一般口)残高と国庫余裕金繰替使用残高の合計から財務省証券残高を引いたもののうち、ゼロ以上の金額。
(注2)「−」は、国庫余裕金残高がゼロ以上となる日がなかった月(「年度末残」の欄を除く)。


〈表2〉国庫余裕金繰替使用の平均残高                 (単位:億円)
    2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度
外国為替資金 44,715 44,404 23,292 12,100 8,368
合計
44,715 44,404 23,292 12,100 8,368
 (出所:財務省)