■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第108章 「霞が関埋蔵金」のありか
(2008年1月24日)
「ひょうたんから駒」のごとく、自民党内の消費増税論議からコロリと「霞ヶ関埋蔵金」の話が飛び出した。
事の発端は、自民党財政改革研究会で、民主党の政権公約を非難する形で交わされた「(社会保障制度を維持するための)ムダの排除はもはや限界。徳川幕府の埋蔵金のようなものはない」という趣旨の発言。これに対し、「デフレの脱却と経済成長」を主張する経済成長重視派の中川秀直・元自民党幹事長が「埋蔵金は特別会計(特会)の中にある」と反論したのだ。
中川氏の公式ウェブサイト「埋蔵金『実在』に関するメモ」によると、特会の積立金210.7兆円(2005年度決算ベース)のうち、年金や雇用・労災保険などの保険料計約160兆円は将来の給付のため取り崩せないが、残り50兆円相当は「埋蔵金」として取り崩せるという。そして、この埋蔵金の中でも財政融資資金特別会計(財投特会)と、外国為替資金特別会計(外為特会)にそれぞれ20兆円前後の積立金・剰余金(歳入から歳出を差し引いた余剰金)がある、としてその活用を主張したのだ。
この結果、08年度政府予算案で、国債返済用に財投特会から積立金9.8兆円を取り崩すほか、外為特会など4特会の剰余金から一般財源用に1.9兆円を一般会計に繰り入れることが決まった。総額11.7兆円が、活用されることとなったのである。
中川氏が指摘した通り、「霞ヶ関埋蔵金」はしっかり実存していたのだ。道路や空港整備、特許事務など国の特別な事務・事業のために、一般会計から区分経理されている特別会計。国民の目に触れないその余剰資金の活用を説いて動かした中川氏の言動は、近来にない政治的快挙といえる。
問題は、特会の余剰資金が一時的で「1回限りの活用」で終わるのか、今後も毎年度、継続できるのか、である。
ダブついた特会資金が積立金や剰余金の形で毎年、積み上げられているとしたら、その余剰資金を借金財政の軽減や窮迫する一般財源用に回さなければならない。
そこで、06年10月に国会に提出した会計検査院報告により、積立金の推移をみてみよう。 積立金を持つ15会計(04年度)の中で、厚生保険特会に次いで2番目に資金量が多い財投特会積立金の急増ぶりが際立っている。1989年度末に1350億円だった同特会の積立金残高は、2004年度末には18兆7712億円に、実に約139倍も膨れ上がった。理由は、国の調達金利の超低水準と財投改革による預託金利の上乗せ廃止で、支払い利子の減少が運用利子収入の減少を大きく上回る状況が続いたせいだ。
ということは、低金利など現行の財政条件が続く限り、同特会の積立金は今後も増え続けるだろうから、毎年継続的に取り崩し、活用することが可能となるわけだ。 もう一つ、剰余金から翌年度への繰越額を除いた「不用額」、つまり“使い残し額”の推移をみてみよう。
会計検査院によると、1995年以降、消費税の4%分に相当する10兆円をゆうに超える不用額が毎年発生し、調査最新時の04年度は消費税4.2%分に相当する10兆6000億円近くに上った。このことは、現行の特会制度が温存される限り、使い切れずに余る毎年10兆円超のカネを継続的に一般財源や国債返済に回せることを意味する。
しかも、こうしたカネ余り特会のうち、3年連続で不用額が100億円以上に上る特会は「18会計」もある。この中で、歳出予算額に占める不用額の比率「不用率」が10%以上の特会は8会計を数える。
これら“カネ余り常連特会”は、「外為」、「電源開発促進対策」、「石油及びエネルギー需給構造高度化対策」、「食糧管理」「貿易再保険」などだ。
不用額は、積立金や一般会計への繰り入れなどとして処理されるが、なかには会計検査院が処理法を把握できないケースもあった。借金漬けの一般会計に対し、特別会計のカネは不透明なうえにダブついているのだ。
こうしてみると、財政健全化と年金財源確保に向け、政治は国民負担を強いる消費増税の前に、特会の情報公開とその余剰資金の継続的な徹底活用を考えなければならない。