■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第106章 契約内容とカネの流れが鍵/独立行政法人改革

(2007年11月12日)

  政府・自民党は、12月に予定している独立行政法人(独法)の整理合理化計画の策定に向け、現在102ある独法のあり方を抜本的に見直す方針だ。福田康夫首相は10月、中馬弘毅・自民党行革推進本部長から同計画進捗状況の報告を受け、「独法はもう一度見直す必要がある」と、事実上改革の踏み込みを指示した。第104章で既報の通り、緑資源機構事件は独法が官製談合の基地となっていた実態を浮かび上がらせた。独法の受注先への契約金、補助金などのカネの流れを「官→官(天下り先ネットワーク)」から「官→民」に変えられるか否かが、抜本改革の成否を分ける。

  まずは政府の取り組みからみてみよう。 政府方針に省庁が「ゼロ回答」 安倍前内閣は8月10日の閣議で、独立行政法人整理合理化計画の基本方針を決定した。それによると、各府省による所管独法の整理合理化案の提出を経て、「行政減量・効率化有識者会議」や、総務省や各府省の独法評価委員会などの議論を踏まえ、政府は12月下旬に整理合理化計画を閣議決定する。
  計画策定に当たり基本方針は、総論と各論から成る。総論は「横断的視点」と呼ぶもので、1. 独法の徹底的な縮減を目指し、民営化を含むゼロベースでの事務・事業の見直し、2. 経費や資金の流れなど運営の徹底した効率化、3. 自主性・自律性の確保 ― の3点。いわば「独法の数減らし」と「運営の効率化・自律化」が柱だ。

 各論では、独法を事業別に次のように6つに類型化し、それぞれの事業ごとにチェックポイントを挙げている。
  1. 公共事業執行型(都市再生機構、水資源機構など) 法令順守体制の整備、発注先の公益法人や企業との間の資金の流れの情報公開など。
  2. 助成事業等執行型(国際協力機構、雇用・能力開発機構など) 事業の廃止・縮小、助成基準の明確化など。
  3. 資産・債務型(国立科学博物館、日本高速道路保有・債務返済機構など) 実物資産の原則売却や金融資産の圧縮など。
  4. 研究開発型(森林総合研究所、土木研究所など) 重要度に応じた廃止・縮小、成果チェックの厳格化など。
  5. 特定事業執行型(造幣局、自動車検査など) 官民競争入札の適用、類似事業の統合など。
  6. 政策金融型(日本学生支援機構、住宅金融支援機構など) 直接金融からの撤退、リスク管理の強化など。
  政府は、以上の基本方針に沿って独法改革を打ち出そうと、各府省庁に8月末までに見直し案提出を求めたが、結果は新たな廃止法人を示さない「ゼロ回答」だったのだ。

会計検査院が明らかにした新事実

  しかし、今回の独法改革も、小泉政権下の01年12月に発表された特殊法人等整理合理化計画の“二の舞い”になる公算が大きい。同整理合理化計画では、道路4公団民営化のみが「特殊法人改革の象徴」としてクローズアップされ、この鳴り物入りの進行劇に隠れて官僚主導で49法人が独法化され、官業として温存された。肝心の道路公団民営化は、新民間会社に本業の道路建設・管理事業から「利益を上げること」を認めず、公団の資産と借金を管理する独法を別途新設するという「まやかしの民営化」に終わっている。
  筆者は独立行政法人を民営化、民間・地方移管を含め全廃すべきと考える。理由は、緑資源機構事件を引き金に次第に明らかになってきた官製談合の広がりだ。官製談合の多くが、独法を舞台に繰り広げられていたのだ。
  緑資源機構は、国民の税金を使って法律(独占禁止法など)違反を知りながら、天下り先のネットワーク(公益法人および民間企業)に業務契約を独り占めさせていたのだが、その契約方法は、実態は随意契約(入札を経ず、任意に相手を選ぶ契約)にもかかわらず、「指名競争入札」の形に偽装してあった。
  ところが、こうした指名競争入札の形さえ取らず、天下り先に直接発注する随意契約が、独法の契約法の「ほとんど全て」を占めていた実態が判明したのだ。

  会計検査院が9月末に発表した「特殊法人等から移行した独立行政法人の業務運営の状況についての報告書」(検査対象は中期目標が今年度末で終わる25法人)。これによると、支払い額(年間)100万円以上の業務契約を行った13法人の契約法を支払い額でみると、04〜06年度の3年間の随意契約は3333億円と、全体の99.5%を占めていた(件数ベースでは88.8%)。残りの0.5%は指名競争契約で、一般競争契約は全くない。
  しかも、検査院によると、06年度までの3年間の指名競争契約193件、約15億円のうち130件、約7億円分は緑資源機構の森林調査、間伐選木調査絡みの契約だったのだ。ところがこの契約は、同機構役員(起訴済み)が所管の農林水産省と機構からの天下り受け入れ実績に基づき、受注業者を割り当てる「配分表」を作成して、形ばかりの指名競争入札を実施していたものなのである。
  したがって、実態は独法の業務契約の「ほぼ100%」のカネが官の天下り先・関係先に注ぎ込まれている、といってよい。衆議院調査局が先に行った各独法の05年度支出調査によれば、天下り先への発注の7割が随意契約によっていたとされたが、特殊法人からの移行グループでみると状況は遙かに深刻だったのだ。
  これらのことから浮上したのは、事実上の官製談合によって独法の事業に支出された国民のカネが「官から官の受け皿(天下り先ネットワーク)」に流れ、一般競争の形で「民」に流れて来ない構図だ。国民のカネが、独法―公益法人―天下り先民間企業という「官の聖域」用にもっぱら使われていたのだ。

ファミリー企業数198社

  これが独法の契約とカネの流れの「実態」である。「第2の特殊法人」といってよい。
  独法予算は年間3.5兆円(2007年度)に上る。その使われ方が根本から改められ、透明化・公正化されなければ、何のための改革か。
  他方、衆院調査局が今年3月に発表した調査結果によると、中央省庁が天下り受け入れ法人に業務契約や補助金の形で支出した金額は、06年度上期の半年間だけで5兆9200億円に上った。国民の税金や保険料が、このように「中央省庁→天下り先法人」に流れるに当たって、独法の多くが緑資源機構にみられるように「司令塔」の役割を果たしていたのだ。

  こういう税金、保険料を食い物にする法令違反の反社会的組織の存続が許されていいはずはない。この実態を受け、独法の事業を文字通り「ゼロベースで見直す」、つまり「独法がないものと仮定して、独法が行ってきた業務・事業を今後どう扱うか」を考えなければならない。  独法の問題は、しかし、「契約とカネの流れ」にとどまらない。前出の会計検査院報告によると、検査対象となった25法人の公益法人を含むファミリー法人・企業数は計198に上る(04〜06年度)。内訳は、独法が出資して議決権の過半数を握る企業が九社、出資や人事、資金、取引などの関係を通じて重要な影響下にある企業が54社、同様に系列下の公益法人が135法人である。
  報告は、これら緊密な関係先と「競争性のない随意契約を毎年度締結していることにより、契約相手方が固定しているものが大半である」としている。これをみても、特殊法人時代と何ら変わっていない。

  もう一つ見逃せないのは、独法の不透明な財務処理だ。報告によれば、旧特殊法人が抱えていた繰越欠損金は、独法化に伴い政府出資金などを充てて解消され、財務基盤を改善させている。だが、その過程で15法人で5兆4679億円に上る政府出資金の償却が生じている。特殊法人時代の「負の遺産」を埋めきれず、政府出資金が減少した、つまり税金で穴埋めしたのだ。
  さらに政府出資金で繰越欠損金を処理したあと、再び繰越欠損金を計上している「慢性欠損型」の独法が6法人6勘定あった。なかでも経済産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構石炭経過勘定の繰越欠損金は、05年度末時点で80億円超に上る。
  他方、05年度末に繰越欠損金を300億円以上計上している独法は、農畜産業振興機構砂糖勘定など13法人26勘定。いずれも「国民の負担増」につながるが、今回の会計検査でその実態がようやく明らかになったのだ。

雇用促進住宅に公務員が入居

  独法の事業運営にも問題が多い。大規模施設の事業を例にとってみよう。
  自己収入でどの程度施設の運営経費を賄えているかを示す収支率の状況をみると、日本スポーツ振興センターの霞ヶ丘陸上競技場、代々木体育館などの競技場は集客が多く、収入が支出を上回る。しかし、日本芸術文化振興会の国立劇場、国立能楽堂などの「劇場」は赤字、さらに雇用・能力開発機構の「私のしごと館」は大赤字だ。しごと館に至っては、06年度の収入約1億3600万円に対し、支出は16億1300万円超。運営経費の大部分を国からの運営費交付金に依存している。
  同交付金の財源は、労働保険特別会計雇用勘定。民間企業の事業主と従業員が折半で負担する雇用保険料から毎年、多額の欠損分を穴埋めしているのだ。

  独法の居住施設の運営も、問題だらけだ。雇用・能力開発機構の雇用促進住宅を例に挙げよう。これは同機構の前身の特殊法人・雇用促進事業団が1961年度に、公共職業安定所の広域職業紹介により移転就職する者の居住用に設けられた。しかしその後、配置転換などによる住居変更者も入居が認められるようになり、03年度からは「その他職業の安定を図るために住居の確保が必要な者」も入居対象に加えられた。
  結果、雇用保険の対象ではないため、「資格外」のはずの公務員も利用するようになり、06年度末時点で計302戸に入居している状態だ。このうち国家公務員の入居戸数は75戸。道府県職員が30戸、市町村職員が197戸に上る。当初の「労働福祉施設」理念はすっかり色あせ、いまや財源の雇用保険料を負担していない公務員の利用が進んでいるのだ。これは、雇用促進住宅の根拠法となった雇用促進事業団法のそもそもの趣旨から大きく外れた違法行為を、所管する厚生労働省自らが犯していることにならないか。

  会計検査院が検査した25法人のうち、使途が特定されていない運営費交付金が特別会計から支出されている独法は、雇用・能力開発機構を含め5法人8勘定ある。5法人向けに特別会計が交付している額の運営費交付金交付額の全体に占める比率は、04年度以降の各年度とも4割を超える。独法の財源に占める特別会計の比重が、04年度から跳ね上がったのだ。
  もはや独法は、フランケンシュタインを思わせる、手に負えない複雑怪奇なモンスターになってきた。この際、欠陥の多い独法制度そのものを廃棄して、突破口となる新たな改革手法を探求し、制度設計する必要がある。