■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第7章 中央省庁再編で誕生する“恐るべき官庁”総務省
中央省庁再編法の成立で、21世紀の「この国のかたち」の骨格ができ上がったが、内閣機能の強化のような明らかな成果の半面、省庁の大くくりから生じた重大な欠陥も浮かび上がってきた。とりわけ、郵政省、自治省、総務庁が統合されて新設される総務省の巨大な権限をどうチェックし、コントロールするか、が問われるのは必至だ。
総務省が“恐るべき官庁”になるのは、職員が30万人にも上る官庁きっての量的な超巨大さだけではない。その権限が異様に突出するためだ。財政・金融を一手に握った、かつての大蔵省の強大無比の権限を連想させるほど、総務省の権限は広範囲に及ぶことになる。しかも、その範囲は外局に事業実施庁(郵政三事業)や独禁法の番人、公正取引委員会を抱える一方、総務庁以来の行政監視機能と地方自治に関する行政機能も併せ持つ「ゴタマゼ肥大化機能」になる。
マンモス官庁の統治に難題
問題は、まず運営面で現れそうだ。このマンモス官庁のガバナンス(統治)をどうするか、である。一つのまとまった巨大機能ならともかく、全く異なる行政機能が、たとえは悪いが難民キャンプのように雑居するのだから、一人の大臣が問題をつかみ、コントロールできるか怪しい。事務方のトップである事務次官でさえ、局や庁の要求を抑えきれないのではないか。「局あって省なし」の役所の弊害が、以前よりも色濃く現れそうなのである。問題の根源は、省庁再編の青写真となった橋本・前政権時代の行政改革会議の最終報告にある。同会議は97年9月の中間報告で「郵便貯金の民営化準備、簡易保険の民営化」を打ち出したが、その後郵政省と自民党郵政族議員の激しい巻き返しにあって骨抜きにされ、同年12月の最終報告では民営化案を引っ込め、郵政三事業を「郵政公社への移行」に後退させたのは周知の通り。
結果、総務省の外局に郵政事業の実施事務を所管する郵政事業庁が設置され、さらに郵政三事業の企画立案・管理を担う部局を総務省の内局に置くこととなった。いわば、「官」と族議員の圧力から、郵政省の事業と権限が電気通信・放送行政を含め、そっくり総務省に引き継がれたわけだ。
このため、前身の総務庁が手掛けていた省庁、特殊法人などに対する「行政監察」のようなチェック機能及び失業統計に代表される統計業務と、郵便・郵貯・簡保の郵政三事業とが合体する奇妙な形となった。
そうなると、事業の拡大を図る事業者の暴走を一体どこがチェックするのか―という問題が出てくる。郵政事業の現業を担う特定郵便局が、全国組織を動員して自民党を支援しながら自らの「省益」を追い求める構図は民営化阻止運動などで証明されたが、ほかにも特別会計から特定郵便局長に対し、使途を制限せずに支給する「渡切(わたしきり)費」のような不明朗な会計上の慣行がある。さらに報道されたように、郵政省所管で郵政OBが天下る公益法人(社団法人と財団法人)の不正疑惑も後を絶たない。郵貯では、巨大化した資金力を背景に事業のネットワーク化を進め、「民業圧迫」の度合いを強めて金融不安の一因にもなっている。
自分の事業を自ら監督することは可能か
こうした国営事業を監視するには、第三者機関のようなものが適当なのだろうが、中央省庁再編法によれば、郵政事業の監督官庁は総務省内の郵政管理部局(旧郵政省)となっている。つまり、自分の事業を第三者ではなく自らが監督する建前だ。言いかえれば、事業実行者と管理・監督者が一体化している。であれば、事業の是非を客観的にチェックする機能を十分に持てるはずはない。しかも、総務省の機能をさらに肥大化・複雑化させているのは、外局の二庁・二委員会の存在だ。この中には郵政事業庁、公正取引委員会のほかに、公害等調整委員会、消防庁が含まれる。さながら「五目寿司」のように多種多彩なのである。
なぜ、行革会議は総務省の外局に四つもの機能を並べたのか。
議事録によれば、同会議は97年8月18日の集中審議第一日目に「実施業務は内閣府に担当させるのは適当ではなく、その担当として総務省が必要ではないか」との説明がなされている。
さらに三日目の同月20日には、「理論的には大臣庁(宮内庁、防衛庁、国家公安委員会、2000年7月設置の金融庁など)は内閣府に、実施機能の庁は総務省にそれぞれ設置されるべきだ」との意見が通っている。つまり、大くくりの省庁再編の結果、郵政事業や公取委はその属性を深く検討されることなく、ごく機械的に総務省の傘下に置かれたわけだ。ところが、公取委はその性格上、高い独立性を求められるため、郵政事業という現業を持つ総務省から切り離し、米国の大統領府に属するFTC(連邦取引委員会)並みに、内閣府に置かれるべきものだ。
不透明な利権の足場にもメス届かず
もう一つの問題は、「官」が利権を広げる足場にしている公益法人の扱いだ。行革会議は、公益法人については触れずじまい。結果、公益法人は従来通り主務官庁が民法第34条に基づき「公益性がある」と判断すれば、その許可を得て設立でき、行政から仕事を委託されたり、補助金を受け取ったり、法人税などを減免される。この主務官庁の許可制のおかげで、公益法人は都道府県の許可と合わせると、これまでに全国で2万6千法人以上もつくられ、その一部は「休眠法人」や「幽霊法人」にもなっている。公益法人の多くは官僚が業者と結託して設立し、自らの天下り先にしてきた。
中央省庁再編法では、この「官」の不透明な利権の足場にメスが入っていない。これまで通り主務官庁が自らの裁量で公益法人の設立を許可することになる一方、総理府が行っていた「公益法人の実態調査・報告、白書、ガイドライン作り」は総務省に引き継がれる。そうなると、総務省は郵政事業関連など自らが所管する公益法人をまともに監察するだろうか。身内の不都合な情報を開示したり、不正を暴いて改善を勧告するかどうか、大いに疑問だ。
このように、雑居ビル化した観のある巨大官庁の総務省は、波乱含みの出発となる。「理念なき大くくり省庁再編劇」の典型的産物ともいうべき同省は、異質のさまざまな業務を吹き溜まりのように抱え込む。列挙すれば、主な項目だけで次のようになる。
行政組織・運営管理、国家公務員に関する制度の企画・立案、人事管理、行政監察、地方自治、選挙、電気通信・放送、恩給、統計、郵政三事業、消防、公正取引、公害調整…
この実態をみれば、いずれ「行政改革の第二段」を迫られることは、避けられそうにない。
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