■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第4章 「官」と「民」の間のグレイゾーン
「官」と「民」の境界に横たわる「公益法人」という名の非営利法人―。建前は、「公益事業を行う」との条件で、民法34条に基づき主管官庁の許可を得て設立された社団法人と財団法人を指す。だが、実態は建前とは裏腹だ。行政代行業務を独り占めして国や地方自治体から補助金や委託費を貪ったり、利益をため込んだり、監督官庁の天下り先になったりと、問題がやたらに多い。中には道路公団系の特殊法人(法律により設立された法人)のように、「官」が利権の蜜を吸う「隠れミノ」になっている公益法人も少なくない。
総理府によれば、公益法人の数は年々ふえ、96年10月時点で2万6,089。90年代に入って14%増加した。職員数は銀行の従事者49万人を上回る52万4千人で生命保険と肩を並べる。
公益法人には中央省庁と都道府県、さらに双方が共同で所管するものがあるが、全体の74%が都道府県の所管だ。2万6,089の公益法人の内訳は、財団法人が1万3,471、社団法人が1万2,618と、ほぼ伯仲している。所管官庁別にみると、文部省が1,792法人と群を抜き、次いで通産省の908、運輸省848、大蔵省798、厚生省573と続く。所管都道府県では、東京の979をトップに大阪府966、北海道921の順だ。
3割強が事業内容を公開せず
活動内容は教育・訓練、研修会・後援会から広報、調査・研究、検査・検定、資格付与、施設運営などと幅広い。
問題は、事業活動の情報開示をろくにしていないことだ。すべての公益法人に原則適用が義務付けられる公益法人会計基準を完全適用している法人は62.4%しかなく、企業会計を採用している法人を合わせても全体の7割に満たない。3割以上の法人の財務内容には濃霧がかかっているのだ。
事業報告書、収支計算書、貸借対照表、財産目録、事業計画書、収支予算書の6書類の公表率でみると、一番低いのは郵政省本省所管の法人で57.8%、次いで公表率6割台が厚生省、文部省、建設省、労働省本省、自治省、外務省、国土庁の順だ。都道府県別では、県知事所管の法人で最悪なのは三重県の27.8%、次いで3割台が低い順から岡山、奈良、秋田、和歌山と続く。教育委員会所管では低い順から長野県教委の0%、群馬の1.5%、奈良の2.6%。公表しない背景には、民間企業のように株主などによる事業内容のチェック機能がないことが挙げられる。
こうして、情報開示をしないまま、税の免除や軽減といった優遇措置を受けているのだ。公益法人の場合、法人税は所得税法により「収益事業」から生じた所得についてのみ課税される。だが、法律に基づき「収益事業」と認定される33業種(不動産から興行業まである)のどれかを手掛けて儲けを上げていても、普通法人の基本税率37.5%に対して27%の軽減税率が適用される。所得税は、銀行などから支払いを受ける利子については非課税。地価税も原則なし、印紙税も公益法人として作成する受取書は「営業に関しないもの」とみなされて非課税扱いだ。 こういう税優遇措置を、いまでは2万6千以上にも増えている公益法人に、一律に与えてよいものか。問題法人には、公益法人資格の取り消しや税優遇措置の停止で臨むべきではないのか。
公益法人のあり方が厳しく問われているもう一つの理由は、95年度決算ベースでみると、官庁から指定を受けて行政代行事業を行う「指定法人」などに国の検査や検定、登録などの業務を代行させる委託費として約1,451億円、補助金として約2,462億円に上る税金が使われていることだ。同様に、都道府県からも委託費約5,140億円と補助金約3,374億円が支給されている。
税金ムダ遣いのオンパレード
総理府の調べでは、委託費の交付を受けている公益法人数は国所管の法人だけで延べ592、補助金については延べ411ある。ところが、この中に問題法人や問題行政が少なくないのだ。
総務庁が96年8月、11月に実地調査したところ、・委託された事業を全然やっていない ・制度的に不必要になったのに委託指定事業として残っている ・委託された事業を他の公益法人に“丸投げ”して儲けた ・「認定」の推薦事業を利用して会員をふやし利益を図った ・委託された助成金の交付を特定の団体に優先的に決めていた―などの事例を突き止めた。このうち目立った問題ケースを紹介すると―。
[要らなくなったのに指定事業として放置→厚生省の不作為]厚生省は早くから食品衛生法14条に基づき日本食品衛生協会、北海道薬剤師会公衆衛生検査センター、宮城県公衆衛生協会、香川県薬剤師会など21法人を指定し、食品業者が販売しようとする「かんすい」と「タール色素製剤」の検査を委託した。ところが事業者による品質管理向上の実績もあり、85年に政府・与党対外経済対策推進本部が決めた「市場アクセス改善のためのアクションプログラムの骨格」により、「政府認証」から「自己認証」に移行することとされた。これを受けて87年に食品衛生法が改正され、同2品目は検査対象から除外された。
実施すべき指定事業がなくなったにもかかわらず、厚生省は指定事業を廃止せず、21法人が指定されたまま残っていた。
[委託事業の“丸投げ”→農水省の監督怠慢]農水省は指定法人に社団法人「全日本マカロニ協会」を選び、マカロニの格付事務を委託してきた。ところが同協会は格付検査を行うために必要な設備や資格を持った職員を確保していなかったため、95年度指定事業費の9割以上を他の公益法人に委託する一方、事業収入の5割近くを手に入れていた。農水省は給食サービス管理士の資格審査・証明の推薦事業でも同様な事例を見逃していた。
[「認定」の推薦事業を利用して賛助会員をふやし、収入増を図った→警察庁の監督怠慢]国家公安委員会がタイヤ滑り止め装置の認定の事業を推薦し、実施法人に選んだ財団法人「日本自動車交通安全用品協会」は、認定マークを同協会の賛助会員のみに販売するようにした。そうすることで、認定を受けようとする者は同協会の賛助会員にならざるを得ない仕組みになり、現実に認定を受けた者すべてが賛助会員になっている。(ただし、山田崇・同協会事務局長は筆者の取材に対し「会員の26社はあくまで自発的に協会の趣旨に賛成して賛助会員になったもの。総務庁は専務の説明を誤解した」と反論した。この総務庁の立ち入り調査のあと、検討していた1個60円の認定マークを非賛助会員には20円上乗せする案は立ち消えになったという。ちなみに同協会の理事長は警察OB)。似たようなことを、郵政省所管の船舶無線整備士の資格付与の推薦事業実施法人も行っていた。資格付与を会員のみに限定していたのだ。
[指定事業である助成金の交付を特定の団体に優先的に決めていた→厚生省の監督怠慢]厚生省は福祉用具の研究開発に対する助成事業を財団法人「テクノエイド協会」に委託しているが、同協会は毎年、同じ厚生省所管で仲間内の関係にある社団法人「シルバーサービス振興会」に助成金を優先的に交付してきた。それも、95年度の助成金交付状況でみると、同振興会に対しては正規の交付手続きを踏まずに、民間企業より先に交付決定している。さらにテクノエイド協会が作成した研究開発事業報告書の中で、民間企業の研究開発と区別して「シルバーサービス振興会事業」と特別扱いしている。テクノエイド協会は厚生省官僚の「植民地型」の天下り先で、調査当時理事18人中11人までを厚生OBが占めていたから、厚生省出身者が実行主体といえる。その後、所管官庁出身者が理事に占める割合を3分の1以下とすることを求めた96年9月の閣議決定を受け、厚生OB理事を現在では18人中4人に減らしている)。 委託・推薦事業については以上の通り「公正かつ透明に」行われてきたとはいい難い。となると、補助金も果たして適切に運用されているのか、との疑念が生じる。
年収3千万円超の理事も
天下りの状況はどうか。総理府の最新調査によれば、国家公務員出身者(本省庁課長相当職以上の経験者で退職後10年未満)が理事を務める公益法人数は2,483、理事数は7,080人で、うち常勤理事(週三日以上勤務)が24.6%の1,742人を占める。
一方、都道府県所管法人の公務員出身理事が務める法人数は5,443、理事数は1万4,633人、うち常勤理事が24.5%の3,591人に上る。常勤理事数ゼロの法人は国所管で3分の1弱、都道府県所管で6割弱だから、このことは日常業務は事務職員に任せている公益法人が多いことを物語る。常勤理事への天下りがしっかり行われているのは、先の財団法人「テクノエイド協会」のように幅広い事業活動を展開している比較的規模の大きい成長型の法人とか、財団法人「日本交通管理技術協会」のように設立当初に監督官庁OBが大挙して理事に就任し、そのまま居座ってしまった法人である。
日本交通管理技術協会は、国家公安委員会が電動車イスの型式認定の試験事業に指定された法人。理事7人中5人を警察庁出身者が占め、浅沼清太郎会長は、74年から警察庁長官を務めたあと、阪神高速道路公団理事長を経て就任している。警察庁の分署のような協会なのである。監督官庁とこういう太いつながりがあるから「指定法人」を外されることは考えられない。
もう一つ、注目されるのは「指定法人」の常勤役員で「年週3千万円以上」が12人いることだ。うち1人は企業の取締役に当たる「理事」。「非営利」という公益法人の要件をみれば、大手優良企業のトップ級と変わらない「3千万円以上の年収」は世人の常識を超える。調査した総務庁は当の公益法人名を明らかにしないが、この「高給取り」12人の大半が、監督官庁OBであることは想像がつく(とはいえ他方で、常勤役員でいながら「無報酬」と「年収5百万円以下」のつましい生活をしている人が2割以上いることも指摘しておく)。
公益法人の実体にメスが入りはじめたのは、ここ2、3年のことだ。最大の問題は、「公益法人」の定義があいまいだから、判断が主管官庁に委ねられているところにある。さらに、民間から公益法人設立の許可申請があれば、書類などの形式審査と行政裁量で成否が決まることになるから、透明性からはほど遠い。公益法人の基準や公益法人に委託する業務内容を法律で定め、法人の会計基準をグローバルスタンダードに近づけて財務内容を公開させ、民間の営利企業でできるものは民間に任せていくことが肝心だ。公益法人の運営を霧に覆われた不透明なままにしておくと、この「官」と「民」の間にあるグレイゾーンは、さらに「官」の利権を吸い込んで広がっていく恐れがある。
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