■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第5章 公益法人がある限り、官の支配は安泰
公益法人の問題が近頃になって急浮上してきた背景には、既に述べたように、検査・認定などの制度の民間への委譲を勧めた土光臨調の最終答申(1973年)があった。これをきっかけに、官僚たちが厳しい看視にさらされるようになった特殊法人、認可法人の設立を諦め、その代わり「官」の仕事を代行する公益法人を相次いで設立して甘い蜜を吸ってきた経緯がある。「官」はしばしば「業」とグルになり、特定の公益法人に「官」が注文する業務を独占させ、自らの天下り先にもしてきた。これら「公益法人」の設立は中央官庁や都道府県の裁量ひとつで認可されるため、「官」は民間の業者などを使って自作自演で乱造することができる。公益法人は、法人税や地方税が減免される恩恵を受けながら、大不況下に民間の企業とはケタ違いに有利な状況を享受してきた。 その存在自体、民業の圧迫、納税の回避によって、国民に多大な負担を強いる。
不明朗法人の一つ、日本建築センター
財団法人、日本建築センターは、不明朗法人の典型例の一つ。なぜなら、建築確認の手続き上、建物の規模や構造、材料によっては欠かせない「評定」「評価」の業務を法に基づかずにほぼ独り占めしてきたためだ。建設省によれば、1965年に同省住宅局建築指導課長から全国地方自治体の建築主務部長宛に出した「通達」がその唯一の根拠になっている。国民の与り知らぬまま、一片の課長通達で、特定の公益法人に業務を独占させ、民間の新規参入を排除しながら自らの天下り先にする―という恐しい構図が30年以上も前につくられたのである。
日本建築センターとは、そもそもどんな財団法人なのか。
同センターが7月に発行した「評定のご案内」には、こう書かれてある。「日本建築センター(BCJ)は、建築にかかわる研究、新技術の評価及び情報の収集と普及等を目的に1965年、建設省及び建築関連業界の支持のもとに設立された非営利の団体です。・・・BCJの中心的業務は設立目的の一つである評価業務―建築にかかわる新技術、新材料等の評定業務―といえます」
つまり、建築の新しい技術や材料、構造、一定の高さ以上の高層建築については建築基準法により特別に建設大臣の「認定」を得なければならないが、これを得るための「評定」の作業を行っているわけである。建築技術が海外からの導入もあって日進月歩であることから、大臣認定を要する建築確認申請はおびただしい数に上る。
問題は、大臣認定を得るまでの手続きが不透明で、分かりにくいことだ。理由は、法律に定めがなく、都道府県市など全国地方自治体の建築主事の行政指導に従って手続きが進められるためである。建設者側からすれば、手続きはこうなる。―
まず建築確認を申請する場合、自治体の建築課に相談するよう行政指導を受ける。だが、このあとは自治体によって取り扱いが異なることがある。 日本では建物を建てようとする時は、一定規模以上のものについては建築基準法第6条により建築主事の確認を受けなければならない。建築主事は申請書を受理し確認した場合は「7日ないし21日以内に」申請者に通知する義務がある。
ところが確認手続きの例外規定(建築基準法第38条)があり、「予想しない特殊の建築材料または構造方法を用いる建築物については」建設大臣の認定を受けるよう指示される。大臣認定を必要としない場合でも、日本建築センターの「評価」を前もって受け、その評価書を確認申請と同時に提出するよう行政指導を受けることもある。つまり、地元の建築主事が対応できないケースはすべて「評定」か「評価」が義務付けられるわけだ。
大臣認定を受けるよう指示された場合は、前もって日本建築センターに評定申請を行ない、同センターが「評定」した評定書を建築確認申請書に添えて提出しなければならない。評定の内容は、建築物の構造耐震力とか耐久性、防火材料などのほか、高さが60メートルを超える建築物の構造計算、高さ31メートル以上の建築物の防災計画が含まれる。
「評定」や「評価」の申し込みを受けた日本建築センターは、申し込みの内容によっては試験機関の公益法人や研究所と連係をとって評定・評価を行っている。この兄弟役ともいうべき公益法人はいずれも財団法人で、「ベターリビング」「建材試験センター」「日本建築総合試験所」「日本住宅・木材技術センター」「小林理学研究所」の五法人。ほかに建設省建築研究所、東京消防庁予防部、東京都建築材料検査所、農水省林業試験場、北海道立寒地住宅都市研究所などが検査に関与している。
職権乱用の疑いがある「課長通達」
評定・評価が専門的な知識を要するとはいえ、この業務を日本建築センターが9割方独占し、残りも5公益法人をはじめ特定の試験機関が分け合っているのは腑ふに落ちない。建築基準法にきちんと定められているならともかく、日本建築センターを通すように「課長通達」で決めたのは、一見して官僚の職権乱用の疑いがある。なぜなら、国会どころか閣議にすら諮られていないからだ。通達は、担当大臣にも知らされないのが普通だ。政令や省令と違って官報にも掲載されない。法的根拠は全くない。日本建築センターの評定件数実績をみると、景況が悪化し建築工事が縮小した97年度を除けば、91年度以降年々増加している。通達行政のお陰で業務をほぼ独占してきたためだ。
問題の「通達」をみてみよう。
「特殊な建築材料、構造方法の取扱いについて」と題したこの通達は、日本建築センターの設立に合わせてつくられている。
内容は「・・・財団法人日本建築センターの諸審査機関が整備されたことに伴い、特殊な建築材料、構造方法についての取扱いを下記の通り定めたので今後はこれによって処理されたい」とある。つまりは、建設省の一存で、できたばかりの日本建築センターに評定・評価をさせる「決まり」をつくり、全国の自治体に「右へならえ」式に行政指導させたのだ。
同センターと連係して検査を行う5つの公益法人も、いずれも法によって指定されたわけではない。69年以降、建設省住宅局建築指導課長の「通達」で試験機関に指定されているにすぎない。このうち日本住宅・木材技術センターに至っては、「通達」で壁に限る試験研究機関として指定したのはようやく93年になってからだ。要するに、建設省は評定・評価の作業機関を指定し保護するため、法によってでなく、思いのままに発動できる「通達」によったのである。
こういう出生のいきさつだから、同センターの主要理事ポストのほとんどを建設省OBが占めている。
日本建築センターの場合、理事長、常務理事、常勤理事三人のうち、理事一人を除く四人が建設省出身。立石真・理事長は建設省住宅局長→住宅・都市整備公団副総裁を経て天下っている。山中保教・常務理事は建設省上がりで愛知県建築部長を務めたあと8月1日付で就任したばかり。三村由夫理事は建設省建築研究所長出身。吉田正良理事は建設省建築指導課長補佐から住宅金融公庫を経て8年前に就任している(役員の任期は一期2年)。監事2人のうち、越智福夫氏は建設省住宅局生産課長OB。このほか非常勤の理事が7人、評議員(理事の選出や予算・決算案の審議を行う)が20人、顧問が3人もいるが、多くが建設省のOBや現役で占められ「建設省の出先機関」の感がある。
関係する5公益法人の役員にも、建設省のOBが多い(ただし、小林理学研究所は国庫補助金を受けている文部省から、日本住宅・木材技術センターは同じ理由で農水省から、日本建築総合試験所は委託を受けている地方自治体から、建材試験センターはJIS、ISO関連の検査などで関係が深い通産省から、それぞれ理事を迎えている)。
「市場」という共通の闘技場で闘うべき
建設省だけでも、こうした「通達」を使って「官」が甘い蜜を吸う構造づくりは、この2年後の67年にも実行されている。財団法人の道路施設協会が特殊法人の日本道路公団から独占的に使用できる「占用許可」を得て、サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)のガソリンスタンド、レストラン、売店などを営業できるとした「道路局長通達」である。官僚たちは機が熟したとみるや都合の良い「通達」をつくって、利権を貪ろうとしたわけだ。
しかし、規制緩和・手続き明瞭化策の一環としてことし6月、建築基準法が改正された。この結果、通達によってこれまで日本建築センターに自動的に集中した評定・評価の仕組みは改められ、建設大臣は「指定する業者に」認定審査に必要な評価の「全部または一部」を行わせることができる、とされた。この改正法はむろん、官報に掲載された。
だが、新たに出てきた問題は、官僚の書いたこの法律文の文章が超下手くそで、ひどく分かりにくいことである。この分かりにくさを当然と考えて、国民一般に分かりやすい表現に改めないところに、日本の「官」の反民主主義的な考え方「由らしむべし、知らしむべからず」が表れている。
もう一つ、改正法で業者が指定されることになったが、2年後の改正法施行に向けて「指定」を受けたい意向を示しているのが、いまのところ日本建築センターとベターリビング、建材試験センター、日本建築総合試験所といった、在来の公益法人であることだ。つまり、相変わらずなのである。公益法人そのものを株式会社に衣替えさせ、「市場」という共通の闘技場で互いに競争させるようにしてはどうか。公益法人がある限り、官が支配する旧来構造は変わりそうにない。
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