NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第1章 「日本的約束」が招いた惨事
 92年から始まった金融機関の不良債権開示から既に6年。処理は終わるどころか 、不良債権は次から次へと膨らんできりがない。そうこうするうちに、金融危機の爆薬庫といわれるゼネコンなどの「隠された債務」がことし3月期決算でようやく明るみに出た。これは「バブルの宴」に酔い痴れて系列のノンバンクとか、建設業者、地上げ屋に連発した債務の「保証」や「保証予約」のことだが、このほかに法的性格はあいまいだが、債務保証に似た「経営指導念書」なるものも含まれる。

 いわば社外秘の債務保証とか裏保証の類が、昨年度の有価証券に初めて明記されたのである。思えば、こうした巨額の隠された不良債権が貸し手の金融機関の体力を消耗させ、その巨額さと不明朗さゆえに不良債権の処理をずるずると遅らせてしまったのである。 昨年11月に三洋証券、拓銀、山一證券、翌12月に東食が経営破綻し、激しい「貸し渋り」を招いたのは、「市場の選別」が厳しく働いた結果であった。言い換えれば、「護送船団式行政」や「株式の持ち合い」といった日本型の談合資本主義が急速に衰退し、米英型の市場主義が前面に現れたのである。これを受けて、企業間の弱肉強食性も色濃くなり、市場で売られないためには、ことし3月期決算で自分の着飾らない、ありのままの財務内容を市場にさらさないわけにいかなくなった。

隠された債務保証

「隠された債務保証」の典型に、バブル期に社長が取締役会に諮らずに独断で巨額の債務保証を行い、バブル破裂後に返済できなくなったケースがある。巻線メーカー最大手の第一電工が、その最新例だ。
 同社のことし3月期決算は687億円の特別損失を計上し、一挙に211億円の債務超過に陥った。続いて筆頭株主で親会社の三菱電機も3月期の連結決算で、横波を受けて1,050億円もの最終損失に追い込まれた。

 第一電工破綻の元凶は、沖国鎮前社長(5月に引責辞任)が隠していた海外子会社への233億円もの債務保証にあった。この裏保証の存在はこれまで一切公表されていなかった。消息筋によれば、沖前社長が事業実態不明の約20社を含む海外子会社への裏保証を役員会にもかけずに独断で行い、それを隠してきたが、損失が巨大化したため隠しきれずに明るみに出た。
 昨年12月に会社更生法の適用を申請した東食の場合も、財テク子会社「東食ファイナンス」に対し1,000億円以上を債務保証しながら、“簿外扱い”にして隠していた事実が、前年8月に表面化したことが命取りになった。発覚当時、東食の社長はなお残っていた約500億円の保証債務について「メーンバンクのさくら銀行から、今後支援を継続するとの確約を得た」と語っていたが、1年余り後、当のさくら銀行から融資を打ち切られて万事休した格好である。

会計処理の透明化が急務

 こうした不透明な債務の「裏保証」の慣行がまかり通っている業界が、ゼネコンだ。日本公認会計士協会は、日本企業の会計処理への海外の不信感を晴らすため、ことし2月、「債務保証」だけでなく、日本特有の「保証予約」や「経営指導念書」といった債務保証類似行為についても貸借対照表に注記するよう建設業界に指導を始めている。
 「債務保証予約」とは、子会社などが債務返済困難に陥った場合、返済の責任を負う旨約束したもの。「経営指導念書」は、親会社として返済困難な事態にならないよう経営改善を指導していく、という念書である。
 3月期決算書によれば、ゼネコン業界では、債務保証と保証類似行為の双方を足した金額は総額3兆円規模。ワーストワンの長谷工コーポレーションは、ことし3月末時点で5,435億2千万円(うち保証予約が5348億8,800万円)に上る。

 熊谷組は、保証予約や念書の類はない、としているが、保証分だけで2,986億900万円に達する。1年前は4,300億円以上もあったから、内部留保を取り崩して債務返済を進めたわけだが、なお自己資本の2・2倍を上回る保証債務を抱えていることになる。
 昨年3月末時点で約7,600億円もの保証債務を抱えていた飛島建設。昨年7月、三十以上の取引金融機関との間で新再建計画の「協定書」を調印し、約6,350億円に上る保証債務の減額が実行されている。  この結果、ことし3月末時点での保証債務額は1,184億7,900万円に減ったものの、なお自己資本の3・4倍もある。
 青木建設は、保証債務額約2,576億円にも上り、今期どの程度保証債務への追加引き当てを行うか注目される。  総合商社も、ことし3月期にバブル期の負の遺産の大幅処理を余儀なくされた。伊藤忠は単独決算で不良資産の“損切り”に踏み切り、147億円の最終赤字。丸紅、トーメンも同様にそれぞれ308億円、197億円の最終損失を計上した。3社とも特金・ファントラをはじめ、これまで先送りしてきた不良資産の損切りをようやく実行に移している。

 商社の場合、昨年夏以来のアジアの通貨危機がもたらした債権回収不安で保証債務問題は新たな局面に入っている。総合商社9社のタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、韓国の5カ国向けに行っている投融資の残高は、債務保証を含めると総額1兆3,000億円以上に達することが3月期決算で判明した。こうしたアジア向け債権の不良化が今期以降、進行するのは必至の情勢だ。不良債権問題の根は果てしなく深い。


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