■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「最新・世界自動車事情」
 ☆番外篇『最新・世界自動車事情』      
(2002年3月18日)

最新・世界自動車事情6(『テクノオート』2002年4月号掲載)

日産の復活で自動車勢力図変わる

 日産自動車が収益に続き、売上げ面でも復活してきた。1月の新車販売ランキングによると、軽自動車を除く乗用車でベストテンのうち日産車が一躍、3車種を占めた。小型車「キューブ」が前月比6.7%伸ばして7位に浮上したほか、マイナーチェンジしたミニバン「セレナ」、ワゴン車「ウィングロード」が前月比それぞれ47.3%、7.3%増を達成して8位、10位に入った。3車種がベストテンに入るのは99年8月以来だ。
 一方、「日産再生」の指揮を執るカルロス・ゴーン社長は2月、予定より1年早いことし3月に「日産リバイバルプラン(NRP)」を達成する見込みだ、と宣言した。20%の購買コスト削減をはじめ3カ年計画だったNRPが掲げる主要目標のすべてを、予定より1年も前倒しで実現することを明らかにしたものだ。事実上、「日産再生」の本格軌道に乗せたといえる。この結果、日本の自動車業界はトヨタ、ホンダの2強体制から、再び日産を加えた3強体制になる。
 日産はNRPの終了に続き2002年度初めにはNRPの実行結果を公表すると共に、新3カ年計画「日産180」の詳細を発表する。これは、3年間でさらに15%の購買コストの削減を含む新たな挑戦を課するものだ。「日産180」は、売上げと利益の成長、負債ゼロを目指す包括的な計画になる。ルノーと資本・業務提携を結ぶ日産の復活は、日本車に押されてシェアを低下させている米ビッグスリーに一層の圧力を加えることとなり、グローバル自動車戦争にも大きな影響を与えるのは必至だ。

SUVで日米が火花

 ここで視界を広げて、日本車にとってもう一つの主戦場であるドル箱の米国市場を概観してみよう。ビッグスリーにとってなんといっても頭が痛いのは、日本車の攻勢だ。日本のエレクトロニクス、家電メーカーがIT不況や安価な中国製品に押されて全体に沈む中で、自動車業界の勝ち組は快走を続ける。
 年末からの1ドル=130円の大台を超えた円安も、追い風となって日本車を後押しする。ビッグスリーはもはや貿易摩擦問題として米政府に訴えることもできない。メキシコやカナダに生産拠点を移した米メーカーに対し、米国で現地生産する日本車のほうが米国内の部品調達比率が高いからだ。
 米メーカーはまた、日本車を不当なダンピングで訴えることもできない。同じ車種なら、むしろ高めでも日本車のほうが売れ、安売りの理由が何一つなくなったからだ。

 米ビッグスリーのシェアが大きく切り崩されているのは、かつては独壇場で人気も収益性も高いSUV(スポーツ用多目的車)の分野。1月に自動車産業の勃興地・ミシガン州デトロイトで開幕した北米国際自動車ショーでは、焦点のSUVの新型車を巡り日米各社が華やかに競演を繰り広げた。トヨタの「GX470」、ホンダの「パイロット」などと共に、日産も「FX45コンセプト」を発表、注目を浴びた。
 この自動車ショーで、日産自動車の「アルティマ」が01年のカー・オブ・ザ・イヤーに、乗用車部門の日本車として初めて選ばれるなど、日産の存在感を浮き立たせる。受賞の理由は、馬力アップ、乗り心地や車内空間の広さなどに中型セダンの「ブレークスルー(突破口)」が認められたためだ。
 いま最も関心が集まるSUVは、米ビッグスリーの寡占体制だった数年前までトラックをベースにボディと内装を変えて量産していた。その分、コストがかからず、1台当たりの利益も大きかったのだ。だが半面、ガタガタと乗り心地が悪く、燃費もよくない。
 これをみて日本メーカーは、4輪駆動タイプの乗用車をベースにSUV市場に参入してきた。結果、スポーツ感覚で快適にどこでも乗り回せる―とあって、女性や若者の評価を上げ、売り上げを急伸させた。日本車が米SUV市場を一段と活性化させて広げ、この市場にユーザーのますます熱い視線が向けられるようになる。
 日本車はSUVやミニバンの販売増が奏功して、01年の全車種を含む販売台数で北米市場のシェアを26%超と10年ぶりに記録を塗り替える。対して米ビッグスリーは、過去最低の63%のシェアに沈んだ。

 米自動車専門誌『コンスーマー・リポーツ』の最新号「スポーツ・ユーティリティ・スペシャル2002」の評価をみよう。SUVの最大激戦区である中型部門をみると、「エクセレント(卓越)」と最上位に評価されたのはBMWをトップにアウディ、トヨタの3社。しかし、最新モデルの評価ではトヨタの「ハイランダー・リミッテッドV6」が唯一「推薦できる」とされた。続いて「大変よい」と評価された8車のうち、ホンダの「アキュラMDX」を筆頭に、トヨタの「レクサスRX300」、「スバル・アウトバックH6VDC」、「ニッサン・パスファインダーLE」の日本車だけが同様に「推薦できる」のお墨付きをもらっている。
 評価点は性能、乗り心地、利便性、安全性、装備、燃費の6項目。ユーザーの関心の的ともいえる中型部門で、日本車のみが「推薦」を受けたことは、日本車の盛んな競争力を物語る。

落ちる米国、昇る日本

 米ビッグスリーの経営実態はどうか。
 9.11の災厄にもかかわらず、米メーカーはローン金利のゼロ・キャンペーンで実質大幅値引きを行い、辛うじて売上げの減少を防いだ。だが、2002年の販売について米メーカーは一様に悲観的だ。米新車販売が年間200万台減って、1500万台に落ちる、という見方もある。
 得意のSUVやピックアップトラックで日本車にここ1、2年大きくシェアを奪われ、ブリヂストン・ファイアストンとのタイヤリコール問題でイメージダウンしたフォードは1月、大規模なリストラに踏み切った。北米で5工場を閉鎖し、歴代の米大統領も愛用した豪華車「リンカーン・コンチネンタル」を含む4車種を廃止し、全世界で要員35000人を削減する、というものだ。トヨタ、ホンダ、日産が新工場を米国内に建設する計画を進めるのとあまりに対照的だ。
 この積極攻勢をかける日本メーカー3社の中で、米側にとって“台風の目”になりそうなのは、コスト削減に成功して開発に重心を移し、今後はフルモデルチェンジ車を続々と登場させる日産自動車かもしれない。
 2月末に主力小型車「マーチ」のフルモデルチェンジ車が、従来のイメージを一新する丸みのある姿でお目見えした。米国でも来年秋には「ニッサン・クウェスト」を市場に投入、25,000〜30,000ドルの価格に設定して米車の「ダッジ・グランドカラバン」や「フォード・ウィンドスター」を駆逐する計画だ。
 日産の復活は、思うに、ゴーン氏の戦略とそれを実行する手順が「正解」だったことを意味する。まず大幅なコスト削減を日産ファミリーグループの広汎な部品メーカーに求めたことだ。これは下請け業者にコスト合理化を迫るものだが、単なる“下請けいじめ”を意味しない。自動車の生産コストの7割前後は、実に下請けの外注部品の調達コストから成るからである。であれば、コスト削減を実現するために、当然この外注コストに真っ先に踏み込まなければならない。
 ゴーン氏はこうして日産の肥満した肉体の引き締めから、体質改善を開始した。そしていま、健康でスリムな肉体を得て、次のステップとして一転してマーケットでの新車攻勢に乗り出したのである。



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