■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
 第41章 独立行政法人
    役員報酬・退職金は特殊法人並みの高水準      
(2002年3月28日)

  外務省を悩ませた田中真紀子外相と鈴木宗男代議士は去ったが、外務省は残った。―
 田中・鈴木騒動には、見逃してはならない重要な側面がある。国民を代表する代議士が所管官庁から敵対者とか邪魔者とみなされた場合、官僚はさまざまなリーク(情報漏らし)を使ってその代議士を追い落とせる。このことを今回の騒動は改めて実証したのである。外務省を「伏魔殿」呼ばわりし、外務省改革を叫んだ田中外相は辞任、外相と対立して外務省を擁護していたはずの鈴木代議士も、利権の闇が次々に暴かれて自民党離党に追い込まれた。
 引き金となった有力情報は、いずれも外務省発である。鈴木利権の場合、なぜいまになって情報がドッと奔出してきたのか―おそらく組織防衛のため公表したほうが得策、と外務省は判断したからであろう。だとすれば、外務省はメモを含む内部文書の開示を明確なルールに沿って国民の前にさらけ出し、政と官の関わりを公表しなければならない。中央省庁の役人が、手元のマル秘情報をもとに恣意的に政治をコントロールするようなことがあってはならないのだ。

事務次官を上回る役員報酬

 今回は「独立行政法人」の問題を取り上げる。筆者は昨年4月にスタートした57の独立行政法人について「第二の特殊法人」と化す恐れを指摘してきたが、早くもこの恐れが現実のものになっていた。民主党の上田清司・衆院議員が国政調査権を使ってこのほど調査した全57法人の「役員報酬」によれば、年収が所管省庁の事務次官を上回る理事長をはじめ、ことごとく「特殊法人並み」の高水準に設定されていることが明らかになったのだ。しかも退職金の算出方法も、特殊法人と同一なことがわかった。
 独立行政法人の幅広い「自由裁量」をいいことに、法人が勝手に役員の報酬・退職金水準を特殊法人と同じ基準で決め、これをチェックする各所管省庁の独立行政法人評価委員会も「問題ない」として事実上承認し、大臣が認可していたのだ。いや、「われわれが決めたものではない。役所の指導だった」と複数の独立行政法人幹部が言っていることから、報酬・退職金水準は実際には役員に天下る所管省庁が規程の作成の際に指導していたのは間違いない。

 全57法人のうち、役員の年収が一番高い産業技術総合研究所(経済産業省所管)を取り上げてみよう。
 理事長は吉川弘之・元東京大学総長(東大名誉教授・精密工学)。報酬は本俸(月額)が165万6250円、賞与金が年間662万5000円、年収額が2650万円とされている。一期二年勤めれば、1192万5000円の退職金が得られる。
 問題は、この役員報酬水準が同研究所の前身である通産省工業技術院のトップだった院長が受け取った国家公務員指定職の九号俸よりも、いや、各省庁の事務次官の一一号俸さえも上回る最高位の指定職一二号俸並みであることだ。一二号俸は、東大と京大の学長のみが得られる国家公務員の最高俸給。これが一独立行政法人の研究所の理事長にも適用される、というわけである。
 しかも、この産業技術総合研究所は初年度(2001年度)に705億300万円もの国費を受け取る(計画ベース)、全独立行政法人のなかで最も国民の税金を費やす法人だ。言いかえれば、多額の税金が研究用ばかりか理事長をはじめとする14人の役員報酬にも投じられているのである。
 独立行政法人の役員報酬の特色の一つは、理事と監事の報酬額が理事長と大差ないことだ。特殊法人の体系にならって決めてあるから、近年批判を受けてトップの理事長や総裁の報酬は引き下げられたものの、理事や監事の報酬には手をつけていなかった特殊法人の体系のいびつさをそのまま引きずっているのだ。
 同研究所の場合も、副理事長(1人)の月俸は143万7500円、理事(10人)は121万8750円、監事(2人)93万7500円。つまり、国民の側からみると国が面倒をみる国営型研究機関の役員14人に年間報酬総額2億587万円を支払い、一期2年分の退職金として計1億2352万円を負担する計算になる。

チェック機能働かず

 研究所側の言い分を聞こう。なぜ、院長の給与は指定職九号俸であったのに、理事長の給与は指定職一二号俸相当に跳ね上がったのか。この質問に対し、ファクスで送られてきた公式コメントは次のようなものだ。

(前略)産業技術総合研究所(産総研)は、技術立国を達成する上で、大変重要な研究テーマについて、基盤的なものから、実用的なものまで、広範な分野において取り組んでいる。組織面でも、従来の16の機関を統合し、また、内外から研究者を募り、16カ国、3200名の職員からなる我が国最大の公的研究機関(注・研究分野はライフサイエンス、情報通信、環境エネルギー、材料ナノテクなど)である。こうした機関に相応しいトップの給与水準として現在の給与を設定したものである。

 つまり、「自らの存在意義に照らして適正水準の報酬」というわけである。それなら工業技術院研究所と産総研の定員数は大きく変わっているかというと、「基本的に変わりがなく、人件費総額についても同様」(経済産業省産総研チーム)という。国費の予算規模も、前年の工業技術院時代と制度・組織の違いからいちがいに比較できないが、「実質ベースでほぼ同じ」(産総研)だとしている。
 となると、職員の一人がほのめかしたように、理事長に元東大総長を引っ張るために同総長の俸給と同じ一二号俸に引き上げたのではないか。
 このように国民の税金を使う法人が、経営の自主性が最大限に認められているのをいいことに、国から支給される「運営費交付金」の中から自らの裁量で役員報酬を超高めに設定していいものか。しかも、所管の経済産業省の独立行政法人評価委員会(委員14人、委員長、木村猛・元東工大学長)も、これに異議を唱えたフシはない。チェック機能が働いている、とは思えないのだ。これでは自律性をできるだけ与える制度を悪用して独立行政法人が「第二の特殊法人」になるのは目に見えている。事実、役員の報酬基準、報酬金額、退職金の面で特殊法人並みかそれ以上にさえなっているのだ。
 独立行政法人側は経営の自由度が増し、その分責任も重くなったとして、役員報酬が高くなっても当然、とも主張するが、そもそも特殊法人の役員給与は民間の実勢ベースに比べいまや二割ほども高い。本来、役員の報酬も一般職員の給与も、特殊法人ではなく民間をベースに民間の体系でスタートさせるべきなのだ。そして業績に応じて向上すれば収入を引き上げればよいのだ。

 このように法人の役員は軒並み高額収入が保証された。全57法人中、年収2000万円以上の役員を抱える法人が11に上る。先の産総研のほか日本貿易保険、経済産業研究所、国立博物館、国立科学博物館、国立美術館、国立公文書館、通信総合研究所、航海訓練所、物質材料研究機構、放射線医学総合研究所などがこれに含まれる。うち、国の補助金をもらっていないのは日本貿易保険だけだ。
 国費を受け取りながら役員が高収入を約束されている法人の実態を、業績と関連させて今年6月までにチェックする総務省の第三者機関「政策評価・独立行政法人評価委員会」はどんな評価をするか。仮に、そのまま実情を認めることになれば、何のための特殊法人改革だったのか、議論を巻き起こすのは必至だ。

退職金算式も特殊法人と同一

 もう一つ、退職金規程についても触れておこう。その計算式が特殊法人と同じに全法人が足並みを揃えるのも、独立行政法人を政府機関に擬しているためではないか。そこで特殊法人と同じ算式で退職金が決められたのである。
 この算式は全法人とも特殊法人と同じ次のようなものだ。

 月額報酬×在職期間×支給率(36/100)

 これを国立公文書館の館長に当てはめると、月俸が110万6000円だから任期の四年を全うすれば1911万円の退職金を得る。静かで波風のほとんど立たない職場の長として、年収2000万円超、退職金も2000万円近く貰えるのだから、破格の待遇といえる。したがって、役員報酬と退職金に関する限り特殊法人との違いはゼロに等しい。
 さらに、厚遇される役員の人数をみると、独立行政法人に移行する前の行政組織の幹部だった指定職(審議官以上)の数よりも全体に大幅に増えている。旧通産省内の一組織「貿易保険課」が指定職ゼロから、「日本貿易保険」に移行して理事長1、理事2、監事2人(うち1人非常勤)の役員5人体制になったのが、その好例だ。
 独立行政法人の役員構成は、公益法人を思わせる。法人の長(理事長、館長など)1人と監事を置くことを法で定めてあるほか、理事長の補佐として副理事や理事を置くから、旧行政組織の指定職数より3ポスト前後、増えるのは当然だ。
 問題は、法人のトップをはじめ理事、監事が国家公務員の幹部OBで占められていることだ。先の日本貿易保険の場合、理事長に荒井寿光・元通産審議官が就任している。独立行政法人化により、格好の天下り先が急増したのである。
 独立行政法人に認められた経営の高い自由度が早くも乱用され、高収入の天下りの温床に作り変えられようとしている。しかも、制度の悪用に対するチェック機能を所管官庁の「評価委員会」が果たしている形跡はない。どうみても、独立行政法人が第二の特殊法人と化して「官の聖域」を広げる恐れが強まってきた。
 小泉内閣の「特殊法人等改革」で、全部で38(統合されて36)の特殊・認可法人がこの独立行政法人に移行することが決まっている。


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