■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「最新・世界自動車事情」 |
☆番外篇『最新・世界自動車事情』
(2002年2月21日)
最新・世界自動車事情4 (『テクノオート』2001年12月号掲載)
JAFはモータースポーツにどうかかわっているか
F1(フォーミュラワン)世界選手権シリーズ最終戦の日本グランプリ(GP)は2001年10月14日、三重・鈴鹿サーキット(1周5.859キロ)で53周の決勝が行われ、ミヒャエル・シューマッハー(ドイツ、フェラーリ)が1時間27分33秒298(平均時速212.664キロ)で優勝した。既に2年連続4度目の総合優勝を決めているが、これで今期、年間最多勝利のタイ記録9勝目をマークした。
F1の来期は、いよいよトヨタが新規参戦し、7人目の日本人F1ドライバー佐藤琢磨も登場する。9.11以降、世界の景気低迷色が深まるなか、モータースポーツを一気に盛り上げる起爆剤になるか。―
このF1グランプリへのJAF(日本自動車連盟)の関わりについて、前号に続きさらに考察を進めよう。
一言でいえば、F1ビジネスのオーナーであるFIA(国際自動車連盟)を会員数世界第2位(現在1600万人余り)の自動車クラブ、JAFが日本唯一の加盟団体としてバックアップしている、という構図である。JAFは63年の創立以来、FIAにより公認された四輪車の日本のモータースポーツ統轄団体である。この立場から、モータースポーツ諸規則の制定、ライセンスの発給、競技会の組織許可、コースや競技車両の公認、紛争裁定などを行う。その一環として、JAFはF1などのレースに対して「安全性」や競技の「公平性」に問題がないかチェックするわけだ。
F1サーキットの査察、ドライバーの持つライセンスのチェックに始まりクルマの車検、ポスト(標識)をどこに取り付けるか、救急体制は、旗振りの位置は、などレースの円滑な運営に向け支援する。
つまり、JAFによればF1レースのプロモーターとかオーガナイザーの契約には関与しないが、レースを成功させるために実務的なサポートを行うわけである。したがって、JAFがFIAに毎年支払う会費(2001年度スイスフランで477万円相当)も、F1グランプリとは関係なく、FIAが定めJAFが従うモータースポーツの規則などに対して支払うものだ、とJAFは説明する。
モータースポーツの講習、資格付与を独占
では、JAFのモータースポーツ業務とは、どんな内容なのか。それは、モータースポーツ分野を網の目のように張り巡らし「講習会―ライセンス―競技資格」をJAF独占で付与・認定する仕組みの一大体系にほかならない。
非営利・公益事業のはずの公益法人(JAFは社団法人)が、これら講習会の受講料やライセンス取得料を独り占めする。しかも、ライセンスを取るための条件として「JAFの会員」であることを義務付けている。つまり、JAF会員に入会しなければライセンスが取れない仕組みになっているのだから、大きな問題をはらむ。
モータースポーツを始めようとする人は、こういう手続き上のコスト負担を余儀なくされる一方、JAFは公益法人のはずなのにその独占的立場を利用して利権を丸ごと確保しているからである。こうしてみると、JAFがFIAに対して支払う会費も、独占的利益をもたらすモータースポーツビジネスのルールを決めて提供する元締めへの“特許料”ともみえる。
国内ライセンスの種類は初心者クラスのBとレースに出場できるA。「国内A」ライセンス取得後、一定の完走条件を満たせば「国際C」ライセンスを取得できる。さらに、申請前2年以内にJAFの日本選手権レースで5回完走すれば、「国際B」ライセンスを獲得できる。それより最高の「国際A」ライセンスは、JAFの日本選手権で総合成績の5位以内に5回入賞するか、シリーズ最終成績で5位以内に入賞すると取得できるようになっている。
栄光へのいばらの道
モータースポーツを始めるには、花形レーサーを狙うのか趣味で地元の競技イベントに参加するか―といった選択肢をはっきりさせたうえ、ある程度の出費を覚悟しておかなければならない。
はじめに普通自動車運転免許証を持っていなければならないのは言うまでもない。だが、初級の「国内B」を取るにはJAF会員であることが必要だから、入会していなければ君はJAFの入会費2000円、年会費4000円を講習会場で払わなければならない。受講料は教材費込みで約1万円。
JAFの登録クラブが開催する講習の内容は、モータースポーツの基礎知識が中心となる。競技規則、車両規則、参加手続きの方法など。2時間ほど講義を聴くと「受講証明」が渡される。試験がないので、受講者全員が合格する。
講習の終了後、主催者に受講証明スタンプをライセンス発給申請書に押してもらう。この証明付きライセンス発給申請書に顔写真2枚を添付してJAFの各支部窓口に提出し、許可証料3000円を支払う。そうすると、その場で仮のBライセンスが発給される。これで君は晴れて競技会に出場することができるようになるのだ。
ここで大事なのは、この初期コストがバカにならないだけでない。ライセンスはすべて有効期間が取得した日からその年の12月末までとされているから、キープしようとすれば、Bライセンスならさらに更新料3000円を支払わなければならない。JAFによれば、この年ごとの更新制度はFIAが決め、全世界共通だという。有効期間を短くしている理由は、危険を伴うため能力・資格をひんぱんに確認する必要がある、というものだ。
「国内A」を取得する場合は、受講料などに教材を含め「国内B」の2.5倍相当の約25000円かかる。「国内B」の取得ドライバーが1人で走ってタイムを競い合うのに対し、「国内A」は他の競走車と走るから衝突の危険性が高く、つれて講義のグレードも上がる。講習会では実際のサーキット走行もやるから、受講料が前述のように跳ね上がるわけだが、このほかに講習会が開催されるサーキットまでの交通費も必要になる。
Bとは違い、筆記試験も実技試験も行う。いよいよ試験に合格した君はAライセンスを申請する際、許可証料4000円を忘れてはならない。
このようにライセンスのランクが上がるにつれ、コストもかかってゆく。海外の競技会に出ようと思えば、JAF発給の国際競技運転者許可証の取得(「国際B」ライセンスで許可証料は12200円)が必要になる。そのうえに、外国で開催される競技に参加するために必要とされる出場証明書を申請しなければならない。この申請コストには1件で8100円、数次で23400円もかかる。国際ライセンスを取るには、君はある程度裕福でなければならない。
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