■Online Journal NAGURICOM 山明の『気圧の魔』研究会報告 |
第1章 悪魔はひそかに忍び寄る
気圧の魔が私の精神をいかに翻弄するか、恥をしのんで、最近の事例をもう一つ紹介しよう。今年はエルニーニョ現象の影響か、春先から天気が悪く、何度も何度も低気圧が来襲し、まったく辛い状況だが、菜種梅雨から五月晴れを通り越して本格梅雨に突入して、しばらくのことである。
月曜から一週間雨が降り続いたその週の水曜、私は妻といっしょにテニス仲間のI夫婦を都内の蕎麦屋に招待して、ゆっくり懇談することになっていた。そしてその席で、私はとんだ失態を演じてしまったのである。翌朝、断腸の思いで書いたお詫びの手紙の一部を抜粋して、以下に紹介する。我が苦衷が分かっていただけるはずである。
○○○○様・◇◇様
先日はせっかくの楽しかるべき蕎麦会を、小生の悪酔いですっかり台無しにしてしまい、まことに申し訳なく、大いに恐縮しています。
生来の低気圧アレルギーで、低気圧が激しく動く春先や梅雨時、あるいは台風時には肉体的、精神的な変調を来たし、なかなかにしんどい日々を送っております。そのために時々南の島にも逃避しているわけですが、今週は月曜から激しい低気圧襲来で、とくに蕎麦会の水曜は朝から気分が悪く、起きていられないような状況でした。そういうときに酒を飲むのは鬼門で、実を言えば朝から「まずいときに酒を飲むなあ、今日は危ない」と思っていたのですが、気圧の魔は常に背後から音もなくしのびより、おいしいビールを飲んだ途端、警戒心はいずこともなく消し去られ、酒に移ったころには、もはや我が頭脳は(多分肉体も)混乱の域に達し、余計なことをだらだらとしゃべり始めたという次第です。
これを中断するのはほとんど至難で(どうして異変に気がつかないのか不思議で、それがまた相手の手強さでもあります)、いつもはそれほど飲まない酒もまた止まらなくなり、ふだんはたいして問題にも思っていないことまで、思いつくもの、目につくものすべてがけしからん、と相成って、銀行も、新聞社も、友人も、はては親類縁者にいたるまで、いろいろと不当な言い掛かりをつけられたという次第です。
家に帰って寝るまでは、まだ気圧の魔の影響下にあり、意気軒昂としていましたが、一夜明けるともういけません。悪夢から醒めたかのように、前日の行動一切が思い浮かび、宿酔いの中で猛省、猛省、猛省、今日は一日、すっかり落ち込んでしまった次第です。こういうことが二年に一度くらい、必ずあるというのがまた情けない。思い起こせば、まさに恥ずかしきことの数々ですが、こういった事情は、ほとんど誰にも分かってもらえないところが、なかなかに辛いところでもあります。
もっとも気圧アレルギーを訴える人は多く、現在、仲間といっしょにオンライン・ジャーナリズムの可能性を試すべく、ホームページを開設する準備を進めていますが、そこで「『気圧の魔』研究会報告」なるコラムをもうけ、同病に悩む会員を募ると同時に、症例報告と対症療法発見に務め、いずれは本にまとめ、我ら更正の一助にしたいと念願しております。
中略
というわけで、先日後半の独演に関しては勝手に忘れることにしましたので、以後、お付き合いの折りは、武士の情(淑女の慮)と、調子をお合わせいただきますよう、伏してお願いする次第です。合掌。
こんなわけで、ひどい天気のときに気がつかずに酒を飲むと悲劇なのである。突然、上司にくってかかったり、仲間に暴論を吐いたり、罵倒したり、そのせいで損をしたこと限りない。親友をなくしたこともあるのである。今日は危ないと予め分かっていても防ぐのは難しいのだから、敵もさるもの、ひっかくもの、気がつかないうちに襲われると、まことに始末が悪い。翌朝になって、ああ昨日は失敗したと後悔することが多いのである。
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