■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
ドイツの公務員制度を見習い「公僕」に立ち戻れ/無責任国家の正体(10)

(2012年1月4日)

「無責任国家」から訣別するには、まずは「公務への信頼」を取り返す必要がある。公務員は天下りにピリオドを打ち、「国民のための公務」の原点「公僕」に立ち戻らなければならない。ドイツの公務員制度をモデルに、制度の抜本改革を考えてはどうか。
組織の怖いところは、危ない暴走をしてもレッドカード(破綻判定)が出されるまで、自己の正当化を図り、反省しないことだ。過ちを悟らせ、方向を転換させる監視機能が必要だが、それが十分に働かない。 この点で、原子力行政とオリンパス経営の反省のなさと損失隠しは、重なり合う。

制度を考える上で、公務員宿舎削減問題を見てみよう。財務省は昨年12月、「今後5年間で公務員宿舎約21万8千戸の25.5%、5万6000戸を削減する」などを盛った削減計画を発表した。 地元市長の要望を受け、凍結中の朝霞住宅など2カ所は、建設を中止する。
計画では宿舎への入居要件を厳しくした、というが、まやかしの内容だ。「一時の宿舎縮減」に過ぎない。
正解は、「公務員宿舎の全廃」でなければならない。単なる財政上の理由からではない。住む公務員にとっても、組織の束縛から逃れ、世間の自由な空気を吸えるからだ。 住居が必要なら、民間企業のように民間の賃貸物件から借りればいい話である。 東京・元麻布の国有一等地、約800坪もの公邸。そこに検事総長が家賃13万円余で住む風景は、異様だ。

「霞が関文化」は世界の非常識

欧米は、原則、公務員宿舎を持たない。ただし米国では、海外に常駐する米軍、FBI(連邦捜査局)や国務省職員に限り、例外的に宿舎が用意されている。
人事院幹部が理由をこう語る―。
「欧米では基本的に命令ではなく、本人の意思を尊重する。本人が希望して手を挙げて転勤が実現する。家族持ちなら、単身赴任もない。行きたがらない赴任地には地域手当のようなインセンティブを付けて解決している」
つまり、公務員を宿舎ごと丸抱えで面倒をみて保護し、支配する「霞が関文化」の常識は、世界の非常識なのである。公務員制度自体とその文化が、古くさく、時代の流れから取り残されているのである。

ではなぜ、新たな公務員制度設計に際し、ドイツがあるべきモデルとなるのか。
答えは、ひと言でいえば「エリート公務員は終身雇用で天下りなし、一般職員はすべて契約職員」だからである。
ドイツでは、度重なる試験などで選ばれた少数の「官吏」(Beamte)が、公権力の行使に関わる業務を担当する。いわば公法上の「職業的幹部官僚」だ。 ナチスに協力した歴史への反省もあり、公務員は国民の公務の“汚れなさ”に対する信頼性が損なわれないように、政治的中立を厳しく求められる。
十分な額の「恩給」が支給されるため、退職後は恩給生活に入るのが一般的だ。官による天下り斡旋はない。再就職する場合は、退職後5年以内(65歳で定年退職の場合、3年以内)は退職前5年間の職務と関係があり、それによって職務上の利益が侵害される可能性があれば、届け出なければならない。
これに対し一般職員は私法上の契約関係に立ち、「公務被用者」と呼ばれるが、契約職員として事務・サービスの実務に従事する。 官吏が連邦各省の政策立案業務を担い、国政に責任を負うのとは対照的に、役所のルーティンワークをこなす。官吏は連邦政府に集中して配属される。
公務員制度を「新しい革袋」にかえ、天下り問題を解決し、国民の税負担を大幅に軽減する。この究極の目標に向け、ヒントに富むドイツモデルの十分な検討が欠かせない。
(おわり)