■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
天下りシンクタンクが「洗脳工作」/無責任国家の正体(9)

(2011年12月29日)

「脱官僚」どころか官僚に骨抜きにされた政権は、いよいよ自主性を失って漂い、「その場対応」を繰り返す。だが、官の「洗脳工作」は政権内にとどまらない。民間に対しても「深く、静かに」浸透してきている。「原子力安全神話」が、その象徴的なケースだ。
「原子力は安全」―そう言われて、国民は信じ切っていたところに、最悪の事故を引き起こした。「原発のコストは安い」という殺し文句も、事故対策費を考えればデタラメだったことが分かった。
原発神話を世に広め、地域住民に「工作資金」をバラまき、原発を推進してきた張本人が、国の別働隊である天下り法人だ。うち国民を“洗脳”する役を担ってきたのが、天下りシンクタンクである。 シンクタンクはいま、福島原発の大惨事を小さく見せ、既存の原発路線の維持に躍起だ。

未曾有の原発事故は、思いがけず「この国の原発推進の形」をあぶり出した。それは国のエネルギー対策特別会計の電源開発促進勘定に入った消費者負担の税収(11年度当初予算3286億円)の大半が、所管省庁(経済産業省と文部科学省)から天下る研究開発や広報に従事する独立行政法人や公益法人に使われている、という構図だ。
電力消費者が支払う電源開発促進税が1世帯当たり月平均約110円含まれる電気料金。その税収の半分以上が、天下り法人を養ったり、原発事業に使われていたことになる。
ある経産省OBが本心を語った。
「原子力推進はエネルギー政策の中核だっただけに、変更は正直、難しい」


原発事故で暴かれた負の構図

国民を欺いた「洗脳役」の天下りシンクタンクとは、どんな実態か―。国の洗脳工作、つまり「だましのテクニック」は、戦時の大本営発表とは様変わりの進化を遂げ、いまや“洗練された仕方”に変わった。 メディアを通じた公式発表、情報提供とは別に、対民間工作の先導役を政府系シンクタンクが担う。そして、そのすべてに幹部官僚OBが張り付く。
典型例が、「原発コストは安い」説を振りまいてきた経済産業省所管の財団法人「日本エネルギー経済研究所」。同研究所は原発事故を受け、年間予算1億円超を手に活発に動き出した。 今年6月、真夏の停電の不安を前に、「定期検査に入った全国の原発が再稼働しない場合、その分を火力発電で補うとしたら、12年度の電気料金は標準家庭で1カ月当たり18%、1000円程度上がる」という試算をまとめた。 本当にそうなのか。「原発のコストは安い」という前提に立っているが、その前提はすでに崩れた。「原発を止めたら電気代が増えますゾ」とやんわり脅したのだ。
同研究所は20人の理事のうち、理事長に豊田正和・元経産省審議官。今年6月の人事まで、常務理事3人を経産省出身、非常勤理事5人中3人を経産、2人を外務、内閣官房からの天下り組が占めた。

「洗脳工作」は民間系シンクタンクも関わる。今年4月、「みずほ総合研究所」の理事長に、杉本和行元財務事務次官が就任した。 08年7月の大和総研理事長への武藤敏郎元財務事務次官の就任に続くものだ。財務省の勢いを象徴する。
天下り先の民間シンクタンクにも、国の研究委託費が供給される。こうしたシンクタンクののレポートや提言が、財務省の増税路線に足並みを揃えてくるのも、時間の問題だろう。
巧妙な政府系「洗脳工作」を念頭に、国民は状況を考える必要がある。