■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
<番外篇>無資格検査事件/制度に問題も
(2017年11月20日) (山形新聞『思考の現場から』11月17日付)
大企業の不祥事が止まらない。10月以降、日産自動車の無資格検査、神戸製鋼所の検査データ改ざん、商工中金の融資不正、SUBARU(スバル)の無資格検査と相次いだ。
このうち日産とスバル、商工中金の不正の背景には、制度上の問題が浮かび上がる。違法行為ではあるが、企業の過失責任で済ませては、本質を見失う恐れがある。一方、神戸製鋼所の品質偽装と隠ぺい工作は、これら3件とは別格の不正事件で、「メイド・イン・ジャパン」ブランドを大きく傷つけた。
まず日産とスバルの完成検査を無資格の従業員にさせた問題。完成検査とは、完成車の出荷前に計測機器を使ってブレーキ性能やライトの明るさ、排ガス濃度などを調べ、国の「保安基準」に適合しているかどうか安全性を点検する最終工程を指す。 完成検査は自動車の「型式指定」を申請するメーカーに対し国土交通省が法令で義務付け、国内向けの車すべてに適用される一方、輸出車は適用外で検査対象から外される。
日産とスバルは、内規に反し完成検査要員として会社に任命されていない「無資格者」が検査していたことを認め、大規模リコール(無料の回収・修理)に踏み切った。法令違反は間違いないが、現場で一定の技能や知識を習得した者が検査していた、として、両社は「安全性は確保されている」と主張する。両社とも現時点で、不正検査絡みのクレームは発生していない。
スバルの場合、従業員のうち実務訓練後、筆記試験の合格を経て完成検査員の資格を与える仕組みだが、筆記試験を受けずに検査を任され、有資格者のはんこを押していた。
ここからあぶり出されてきたのは、完成検査の実施要領や検査用機械器具の管理要領の提出まで国が型式指定申請者に義務付けた「自動車型式指定規則」の過剰規制である。同規則では「検査主任技術者の氏名及び経歴」の提出まで求めている。
いまでは現場はIT化された検査機器で機械的に完成検査している。同規制が制定された昭和26年当時とは、時代状況はまるで異なる。自由化が進んでいる米国では、メーカーの「自己認証」で新車の安全性を確認し、排ガスの検査のみ米環境保護庁(EPA)が独自に抜き取りで行う。 輸出車が完成検査の対象外なのは、「輸出先の国の法令が適用されるため」(国交省)だが、米欧など海外では有資格者による完成検査を必要としていない。この際、時代遅れの日本固有の規制を見直すよい機会ではないか。
商工中金の融資不正にも、制度上の問題が浮上する。自主調査の結果、全100店中97店で融資額計2646億円に上る不正があったとするが、書類改ざんなどを行って中小企業に融資した名目は「危機対応融資」だ。 2008年のリーマン・ショックを期に創設された同融資で「円高」「原材料高」「デフレ」などで苦境に立つ中小企業を救済する目的だったが、金融危機が去った後も融資先の業績を悪く見せかけ、融資を継続したとされる。経済産業相は「解体的出直しが必要だ」と厳しく批判した。
だが、不正融資の根拠となった政府の「危機対応融資」政策にそもそも重大な欠点がある。「危機対応」の名目では、具体性に欠け、融資機関が「危機」を広く解釈する余地が生まれるからだ。 このような緊急融資の場合、あくまで「例外的で一時的な措置」として、具体的な融資条件を示すとか、明確な時限を設ける手立てが必要だったのだ。
神戸製鋼所となると、話は別だ。検査データ改ざん問題では、ついに一部製品が日本工業規格(JIS)の認証を取り消された。元社員からの聞き取り調査では、データ改ざんは40年ほども前から行われていたという。 一連の流れは、同社のコンプライアンス(法令順守)とガバナンス(企業統治)の欠如をさらけ出した。
国際的な影響は計り知れない。主力の鉄をはじめアルミ・銅製品の品質偽装が明るみに出たことで、自動車、航空機、高速鉄道車両など、人命に関わる製品に同社の部材が使われていることが判明。安全性に影響することが確認されれば、リコール措置を余儀なくされるばかりか納入先からの補償費請求や損害賠償訴訟も起こされる可能性が出てきた。 米司法省が神鋼に報告書提出を求め、調査を開始した。 同社は、18年3月期決算について「未定」にすると公表した。事件前は3年ぶりの黒字転換を計画していたが、一連の不正で先行きが読めなくなってきたためだ。いまや、企業の存続が危ぶまれる事態になってきた。