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第176章 原発政策は破綻している/重み増す司法の判断
(2018年1月17日) (山形新聞『思考の現場から』1月16日付)
福島第一原発事故がなかったかのように、安倍政権は衆院選圧勝を背に原発の再稼働に力を注ぐ。トラブル続きから高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まったにもかかわらず、核燃料の再処理・再利用を目指す核燃料サイクル政策も、中核のもんじゅ抜きで続行する構えだ。 こうした中、原発再稼働を止める裁判所の抑止力に注目が集まる。
ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)を燃料に、発電しながら消費した以上のプルトニウムを生み出すとされるもんじゅ。「夢の原子炉」とされ、核燃料サイクル計画の中心的な役割を担うはずだった。 しかし94年の運転開始以降、事故が相次ぎ、運転できたのは22年間にわずか250日。建設・運営にこれまで国費1兆円超が投じられた。
政府はついに16年12月、廃炉を決定する。しかし核燃料サイクル政策は内容を変えて継続するとした。核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)からMOX燃料をつくり、これを普通の原子炉で燃やすプルサーマルを推進する、というのだ。
ところが、もんじゅ以外のサイクル計画も行き詰まっている。日本原燃が青森県六ケ所村で1993年から建設を続ける再処理工場。97年に完成の予定だったが、事故続きで完成のメドがいまなお立たない。 17年12月、18年上半期の完成予定をさらに3年延期すると発表。これで23回目の延期となった。難航を極める核燃料サイクル事業に要する巨額の費用は、もんじゅの廃炉費用を含め国民の税金と電気代から賄われる。
他方、政府は原発を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置付け、再稼働を推し進める。福井県の西川一誠知事は、17年11月、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働に同意した。 福井地裁が14年5月にリスクの大きさから運転を差し止めて以降、運転停止が続いていたが、原子力規制委員会が17年5月、原発事故後の新規制基準に「適合」と判断したのを受けた再稼働だ。
福井県には廃炉中を含め15基もの原発が集中する。国として再稼働した原発の安全を保障できるのか。おおい町の隣の高浜町にある関西電力高浜原発3、4号機は既に再稼働している。 大飯の2基が再稼働に加わると、重大な原発リスクをもたらす。大飯と高浜両原発は13キロほどしか離れていない。
仮に2原発が同時に事故を起こした場合、住民は避難もままならないだろう。内閣府などが大飯原発の事故に備えて策定した広域避難計画は、事故の同時発生を想定していない。 共同通信による大飯、高浜周辺市町村のアンケートで、対象市町の6割超が「同時事故を想定するべき」と答え、再稼働を巡る懸念については「事故時の住民避難計画」が最多となった。
県内15基の原発が、連鎖的に事故を起こす可能性は否定できない。原因は地震・津波ばかりでない。テロの可能性もある。もんじゅの約1万点に上る機器の点検漏れにみられるように、人為的ミスもありうる。
しかも再稼働を進めた場合、原発で燃やし終わった使用済み核燃料の処理問題をどう解決するのか。最終処分が可能になるまでこれを中間貯蔵施設に保管する仕組みだが、肝心の最終処分場が決まっていない。 国は最終処分場を受け入れてくれる自治体の公募を続けているが、いまもって現れてこない。
原発事故の後処理も、見通せない。汚染水処理で建屋周辺の土を凍らせて地下水流入を防ぐ「凍土壁」をつくったものの、顕著な効果は挙がっていない。しかも廃炉作業に入ろうにも、原子炉の内部状況さえ依然つかめていない。 この先、廃炉を終えるまでに8兆円もの費用と30年以上の歳月がかかるという。
政府の原発政策は事実上、破綻している状態なのだ。こうした中、政権の原発再稼働を差し止める裁判所の決定が際立つ。広島高裁は17年12月、四国電力伊方原発3号機の再稼働を巡る裁判で、住民の訴えを認め、運転を禁じる決定をした。 阿蘇山が過去最大規模の噴火をした場合、火砕流が到達する可能性はありうると判断したのだ。過去最大規模の火砕流の到達例とは、約9万年前を指す。阿蘇は当時の巨大噴火で世界最大級のカルデラができた。
保守的な判事の多い高裁段階での初の運転禁止は、原発の安全性の疑念が司法界に広がっている表れだ。政治権力からの独立性を比較的保つ司法の判断は重みを増す。司法の壁が、原発推進に前のめりな政権の前に立ち塞がってきた。