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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇>温暖化で台風が発生/南極のCO2濃度“危険水域”に

(2016年9月20日) (山形新聞「思考の現場から」9月17日付掲載)

地球温暖化が、8月に相次いだ台風の発生具合に色濃く影響している。とりわけ迷走して東北に初上陸し大被害をもたらした台風10号は、地球温暖化の爪痕をくっきり残した。
気象庁によると、東京・八丈島近くで発生し、いったん南西に逆行してから北東に向きを変えた台風10号は「普通はあり得ない」。
台風の発生は、通常は赤道近く北緯10度から15度付近の熱帯の北西太平洋上で発生する。ところが8月から日本を襲来した台風は9月の台風13号を含め、いずれもそれよりずっと北方の日本列島に近い海域で発生した。 気象庁が「異常気象」と位置付ける台風の異変は、なぜ起こったのか。

まず、目を引くのが日本近海の海面水温の異常な上昇だ。台風10号の場合、発生前に紀伊半島沖の海面水温は実に30度にも上った。平年なら8月下旬の同海域の平均海面水温は27〜28度。この平年値より2〜3度程度高いわけだ。
気象庁によれば、台風は海面水温が28度以上になると発生する。海上から水蒸気が盛んに蒸発して上空に積乱雲をつくり、熱い上昇気流が働いて渦巻く台風を生み出すことになる。
この海面水温のただならぬ上昇が、日本列島のすぐ近くで台風10号を発生させる要因となった。地球温暖化の明らかな兆候が、海洋にはっきり表れた、といえる。そういえば、この夏は普通でない暑さ、局地的な短時間ゲリラ豪雨、洪水の多発と、地球温暖化がもたらす異常現象に次々に見舞われた。
台風を引き起こした地球温暖化の影響は世界規模だから、これを機に温暖化対策の緊急性と重要性を悟る必要がある。

米中両政府は9月3日、国際社会が昨年末に合意した2020年以降の地球温暖化対策「パリ協定」の批准を発表した。世界の温暖化ガスの約4割を米中両国で排出しており、両政府の批准で改善に向けようやく前進した形だ。
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2013年に公表した第5次評価報告書を読むと、地球温暖化の見通しは深刻だ。 仮に最悪のシナリオ通りになった場合、1980年〜1999年に対する世界の年平均気温の上昇が3度を超えると地球の生態系がかき乱され、種の4割以上が絶滅する危機となる。 そこでIPCCは産業革命以前の世界の平均気温に比べた上昇率を「2度より十分低く保つ水準」に抑える努力を各国に求めた。

報告書は「地球の北半球では1983年〜2012年は、過去1400年において最も高温な30年間だった可能性が高い」と指摘。 さらに気象変化が極端になり、世界規模で寒い日が減って暑い日が増え、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアの大部分で熱波の頻度が増す一方、強い降水の頻度や強度が増している実態に言及した。
世界の平均気温は、1891年以降、100年当たり0.68度の割合で上昇。日本の平均気温は1898年以降100年当たり1.15度の割合で上昇した。
地上気温の上昇は、海水の温暖化につながる。報告書によると、海面水温は1971年〜2011年の間、10年あたり平均して0.11度上昇した。 氷床や氷河の融解、海洋の熱膨張で、海面水位の上昇も引き起こされる。グリーンランドと南極の氷床の質量の減少、北極海の海氷面積の縮小が重なった。
世界の平均海面水位は、1901年〜2010年までの1世紀余に0.19メートル上昇した、とし、「過去2千年にわたる比較的小さな平均上昇率から、より高い上昇率に移行した」と報告書は警告した。

他方、米カリフォルニア大学サンディエゴ校チームの調査によると、日本を含む東アジアに上陸する台風は海面水温の上昇から発達しやすくなり、2013年までの過去37年間で風速がピーク時に15%増したことが分かった。
地球温暖化の元凶は、温室効果ガスとされる二酸化炭素(CO2)をはじめメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)など。報告書は、これらの温室効果ガスのすべてが「過去80万年間で人間活動により前例のない水準にまで増加している」と指摘した。
しかし温暖化の脅威が増したにもかかわらず、進行は止まらない。米海洋大気局(NOAA)は今年6月、南極で測定した大気中のCO2濃度が、史上初めて400ppmを超えたと発表。 聖域だった南極までがついに“危険水域”に入ったことが判明した。
ここで不吉な歯車を逆回転させなければならない。