■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
<番外篇> 在米邦人が国連で“和解”訴え/慰安婦問題で日韓解決受け
(2016年4月25日)
国連のCSW(女性地位向上委員会)が米ニューヨークで開催した「紛争時の女性の人権」イベントで、慰安婦問題を巡り在米邦人が“和解”を訴え、大きな反響を呼んだ。昨年末の日韓両政府による解決合意をよそに、全米50州のすべてに慰安婦像建立の目標を掲げ、運動を進める在米韓国系団体に建立の中止を促した。
CSWは、今年で60回目となる同時並行式パラレル・イベントを3月14〜24日の間開催し、世界中からNGO(非政府組織)約450団体が参加した。
日本からNGO「なでしこアクション」(代表・山本優美子氏)が「女性尊厳への日本のアプローチ」と題して初参加。慰安婦問題を巡り在米日本人女性ら5人が国連職員ら約70人の出席者を前に3月24日、意見表明を行った。韓国側の盛んなロビー活動から“韓国シンパ”が多いとされる国連での反応が注目された。
出席者によると、とりわけ耳目を集めたのが、ニューヨーク在住のミエコ・グリーン氏が「いまや前(和解)へ進むべき時(Time to move on)」と呼びかけたスピーチだ。グリーン氏はまず、昨年12月末に日韓両政府が慰安婦問題で「最終的かつ不可逆的に解決合意」した歴史的意義を強調。次いで慰安婦問題のこじれた経緯と日本側の対応を説明した。
その上で、政府間でようやく解決合意をみたにもかかわらず、慰安婦像を米国に建立する運動を続ける意味はあるのか、と韓国系団体に問いかけた。「米国の歴史と文化に何の関係もない所業だ」と。それは平和主義と民主主義に立つ戦後日本の名誉を傷つけるばかりか、慰安婦問題と無関係の日系米国人とその子らの安全を脅かし、続行されれば韓国系と日系人との間に一層の争いの種をまく―と警告した。
現在、韓国系団体が建立した慰安婦像・碑はニュージャージーの3基をはじめニューヨーク、カリフォルニア各2基など5州で計9基に上り、ニュージャージー州フォートリーで目下、計画が進行中だ。
日本人いじめが多発
グリーン氏によると、今回のスピーチを引き受けたきっかけは、慰安婦問題が在米邦人の生活を脅かしていると痛感したためだ。彼女はニュージャージー州に住む日本人児童が慰安婦問題で韓国系グループから頻繁にいじめにあっている話を聞き、もっと詳しい事情を知ろうと思った。ところが当の児童の父母は脅迫を恐れて口を閉ざしてしまい、結局スピーチで取り上げることを断念したという。
筆者は4月にニュージャージー州在住の日本人から匿名のメールを入手した。それによれば、同州がいま、慰安婦問題の米国での“主戦場”と化している。住民の6割近くが韓国系で占められている町もあり、日本人の多くは韓国系住民と隣り合わせで生活している。学校の先生が韓国系、警察官、ホームドクター、会社の上司、部下、顧客にも韓国系が多いため、「そういう中で生活している私たちにとって慰安婦問題は切実な問題であり続けています」と訴える。
いじめの具体的な例も挙げる。「何かあるごとにこの町(クリフサイドパーク)の象徴となっている慰安婦の碑の前で、デモや集会が行われます。世界中で韓国の水曜デモに合わせて一斉に行われたデモでは、多くのアメリカ人が見守る中、英語で幼い少女が日本兵に銃を突き付けられ、強制連行されたとジェスチャー付きで訴えている韓国人を見て、私たち住民は酷いショックを受けました」
「反対運動をしていた(日本人の)方たちが、動物の死骸を玄関に置かれたり、鳥の死骸を車に置かれたり、脅迫メールが送られたり、家の前で監視されるなどの嫌がらせをされ、活動を止めざるをえなくなった方がいます」
しかし、日本領事館は相談に行っても動こうとしない。
「慰安婦の碑の設置反対運動をされている方に、脅迫メールが何通か届き、恐怖を感じる内容だったので日本領事館に相談に行った時も、警察に相談するようにと言われただけでした」
在米邦人や日系家族らの不安は深い。
誤報が韓国世論を刺激
それにしても、韓国側の慰安婦像建立への飽くなき執念はどこから生まれるのか、という疑問が残る。筆者はその答えをニューヨーク市郊外のアイゼンハワー公園に2012年10月に造られた慰安婦モニュメントを訪れた時に見出した思いがした。
碑には、次のキーワードが記されてあった。「(慰安婦)20万人以上」、「強制連行」、「性奴隷」の3つだ。
慰安婦「20万人」は、あり得ない数字だ。これは90年代初めの時点で表れた強制連行の最大推定数だが、当時は「女子挺身隊」の名で工場労働などに動員された数と混同されていた。少女を含む挺身隊は慰安婦とは別だ。報道をリードしてきた朝日新聞は1992年1月11日朝刊に誤ってこう書いている。「太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その人数は8万とも20万人ともいわれる」
当時、読売、毎日など他紙も挺身隊と混同し、従軍慰安婦の数は「20万人ともいわれる」と報じた。この数字が独り歩きしたのだ。
最悪のイメージが浸透
日本政府が否定する「強制連行」は、戦時中に朝鮮・済州島で「200人の若い朝鮮人女性を強制連行した」と著書で証言した吉田清治(故人)の影響が大きい。朝日新聞は他紙に先立ち82年9月に、初めて吉田証言を取り上げた。しかし、証言は後年に作り話だったことが判明する。朝日が吉田証言を虚偽だと判断し、記事を取り消したのは、ようやく2014年8月5日朝刊においてであった。しかしこの間、「少女を強制連行」のイメージが韓国世論に根を広げる。
「性奴隷」はいまや欧米でも慰安婦の代名詞として使われる。彼女らが強制的な環境下で将兵の性の相手をさせられた事実は否定できない。女性を集めた手口は、軍に協力する民間業者がだましたり、甘い言葉で誘って連れて行ったケースが数多い。他方、日韓の民間業者が広告を出し、公募して集めたケースも確認されている。
慰安婦問題が浮上してから約30年―。この間、戦時性暴力の国際的なネガティブ・キャンペーンを背景に、最悪のイメージを韓国社会に、さらに国際社会に浸透させてしまったのではないか。「和解」に向けた新たな努力が、日韓の政治、行政、報道、市民活動に求められる。