■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
<番外篇> 中小企業、円安で苦難/大手取引先が買いたたき圧力
(2014年12月22日)
円安の加速化を背景に業種間、企業間の業績格差が拡大する傾向が鮮明になっている。大企業の業績が二極化していることでその下請けとなっている中小企業でも、取引先のコストダウン要求が強まって苦境に陥る状況が目を引く。
大企業の一部に利益集中
大企業の中でも円安の追い風を受ける業種などに利益が集中し、業績格差が広がっている。
SMBC日興証券が集計した東証一部上場企業の9月中間決算によると、上場企業1381社の純利益は計14兆3070億円と過去最高に達した。そのわずか約2%の上位30社で、全体の利益の半分(7.2兆円超)を占めた。予想していた以上の“利益寡占状態”が出現していたのだ。
上位30社の内訳を見ると、2つの大きな特色が浮かび上がる。いずれも円安絡みだ。
一つは、海外事業の展開で稼ぐ力を増した企業だ。トップのトヨタ自動車、2位の三菱UFJフィナンシャルグループ、3位のソフトバンクがその典型だ。もう一つは、円安の恩恵を受けた自動車、電機などの輸出製造業。唯一、異色なのは7位の東京電力で、主に公的資金の投入と電気料金の値上げという消費者と国民負担の双方で、2901億円もの純利益を上げた。
こうした一部大企業の好調に対し、中小企業は総じて景況回復から置き去りにされている。その上、中小企業の経営は、円安に伴って一段と悪化する傾向にある。 アベノミクスによる円安のダメージを受けている筆頭は、原材料を輸入に頼る業者だ。自給率4割程度と海外からの輸入に大きく依存する食品業界では、中小企業の多くは輸入の原材料高を販売価格に転嫁できず、赤字に転落している。
帝国データバンクによると、円安を主な理由とする倒産は、11月に42件あった。これは第2次安倍政権下では月間最多となり、前年同月の2.7倍に上った。今年1〜11月までの累計では301件に達し、年明け以降、追加金融緩和による急速な円安の影響で急増すると見られている。
中小企業の経営は、円安に伴って一段と悪化傾向にある。
全国の中では比較的業績が良い首都圏の中小企業でも、景況感は悪化している。東京都民銀行の調査によると、10月の景況感は製造業、非製造業ともに前回調査の6月時点より悪化した。消費増税の影響が長引き、景気回復を予想している企業は少ない。
税務当局によると、現在、全企業の99%を占める中小企業の実に7割強が赤字経営に陥っているという。
アベノミクスの2年間で、企業業績の二極化はますます進み、格差はむしろ広がってきた。政府がもくろんだ、上層の豊かさが全体に広がっていく「トリクルダウン」とは裏腹の姿となっている。
中小企業の受難
経営絶好調のトヨタ自動車は、毎年2回行う取引企業向け価格交渉で、2014年度下半期は部品メーカーに値下げを求めない異例の方針を決めた。
その結果、約4万社に及ぶ下請け、孫請けの部品メーカーはそろって“恩恵”を受け、賃金引き上げの資金的余裕も生まれた。仕入先部品メーカーのほとんどは中小企業で国内事業が中心なため、円安は燃料、電気代、材料、運送費の高騰をもたらして利益が圧迫されている。
しかし、こうした下請け企業への配慮は例外中の例外だ。
円安で原材料高が進み、大手メーカーや流通業者は仕入れコストを少しでも減らそうと躍起になっている。下請けの中小企業に仕入れ品のコストダウンを事実上、強要している。
帝国データバンクによると、負債43億円を抱え11月20日に民事再生法の適用を申請した「五鈴精工硝子」(大阪市)は、プロジェクター用の高精度レンズアレイで世界シェア70%を誇り、06年に経済産業省の「元気なモノづくり中小企業300社」の一つに選ばれた実績がある。 だが、設備投資で膨らんだ借入金の負担と材料費アップに加え、一段と厳しさを増した大手納入先からのコストダウン要求に耐えられず、経営破綻に追い込まれた。
下請けたたきが横行
下請け企業への買いたたきや下請け代金の支払い遅延の頻発を受け、経産相と公正取引委員会委員長は10月末、全国の親事業者代表者に対し「下請け取引の適正化について」と題する文書を送り、取引の適正化を呼び掛けた。
この中で、円安の進行によって中小企業・小規模事業者の収益が強く圧迫されている、と指摘。下請け事業者への不当なしわ寄せが生ずることのないよう、社を挙げて取り組むことを要請している。 その上で「下請け代金支払い遅延等防止法(いわゆる下請け法)」に基づき、「親事業者の遵守すべき事項」を列挙した。
まず、親企業の義務として下請け業者に物品・サービスを委託する場合、直ちに注文の内容、下請け代金の額、支払い期日などを明記した書面(注文書)を下請け業者に交付すること、と注意を促した。 現実は下請けに対し、口頭でしか発注内容を伝えないケースが多いためだ。
大手企業は、発注数量などを書面で契約すれば、売れ残った場合に買い取り義務が生じる。これを避けるため口頭で要望して、下請け業者に売れ残りリスクを押しつけている。 下請け業者は止むを得ず海外などに見込んだ数量で委託生産させ買い取る結果、売れ残った場合は大きな損失を出す恐れがある。
文書は、こういう親会社の不公正取引に改めてノーを突きつけた。
さらに文書は親会社の禁止行為として11項目にわたって踏み込んでいる。注文した物品の受領を拒むことや代金の支払い遅延、減額の禁止などと並んで、「著しく低い下請け代金の額を不当に定める」ことを挙げた。
その例として 1. 親会社の予算単価のみを基準として、一方的に通常単価より低い単価で下請け代金の額を定める 2. 多量の発注を前提として下請け業者に見積もりさせ、その価格を少量発注に適用する―などを示した。
中小企業の資金需要が高まる年末を前に、政府が指導に乗り出さざるを得なくなった背景に、こういう事例が相次いでいる実態がある。