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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇> 「脱原発」が争点に浮上/都知事選、エネ政策を左右

(2014年1月20日) (山形新聞「思考の現場から」1月17日付掲載)

元首相の細川護煕氏が東京都知事選に「脱原発」を掲げて立候補を決めたことで、日本のエネルギー政策が脱原発に向け大きく舵を切る可能性が出てきた。 細川氏は「都知事選には日本の命運がかかっている」との認識を示しており、都知事となれば小泉純一郎元首相と連携して脱原発を強力に押し進める見通しだ。
細川氏の出馬は、国のエネルギー政策の針路を正面から問う点で影響が大きい。しかも安倍首相が師と仰ぐ小泉元首相が加勢する「細川・小泉連合」とあって、安倍政権の「原発堅持路線」への破壊力は計り知れない。

細川氏の出馬の動機が、原発に対する危機感にあったことは妻の佳代子氏の話からも明らかだ。 細川氏はこれまで「核のゴミの捨て場がないのに再稼働しようとするのは犯罪的行為」などと発言、同様に主張して安倍首相に「原発ゼロ」への方向転換を促した小泉氏に賛同していた。 「落選してもいい」と話していることから、まずは都知事選に出馬して「原発ゼロ」を政党レベルから一気に国民運動に盛り上げる狙いと見られる。
この結果、全人口の10分の1を占め、電力の最大消費都市でもある首都の知事選は、「脱原発」が最大の争点に浮上する見通しだ。2020年開催の東京五輪のあり方とも絡み、国際的な注目度も跳ね上がる。

2011年3月の福島第一原発事故の後、政府の原発・エネルギー政策は二転三転した。
民主党政権は事故前の10年6月に地球温暖化対応をにらみ、「原発を14基以上新増設し、2030年までに原発比率を約5割に引き上げる」(エネルギー基本計画)と原発推進を謳っていた。 しかし事故後の12年9月、世論の原発不安を受けて「2030年代に原発稼働ゼロ、新増設を認めず稼働40年で停止」(革新的エネルギー・環境戦略)に改め、将来の「原発ゼロ」を打ち出した。
これに対し最大野党だった自民党は政権交代を果たした12年12月の衆院選の公約では、「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立を目指す」としながらも、原発の具体的政策に関しては明言しなかった。 原発の再稼働の可否は安全性を審査する原子力規制委員会の判断に委ねる、と言うのみだった。 ところが、安倍政権は原発堅持・東電支援強化に向けて動き出し、昨年12月には経済産業省が「原発堅持」を明示する「エネルギー基本計画」案をまとめた。
それによると、原発を「重要なベース電源」と位置付け、安全性が確認された原発は再稼働を進める、とした。 さらに使用済み核燃料から出る放射性廃棄物の最終処分地については国が科学的に選定する方針を示したほか、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」の続行も明記した。
政府は当初、この計画案を1月中に閣議決定する予定だったが、細川氏の出馬報道を受け、急ぎ2月8日の都知事選挙後に決定を先送りした。ここにも政権への衝撃の大きさが伺われる。

「脱原発」論議の中で、「細川・小泉連合」が前面に押し出すのが、使用済み核燃料や、核燃料を再処理した後に残る高レベル放射性廃棄物の処分問題だ。 専門家の間では、最終的には世界各国が目指す「地層処分」という地下埋没式が有力視されている。 核のゴミをガラス固化体にして頑丈な金属容器に入れ、周囲を粘土などの人口のバリアーで固めて保管に適切な地層の地下に埋める、などの方法である。
これに対し、プルトニウムが半減するまで2万年以上もかかるため、無害になるまでには10万年もの間、地下深く封じ込めなければならない。 現在の科学技術では、この超長期にわたる安定な地層を特定できず、安全管理能力も保てない、との反論がある。 さらに、最終処理法にメドがつくまで100年程度、地上か地下に「暫定保管」もすべき、という提案も日本学術会議などから出され、方向性さえ定まっていない。原発が「トイレのないマンション」(小泉元首相)と揶揄される理由だ。

都知事は原発・エネルギーに関し大きな権限を持つ。関連の補助金や許認可権を握っている。 東京都は原発事故後、東電支援のため政府出資で株式を引き受けた原子力損害賠償支援機構の持株比率(49.8%)を除けば、東電株の1.3%を持つ3番目の大株主でもある。
加えて、条例を制定できる知事権限もある。都知事の権限を用いた脱原発・再生可能エネルギー開発・利用への新政策の選択肢は幅広い。国政のエネルギー政策の方向を左右する異例の都知事選となってきた。