■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
<番外篇> 古い自民党体質に“先祖返り”/足りない国民目線
(2013年9月18日) (山形新聞「思考の現場から」9月18日付け掲載)
2020年夏季五輪の東京招致成功に沸く安倍晋三政権だが、古い自民党体質への“先祖返り”から目が離せない。それは何よりも原発の事故対応に、端的に表れた。
未曽有の災厄となった福島第一原発事故。政権掌握後、安倍政権は国民の大半が原発稼働に不安を抱く中、原発稼働・推進に舵を切った。「第3の矢」とされる成長戦略では「経済成長に原発が欠かせない」との考えから、「原子力発電の活用」が盛り込まれた。海外に対してもベトナム、トルコなど新興国への原発輸出政策を鮮明にし、首脳外交も展開した。
同時に、原発事故への反省はおろそかとなり、事故対応はずさんとなった。東日本大震災の被災地の復興に充てるはずの国民の税で賄われた震災復興予算を、各省庁が勝手に流用していた実態が発覚した。
安倍政権の「5年間で25兆円」を投入する復興予算のうち、10.5兆円を復興増税で賄う。これが被災地復興に関係ない道路整備に使われたり、政府系公益法人や自治体の「基金」に入れられたのち流用されたのである。
続いて8月には福島第一原発の原子炉を冷却後に処理水をためたタンクや配管からの汚染水漏れが次々に見つかった。東京電力が収拾できない中、政府が汚染水対策で470億円の国費を投入し、問題解決の前面に出ることを決めたのは9月3日のこと。東電が港湾内への汚染水流出を公表したのが7月22日。実に1ヵ月以上も経ってからだ。
原発事故への対応の鈍さと並ぶ、政権のもう1つの特性は、官僚に目線を置いた「政官一体」の政策決定だ。これは財政の立て直し策に表れる。
各省庁は8月末、財務省に来年度予算の概算要求を出した。一般会計の総額は99兆円超で今年度予算を7兆円近く上回った。財政再建のことなど念頭にない超過剰の要求である。
来年4月の消費増税を想定し、現政権のバラまき体質を見越したものだ。政権は既に放った成長戦略の「第2の矢」で、公共事業費を大幅に増やしている(13兆円規模の12年度補正予算)。官僚は自民党政権に対し「思い通り大盤振る舞いに動く」とでも思っているかのようだ。
財政の立て直し策は本来、経済成長による税収増と並んで歳出カットが柱となる。企業にたとえれば、収入増と経費減である。
ところが、「国の借金」がいまや1000兆円に上る財政危機にある、と政府は喧伝しながら、世界でも最大級の「国の資産」については口を閉ざし、これを売却しようとはしない。民間企業なら累積赤字を減らすコスト削減の合理化努力を行い、土地など自己の資産を売り払って最終の帳尻を改善するが、政府が資産整理に動く気配は一向にない。政府の関心は専ら景気を冷やす消費税引き上げの方法にあるようだ。
財務省発表の「国の財務書類」によれば、国のバランスシートは12年3月末時点で負債総額が1088.2兆円、資産総額が628.9兆円となっている。「純債務」で見ると、国の負債は459.3兆円に縮小する。国の借金は、国際的な基準では「ネット債務」で示されるのが普通だから、こちらが日本の国の本当の借金となる。
しかも金融資産の中身を見ると、貸出金が142.9兆円、出資金が59.3兆円、併せて202.2兆円に上る。この貸出金・出資金は独立行政法人(独法)や特殊法人、特殊会社など国のいわば“子会社”向けだ。貸出先や出資先の政府系法人の中には、日本郵政株式会社や日本政策投資銀行、高速道路各社、雇用・能力開発機構、日本原子力研究開発機構、都市再生機構などが名を連ねる。
これらの独法などは全て官僚の天下り先であり、各省庁はここにメスが入れられるのを嫌う。
安倍政権が国民目線で政治を考えるなら、こうした国の機関向けの貸出金、出資金をまず見直してはどうか。原発事故の反省に立ち、脱原発に向け原子力関係の法人、団体の売却による収入や民営化による税収増などの財政改善策を考えるべきではないか。
金融資産のうち現預金が17.7兆円、円売り・ドル買いで購入した米国債券などの有価証券が97.6兆円―この巨額資産を年間100兆円を超えて急増する社会保障給付費に活用する策も、検討に値する。安倍政権には消費増税に直行する前に、なすべき多くの課題がある。