■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇> 菅政権の行方に光は見えるか

(2010年9月21日)

民主党代表選で、菅直人首相が小沢一郎前幹事長を予想外の大差で破り、首相続投が決まった。この選挙戦は一面では「民主党分裂」を浮き彫りにしたが、半面で民意を映すポジティブな側面を照らし出したといえる。
それは、政権が金権絡みの体質になることにノーを突きつけたばかりでない。実行力に疑問符が付くとはいえ、わずか3カ月で首相を代えるべきではない、という判断が示されたからだ。世間の常識が、色濃く反映されたのである。
このことは、首相の勝利を決定付けたのが「党員・サポーター」の圧倒的支持であったことから読み取れる。党員とサポーターはその多くが一般人のため、国民の意識を代弁したり、その意識の流れに敏感に反応しやすいのだ。
いわば「民意」が、菅首相の続投を決定的にしたのである。

しかし、菅首相にとって政治の“本番”は、いよいよこれから始まる。主に二つのファクターを重視して掛かるべきだと、筆者はみる。
一つは、選挙戦で小沢氏が批判した「官僚主導政治」である。菅首相は新任早々、民主党マニフェスト(政権公約)中の大看板「脱官僚」を実現するための支柱だった国家戦略局をろくに説明せずに国家戦略室に格下げした。国の予算編成権を財務省の手に戻し、国家戦略局の機能を首相の“知恵袋”に縮小しようと考えたのである。
さらに、参院選直前の唐突な「消費税10%」発言も、多くの国民に「国民生活が第一」とした公約への裏切り・財務省の言いなり、と映った。少なくとも、税源確保の必要性と手順についての考え方から入らなければ、デフレ不況と所得減に悩む国民を納得させることはできない。
事実上の“新首相”となった菅氏が「国民の生活が第一」の民主党の原点に戻るためには、党内の力の結集が不可欠なばかりでない。自らの政策立案と実行の能力を一段と増強しなければならない。だが、それは急にはできないムリな話で、ねじれ国会の下、菅政権は深刻な不安を抱え続けることになろう。
道のりは、暗夜を旅するようにすこぶる険しい。だが「勝算ゼロ」では決してない。
突破口として、10月下旬に行われる特別会計を対象にした事業仕分け(第3弾)がある。ここに照準を定め、特別会計に潜む巨額の「積立金」、「剰余金」から「埋蔵金」を大規模に掘り起こせるかどうか。財源捻出に成功すれば、財源不足から立ち往生している経済・雇用や教育、子育て、介護、年金などの政策に活用できるようになろう。

二つめの注意ファクターは、消費税の増税だ。最近の世論調査をみても、国民の過半は消費税を含む税制見直しを「やむなし」と受け止めているようだ。ただし、消費増税の前に、行政のムダの削減のように、「もっとやるべきことがある」と国民の多くは考え、結果、7月の参院選で民主党は大敗を喫したのである。
そうであれば、菅政権の最重要課題の一つは、消費税引き上げ前に行政のムダを洗い出し、コストを大幅に削減することだ。衆、参両院選でマニフェストに謳った「国家公務員の総人件費2割削減」の全体像を早急に国民に示すことである。 この実現に向けた決意表明とシナリオ説明によって、国民の納得度と政権への支持率が一挙に高まるのは確実だ。

とはいえ、前回の本コラムで指摘したように、消費増税は国民の所得が減少を続けるデフレ経済の現状では、行うべきではない。菅首相は「雇用」を最も重視するが、雇用を生む企業の成長戦略がそもそも欠かせない。企業の体力が弱れば、雇用は減る方向だ。少子高齢化が進む中、若年層の所得が増えずに社会の購買力が落ちているという不況の「真因」を、政府はまず解消しなければならない。
景気に対する影響ばかりでない。所得格差が広がる「格差社会」で消費増税を行う場合は、低所得者ほど負担感が増す、いわゆる逆進性の問題への対策も詰めておかなければならない。これは、たとえば日常、スーパーなどで買う食品は増税の対象外としたり、むしろ軽減する措置である。
消費増税の打撃をもろに食らう、中小の下請け業者や自営業者への売上高に対する免税点の引き上げなどの負担軽減措置も重要だ。
菅政権がこうしたきめ細かな国民生活への配慮と、分かりやすい政策説明を行えば、険しい状況の中にも一条の光が見えてくるだろう。