■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
<番外篇>「食の廃棄」をやめるために/「賞味期限」の表示変更を
(2007年7月23日)
消費期限切れ材料の使用で問題化した不二家事件をきっかけに、日本人の「食のあり方」が問われている。「食の安全」にますます敏感になる一方で、「食の浪費」に鈍感となり、大量の食べ物が食べられるのに廃棄されているためだ。
「刺身」に象徴されるように、日本人は「鮮度」にこだわる食文化を持つ。これが食に厳しく安全性を求める傾向ともなるが、国際的にみても、この“安全指向”は度を過ぎていないか。
「食べ残し天国」ともいわれる食べ物廃棄の実態は深刻だ。流通、外食を含む食品産業の食べ物の廃棄量は、年間1136万トン(2005年度、農林水産省調べ)とされる。これに家庭から捨てられる食べ物を加えると、年間ざっと2000万トン以上、金額にして11兆円相当に達する。途上国で、推定8億人が飢えている現実と裏腹な「飽食の国」だ。
この「食の浪費」は、「消費期限」と「賞味期限」の混乱から生じている。「消費期限」(おおむね5日以内)は、弁当、食肉など腐ったり劣化しやすい食品に表示される。これに対し「賞味期限」(6日以上〜年単位)は、日持ちする食品に表示される。
賞味期限は「best before」から来た「最もおいしく味わえる期限」だが、この本来の考えが「消費期限」と混同されているのである。「賞味期限」を文字通り「期限を過ぎたらアウト」と受け取った消費者やスーパー、コンビニ、外食業者などが、まだ食べられるのに早々と廃棄してしまうのだ。
筆者は最近、米国のスーパーで期限表示の実情を調べてみた。乳製品やスナック菓子などに義務付けられている「賞味期限」の表示の仕方は、基本的に「…までが食べ時(best before)」というものだ。
しかもそれが多様に表示されている。例えば有機豆腐では「…までが最良の食べ時(best used by)」、オーガニック・トロピカーナ(オレンジジュース)では「…までに消費すればベスト(best if used by)」。ヌードルスープには「年内を通じお楽しみ下さい」の表示も。
米国では、こうしたマチマチな期限表示を消費者が読み取り、「自分の責任で(at my own risk)」食べるのである。筆者の「食の安全をどのように見分けるか」の問いに、ニューヨークのある主婦は「使わずに古くなった場合、心配なら臭いをかいだり、味見してみておかしいかどうか確かめて使う」と“生活の知恵”を強調した。日本でも、かつては当たり前の“生活の知恵”だった。
ところが現在の日本では、消費者の多くが「賞味期限」を「食べられる期限」と取り違えている。そこで、期限を1日でも超えると惜しげもなく捨ててしまいがちだ。
消費者ばかりでない。食関連の業者の中にも「賞味期限」イコール「食べられる期限」と誤解して、もったいない商行動に出る者が多い。財団法人「食品産業センター」が今年1月に食品メーカーに対し実施したアンケート取引実態調査の中に、「賞味期限の長い商品なのに製造後3カ月以内といった出荷制限を設け、賞味期限がまだ1年以上もあるのに着払いで返品してくるケースがスーパーにみられる」との回答があった。この種のロスが商取引でもまかり通っている。
国際的にはWHO(世界保健機関)とFAO(国際食糧農業機関)の共同作業をきっかけに、4年前に「品質保持期限」を解消して「賞味期限」(best before)に統一された。そこで筆者は、より誤解の生じにくい用語を提案したい。例えば、賞味期限の考えをより反映した「ベストな食べ頃期限」とか「ベストな消費期限」はいかがだろうか。