■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第87章 「官高民低」を生み出す地方公務員給与のカラクリ

(2005年8月1日)

 給与など処遇の官民較差には、二つの隠された問題がある。一つは、40―50代の中高年齢層で公務員の給与が民間水準を一気に上回るようになり、全体の平均給与額でも中小企業を比較対象に含めれば「官高民低」がくっきり現れること。もう一つは、地方公務員の給与は「特殊勤務手当」の支給などから平均して国家公務員よりも高く、地域の民間給与に比べると「一段高」となっていることだ。
 いずれも国と地方の財政を圧迫し、税金を払う側の住民らに負担を強いる。とりわけ、暴露された大阪市職員の異常な厚遇ぶりが示したように、地方公務員の過剰手当問題は深刻だ。

中小企業は比較の対象外

 人事院は昨年8月、給与の官民較差が0.01%と「きわめて小さく、俸給表の改定が困難」として、月給、ボーナスともに6年ぶりに前年水準維持の給与勧告を行った。それまでは官民較差是正のため5年連続で公務員給与を下げていたから、「官民較差は事実上なくなった」と受け取る向きも多かった。
 しかし、人事院が行う比較調査の対象は「企業規模100人以上、事業所(支店など)規模50人以上の民間事業所」だから、それより小規模の広汎な中小企業層は対象外となる。このため、事実上、大企業・中堅企業を対象に比較し、較差をはじいた、といえる。中小企業を含めた官民較差でみれば、公務員は明らかに民間平均より上だ。
 東京都産業労働局の調査によれば、50―99人規模の中小企業の平均賃金は、2003年7月で手当、残業を含め36万7605円(平均39.4歳)。同50―99人規模の中小企業の「一般事務職」の大学卒の所定内賃金をみても、40歳時で36万1267円となっている。中小企業の中核層では、36万円台が事務系の“相場”である。これに対し、国家、地方とも公務員平均月給は40万円超であり、官民の差は歴然だ。

地方公務員の異常な優遇

 だが、それ以上に問題なのは、地方公務員の法外な手当支給だ。
 地方公務員の給与水準は、比較職種などを同じにしたラスパイレス指数でみると、国家公務員の「100」に対し、1974年に110.6のピークに達したのち下降に転じ、昨年4月1日時点で97.9と、国を初めて下回る。「地方高」はようやく終息したかにもみえた。
 しかし、この比較は「基本給」だけで、「手当」は対象外。手当を含む総給与でみれば、地方公務員は依然、国家公務員よりも“優遇”されている。「手当」を使ったお手盛りこそが、地方自治体にほぼ共通する伝統のためだ。
 したがって、手当込みの給与月額でみると、小さな町村の公務員を含む地方公務員の平均で、なお国家公務員を10%超上回る。
 総務省によると、地方公務員の全手当を含む平均給与月額は44万3988円と、国家公務員の同40万402円を4万3000円以上も引き離している(04年4月1日現在)。全企業数の99%を占める中小企業の中核層(50-99人規模)に比べると、なんと約8万円も高い。しかも、退職金、公務員年金で超優遇され、「身分保障」でリストラされることもない。

 その「手当」の中でも、お手盛りに盛んに活用されるのが「特殊勤務手当」。総務省の03年度の実態調査によると、国にない地方独特の特殊勤務手当(公害防止等業務手当、火葬手当、清掃業務手当など)が都道府県で1138もあり、これに248億3700万円もの公金が支出されている。
 さらに他の手当や給料内容と重複する手当(連絡・あっせん業務手当、案内業務手当など都道府県で97手当)、業務に従事した都度に件数や日額で支給されず、月額支給の手当(団体交渉業務手当、放射線取扱手当など)も都道府県で418に上る。手当をやたらと乱造した結果である。
 これらの「特殊勤務手当」を含め、地方の諸手当は全部で約30種に上り、国家公務員の手当数を上回る。

「お手盛り」のDNA

 問題化した大阪市をケーススタディしてみよう。職員厚遇策として、これまでに 1. 職員の確定給付型年金に掛け金の2倍以上を公費負担し、退職後に約400万円受給できるようにしたヤミ年金・退職金、2. イージーオーダーのスーツ、シャツの支給、3. 職員互助4組合や親ぼく団体への補助、4. 「二重取り」の疑いがある特殊勤務手当の支給、5. カラ残業、6. 資格対象外職員にも管理職手当を支給 ― などが次々に判明した。大阪市と市労組、市議会が共ども公金を「自分たち用に」むさぼった形だ。  しかも、ヤミ年金などの不正支出は、予算や決算書で「給与」「調整手当」「期末勤務手当」の3費目で処理されていたという。これでは外部からみて、公金がどう使われたかわからない。

 同市がこのように「お手盛り」を大手を振ってできるのも、それを可能にする法的インフラを整備していたためだ。手当を自己増殖させるためのツール(規程)を早くも1961年に作成している。それによると―
 〈交通局企業職員の給与に関する規程〉第21条 条例第8条に規定する特殊勤務手当については、この規程に定めのあるもののほか、別に定める。
 超過勤務手当や深夜手当についても同様だ。つまり、「別に定める」ことで手当を容易に増やせる。
 宿日直手当の増額も、局長の一存で可能にしてある―。
 同第23条 ・・・宿日直手当の支給額は、宿直勤務又は日直勤務1回について5600円とする。ただし、局長が特に必要があると認めるときは、この額に800円以内の額を加算することがある。

 「お手盛り」のDNAが、40年以上も前に規程の中に埋め込まれていたのだ。市議会などのチェック機能が働けば予防も可能だったが、経過が示す通り、市議会は逆に、市・労組の「利益共同体」に加わっていったのである。

法律違反の疑い

 大阪市の例を持ち出すまでもなく、地方公務員の厚遇ぶりは行政上、無視できない“危険水域”に入ったといえる。地域住民の所得との異常な格差は、法律違反さえ疑われるほどだ。なぜなら、地方公務員法第24条は、次のように定めているからだ。
 「職員の給与は、(中略)民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない」
 地方公務員の給与は、国家公務員の給与だけでなく民間の水準とも釣り合っていなければならない、という意味だが、手当などの過剰支給はこの原則に反しているのである。

 改革するには、制度設計をし直すしかない。財政制度等審議会によれば、地方の人件費割合は一般歳出総額の33%(国は同10%、04年度計画ベース)に及ぶ。手当をむやみに付けるほかに、職員に対し実際の職務に対応する級より「上位級」に格付けする慣行もあるためだ。監視役の都道府県人事委員会の事務局職員数は全国平均でわずか19人。このチェック機能の強化を含め、対策を根本から立て直すほかない。